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第二話 強制徴募

1754年6月13日 早朝 イギリス ロンドン スラム街


「はい、どうぞ。」

「あ、ありがてぇ。ありがとござんます。」

「いえいえ、これも貴族の勤めで御座いますから。」


汚い身なりの男が綺麗な身なりの女から食べ物を与えられていた。

そして、汚い身なりの男の後ろには長蛇の列が出来ており、ノブレス・オブリージュを実践している貴族に貧民が群がるという、まさにスラムといえる光景がそこにはあった。

そして、我等がジョン・ハワードもその光景のスラム側の一部として存在していた。


「はい、どうぞ。」

「ありがとございます。」


俺は軽く貴族令嬢と思わしき人物に頭を下げ、今日もなんとか朝飯にありつくことが出来た。

はあ、それにしてもこれを食べたら今日も出勤か…。

俺がこんな鬱蒼とした事を口ずさむには正当な理由がある。

俺は何とかロンドンに移住し、紡績工の職を得た。しかし、この紡績工という仕事には休みというものが存在しないのである。しかも俺は子供という事もあって、ただでさえ少ない給料が他の労働者よりも低い。

まったく、この時代に労基があれば即刻通報してやるのに…。まあ、労基があれば子供の俺は働けないのだが。

そんな金がなく、余裕のない俺にも唯一趣味と言えるものがある。それは食だ。もっと言うと、酒場でビールと共にイギリス料理、特にミートパイを食う事だ。

え?イギリス料理はクソ不味いだろって?

はっはっは。えぐざくとりー。

確かに不味い。だが、クソ苦いビールと共に食すとこれが美味いんだなぁ。まあ、空腹という最高のスパイスがあるからかも知れんが。

さてさて、そんなくだらない事を考えていると、朝ご飯のパンとシチューを食べ終わってしまった。

はあ、今日も楽しい楽しい労働の時間が迫って来たようだ。


1754年6月13日 夕方 イギリス ロンドン 紡績工場


昼食も取らして貰えず、腹の虫が治らない俺は今日も健気に製造ノルマが終わらせた。

俺はノルマの報告と確認の為に、工場長の元に向かう。


「工場長、今日のノルマ分です。ご確認下さい。」


ぽっちゃりとした体型にハゲ頭の工場長にそう言うと、工場長は一枚、二枚…と織物の枚数と品質を確認していった。 


「うむ、お疲れさん。今日は週末だ。給金はいつも通り出口で受け取ってくれ。…まあ、要らんので有ればありがたく私が頂くがね。」

「うっす。ありがとうございます。」


俺は華麗に工場長のくだらないジョークを無視し、工場長の指示通り出口に給金を受け取りに行った。


「ジョン・ハワードです。」


俺はそう言いながら、給金の引き換え券を受付のおっさんに渡した。


「ジョン・ハワードね。…はい、今週もお疲れさん。」


受付のおっさんは名簿に書かれている俺の名前を確認し、印を付けると給金の入った袋を渡した。

俺は「あざっす。」と言うと、受付の前で中身がちゃんと入っているか確認してから外に出た。

ふう、それじゃ今日も行き付けの酒場へと行こうかな。

それから数分後、港に程近い酒場へと着いた。


「うっす。おっちゃん、今日もやってるかい?」

「ジョンじゃねーか。今日も来たか。安くしてやるからたんと呑んでけよ。」

「そんじゃ、お言葉に甘えて。」


俺はそう言うと、今日が給料日というのもあり、いつもより豪華な注文をしていった。


酒場に入ってだいぶ時間が経ち、だいぶ酔って来た頃、半裸で筋骨隆々の男達が酒場へと入って来た。

そして、酒に酔った俺の頭に響くような大声で一際豪華な身なりの男がとんでもない事を告げた。


「此処にいる者全員、国王陛下の権利の元、1753年6月13日付でイギリス海軍に任官する事を申し付ける。…連れて行け!」


その号令が掛かった瞬間、酒場は阿鼻叫喚の地獄へと様変わりした。客は悲鳴を上げながら次々と水兵に連行されていった。中には水兵に抵抗する者もいたが、あえなく殴り倒され連れて行かれた。


「おい!どういう事だ!今は戦時中じゃないぞ!」


俺が大声で怒鳴り付けると、身なりのいい男から返答が来た。


「残念だったな。前月の初頭に北米植民地にて、フランスと紛争状態に入った。貴様らには北米植民地への援軍に向かう艦船の船員として従軍してもらう。…店主よ、迷惑をかけたな。これは詫びの金だ。受け取れ。」


…俺は思わず絶句してしまった。

そんな…戦争が始まっていたと知っていたなら酒場なんかに近寄らなかったというのに。


「お、俺は水兵なんかになりたくない!」


俺はそう叫びながら酒場の出口に全力疾走した。が、出口まで後一歩というところで頭部に鈍器で殴られたような鈍い痛みがした。慌てて、目線を殴られた方向に向けると、そこには一人の水兵がいた。そして、水兵と目が合った気がしたその瞬間、もう一度鈍い痛みがし、そのまま俺の視界は暗転していった。

最後に誰かは分からないが、声が聞こえた。


「英国海軍へようこそ、勇敢な水兵よ。」






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