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第三話 初仕事

1754年6月13日 ドーバー海峡 14門ブリッグ型戦闘スループ "ボルチモナ"


「おい、…きろ。おい!いい加減起きろ!」


いきなり襲って来た頰をつねられたような痛みで俺は目を覚ました。

それと同時に地面の揺れと潮の匂いを感じた。


「ようやく起きたか、新兵。さっさと甲板に行かねーとの掌帆兵曹の鞭打ちが待ってるぞ。」

「あ、ああ。甲板…ん?て事はここは船だよな。」

「ああ、その通りだ。」

「てことはやはり俺は強制徴募に遭ったという事か…。」

「まあ、良いじゃねーか。陸軍に入るよりかはマシじゃねーか。」

「いや、目くそ鼻くその違いだろ。て言うか、あんた誰だ?」

「俺か?俺の名はトーマス・サレンダーだ。因みに1等水兵だぞ。俺の名をしっかり覚えておけよ?なにせ将来、俺は英国艦隊を統べる大提督になる男なんだから。」


トーマスはドヤ顔でそう名乗った。


「お、おう。因みに俺の名は…」


俺も名乗ろうとした瞬間、カンカンカンと鐘の音がなった。


「やっべ。交代の時間だ。おい、こんな所でダラダラしてないで、さっさと甲板に行くぞ!」


トーマスは切羽詰まった声でそう言うと、走り出した。だが、少し進んだ所で突然立ち止まり、後ろに振り返って大きく手を広げながら言った。


「とはいえ、これだけは言っておこう。…ようこそ、ボルチモナ号へ。歓迎するよ。」


目の前の男はそれだけ言うと、再び物凄い勢いで走り出した。


「ま、待ってくれよ!俺はこの船の構造を知らねーんだ。」


俺は情けない声でそう抗議しながら謎の男の後を急いで追った。


何とかトーマスを追い昇降階段を使い後甲板へ上がると、そこには沢山の男達が各々の仕事に就いていた。

甲板で見慣れない光景に見惚れていると、身なりのいい男が大声で「マストに登れ!」と言うと船乗り達が大急ぎで段索(船の横についている縄梯子の索具)を使いマストを登って行った。

これぞ船乗り!と言う光景をぼーと見ていると、トーマスが目の前に現れ話しかけて来た。


「そういや、お前なんて名前だっけ?」

「ああ、すまない。名乗るのが遅くなってしまった。俺の名はジョン・ハワードだ。よろしく。」

「ああ、よろしく。では、ジョンよ。こんな所で突っ立てないで俺についてこい。船乗りの仕事を教えてやる。…遅れるなよ?さもないと鞭打ちが待ってるぞ?」


トーマスはそう言うと、近くに合った段索を使い後甲板にある二十メートルは確実にある一番大きなマストを登り出した。


「おいおい、マジかよ…あの高さのマストを登るか。」


俺も嫌々ながらトーマスの後を追い、マストを登り出した。


怖い怖い死ぬ程怖い。命綱無しで揺れている船のマストを登るとか馬鹿だろ。

と言うかトーマスの奴、もう帆桁(帆を吊り下げる横向きの柱)に着いていやがる。猿かよ…。

まったくニヤニヤしながら俺を見やがって…腹が立つな。

俺はこの苛立ちを糧にし、一気に段索を登った。


「おい、ジョン。お前は新人だから臆病口(マストの途中にある物見の足場。登り方が外側と内側の2通りあり、熟練の水兵は危険な外側から登り、新人の水兵は内側から安全に登る。マストに2つある。)を使え!」

「わ、分かった。」


俺はトーマスの指示通り臆病口を使い、やっとの思いで戦闘檣楼(物見の足場)に着いた。

ふう、と息を吐いていると上にある帆桁からトーマスの声が聞こえた。


「よし、そこまで行けたなら残るは半分だけだ。そしたら俺のいる帆桁の高さまで登り、帆桁の足場綱(帆桁の足場の綱)に飛び移れ!」

「半分って…マジかよ…。気合いで一気に行くしかないよな。」


恐らく俺は死ねそうな顔をしながら、トーマスのいる帆桁の足場綱まで向かった。

2、3分かけて足場綱に着くとニッコニコのトーマスが待ち構えていた。


「まあ、新人にしちゃ〜早いな。俺レベルになると1分以内にここまで来れるがな。」


トーマスはそう自慢すると、がーはっははと笑った。


殴りたいこの笑顔。という気持ちを何とか鎮め、トーマスに話しかけた。


「で?ここからどうすれば良いんだよ?」

「ん?まあ、このマストの帆桁に持ち場がある奴等が全員着くまで待機だ。」

「は?こんな所でか?」

「そうだ。俺ら檣楼員の仕事はな、風が強い時に帆を折り畳んだり、風が弱い時に降ろしたりする事だ。そんな作業を少人数ではやり難いからな。」


なるほど、よくよく考えれば分かる話だった。

つまりは風に合わせて帆の大きさを調整するということか。

え?停泊や速度を落としたい時以外に帆を折り畳む理由は何だって?

それは簡単な事だ。風が強い時に帆を広げ過ぎると風の力でマストが折れてしまうだろう。


「帆を少し下ろせ!」


そんな話をしていると下の甲板からその様な号令が下った。

そうすると、檣楼 が一斉に作業を開始したのを見て、俺もトーマスの手元の見様見真似で作業始めた。

すると、トーマスが作業をしながら話かけて来た。


「ジョン、慣れない内は下を絶対見るなよ。それと、帆を下ろす為に縄を緩める時、帆の折り目に風が入って折り目の帆が膨らみ足場綱にいる俺らを落とすことがある。気をつけろ。俺はそれで落ちて死んだ奴を5人は見てる。」

「マジか…。分かった。気をつけるよ。」

「因みにだが、お前が檣楼員になった理由は俺がお前の教育係に立候補したからだ。もし、俺が立候補せず、もう少し安全な持ち場の奴が教育係だったらお前も、もう少し安全な持ち場だったかもな。」


トーマスは悪い顔をしながら俺にとんでもない事実を教えて来た。


「トーマス、テメェ!一生恨んでやるからな!」

「がーはっはは。その顔を見たかったんだよ!」


そんな事を話している内に帆の大きさを調整し終わったのか降りてこいとの指示が下りた。


「じゃあ、さっさとこんな所からおさらばするぞ。」


トーマスはそう言うと猿の様に段索を使い颯爽と降りて行った。







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