ショートストーリー 盗作騒ぎ
十一月中旬と言うのに十月上旬の陽気で汗ばむほどのある日曜日、
ある賞の入選作ばかり載った詩集が送られてきた。
木元はもう詩から足を洗ったことだし、関心はなかったが、まぁ、
せっかく送ってきてくれたのだし、むげに読みもせずゴミ箱行きはちょっと気が引けたので、
ぱらぱらとめくっていると「水」という詩が載っていた。
十五年ほど前「水の誕生日」という水に関する詩集を出していたので、気になったので読んでみた。
それに今も詩から足を洗ったとは言え、水に関する詩には興味があった。
見過ごす訳にはいかなかった。
読み終えて、この詩は木元の詩の盗作だと感じた。
作者は中学二年生の少女だ。
賞を企画した地方自治体に抗議の電話を入れればいいのだが、
前途のある中二の少女に盗作だと騒ぎ立てるのは酷だと思い、自分の詩集「水の誕生日」を送っておいた。
こうすれば無言で脅しを掛けて、今後盗作などしないよう注意を促されると感じた上でのことだった。
一週間後彼女から思いも掛けず返事が来た。
「すみません。でも、盗作はしましたが盗作したのは大阪の誰々の詩を見て書きました」
と盗作した人の名前と住所まで書いて謝ってきてくれた。
さっそくその人の処にも詩集を送った。
中二の少女を無言で脅した同じ手だ。
すると返事が返ってきて、私も中二の少女と同じ賞に応募したがぼくのは落選したと、返事が来た。
その上、ぼくが盗作した詩は神戸のある詩人の詩で、木元の詩ではないと書いてあった。
「そうですか。あの賞に佳作で入った中二の少女はぼくの詩を盗作していたんですか。
ぼくはその詩を一年ほど前同人誌に発表していましたのでね、それを見たんでしょう。
道理でぼくの詩とよく似ていると思っていました。でも、盗作だ。何て騒ぎ立てられませんでした。
ぼくの書いた水の詩も神戸の詩人が書いた詩の盗作なんで。でも、腑に落ちませんね。
ぼくの詩を盗作して懸賞応募に出した中二の少女が佳作で、盗作されたぼくの詩が選外だなんて皮肉ですね」
木元は感じた。
よい詩というものはある人がひとつの詩を盗作し、それをまた誰かが盗作し、また次の人がそれを見て盗作する。
これはもう、盗作と呼ばない。
それはれっきとしたオリジナル作品となるのかも知れない。
盗作はラッキョの皮みたいにむいても、むいても皮ばかりで実がないのだ。
いったい誰が最初に書いた詩か分からなくなってしまう。
と言う木元も実は社員旅行で行った北陸の電車の駅で買った地方新聞に水に関する詩が載っていたので、それをパクッたまでだ。
そして、このシュートストーリーも五木寛之の初期の短編小説集『盗作狩り』から方法論を盗作したのです。