表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
また明日、ここで  作者: 夏みかん
第3話
5/9

野望の行く先-前編-

帰宅早々にげんなりした顔をする遊馬を睨みつけているのは明日海である。結局女子会を満喫してご機嫌に帰宅したのも束の間、なかなか帰って来ない兄の動向が気になって気になって仕方がなく、何度も電話をしたほどだ。それもあっての疲れ顔を見せる遊馬はもそもそと靴を脱いで階段へと向かおうとするものの、その前に仁王立ちする明日海に大きなため息をついた。


「お前なぁ・・・」

「で、あのギャルギャルしい女とどうなったの?」

「なんもないよ・・・あの後大変だったんだからなぁ・・・もう修羅場でさぁ」


疲れているといった風にそう言うと明日海を押し退けて階段に向かう遊馬だったが、ガシッと右腕を抱きかかえるようにしてくる明日海のせいで転びそうになってしまった。


「何すんだよ?」

「何してきたの?」


一気に険悪なムードになった2人が睨み合う中、リビングから騒ぎを聞きつけた美智子が顔を出す。ここ最近はうって変わって仲睦まじくなった2人に安堵していただけに、元の状態に戻ったような今のこの状態にため息をついて2人の傍に歩み寄った。


「もう元に戻ったの?あんなに仲良かったのに・・・」


そんな美智子に助けを求める視線を送る遊馬に対し、明日海は抱き着いている遊馬の右腕に力を込めた。柔らかい感触が右腕を包み込んでいるものの、今の遊馬にとってはそれは気にならない。むしろうっとおしく思うほどだった。


「戻ってない!ただ、お兄ちゃんが浮気したから!」

「浮気?え?あんたたち、付き合ってるの?」

「付き合ってない!」

「付き合ってる!」


美智子の言葉に即座に反論した遊馬に対し、これまた即座にそれに反論する明日海。どうやらここ最近の様子と今の言葉から娘がかなりこじらせていたのだと悟った美智子は腕組みをしてため息をついた。


「とにかく、後でいいからちゃんと話し合いなさい・・・・その前に明日海はお風呂、いいわね?」

「・・・・・じゃぁ、お兄ちゃんと一緒に入る」

「あら、そうね、裸で語り合うのもいいかもね」

「いいわけないでしょ・・・」


この母娘はもうダメだと思う遊馬は妄想して悦に浸っている明日海を振りほどくと一気に階段を駆け上がった。あのしんどくも平穏な日々は完全に崩壊し、今やしんどくもストーカーに苛まれる日々だ。無視されていた頃が懐かしい思い出となった最近、遊馬の精神的疲労はピークを迎えつつあるのだった。



今日はログインさせてもらえないと判断した遊馬は前々から今夜はログインできないことを知らせていたものの、改めてメンバーにそれを通達すると大きなため息をついて座っている椅子を回転させた。自分のベッドの上であぐらをかいて腕組みをしている明日海を見やった遊馬は再び大きなため息をつくしかない。黄色のパジャマに身を包んだ明日海は不機嫌そうな顔を自分に向けつつ、時折壊れたかのように表情をだらしなく崩して恐怖を与えるような笑みを浮かべていた。紅葉とのことを色々と勘ぐってあれからのことを聞き出すために部屋まで乗り込んできたものの、大好きな兄の部屋、それもベッドの上に座っているという幸せが見事に表現された表裏真逆の表情を交互に見せているのだ。もうどうしていいか分からない遊馬だったが、早々に帰ってもらうために明日海たちと別れてからの話を切り出した。


「結局、あの後は30分はもめてた」

「なら30分したら帰ってこれたんじゃ?」

「まぁ、聞けって」


女性たちにもみくちゃにされ、逃げることも出来なくなった男は30分ほど言い訳に終始したものの、女性たちからの怒りの制裁を喰らって一旦は解放された。だが彼女たちのSNSや、野次馬のSNSによってその悪行と今回の騒動が大きく広められて世間的に終わりを迎えたのは間違いないだろう。それでも数名の女性たちは男を追っていったが、紅葉は男の顔面にさく裂させた強烈な鉄拳制裁によって胸がすいたようで、その後は遊馬を誘ってファーストフードの店に入ってやけ食いを始めたのだった。それでもやはり心のどこかに傷は残している為、泣きながらの食事となったのが言うまでもない。どう声をかけていいか分からない遊馬はただ聞き手に回ることで紅葉の胸の中にあるわだかまりや悲しみを受け止め、少しでもその重みを軽くしてあげようと努めたのだった。結果として3時間も店に居座ってしまったものの、紅葉は少しすっきりした表情で家路についたのだった。


「なるほど・・・・・・で、その店のお金は?」

「お金って?」

「おごったの?」

「え?ああ、まぁ、な」


その言葉を聞いた明日海は憤怒の形相で立ち上がるとその場で地団駄を踏んだ。柔らかいベッドの上だったので反動で転びそうになるものの、そこは怒りの力か踏ん張りきった上で反動を利用してベッドを飛び降りた。


「やっぱ好きなんでしょ?あのギャルギャルしい、浮気され女を!」

「言葉遣いがもう・・・・」

「どうなの?」


遊馬の両肩を持って激しく揺さぶる明日海はもう遊馬の知る明日海ではなくなっていた。きつい目で自分を睨み、無視をし、相手にしなかったあの明日海はもういない。いや、最初からいなかったのだろうが、それでもこの変わりようは恐怖でしかなかった。


「好きじゃないって・・・」

「ほんとに?」

「ああ」

「じゃぁ、好きな人は誰?」


鼻の穴を大きく開いてムフーっと息を吐きだす様は人間ではないようだ。美少女なはずの明日海の裏の面が出すぎていることが怖いが、今はそれをどうこうする気はない。ため息を心でついた遊馬は生気のない顔を明日海に向けるのが精いっぱいだった。


「誰もいない・・・これはマジ」

「ほ~んとにぃ~?」


心底疑っているといった風な明日海の言葉に今度はあからさまなため息をついてみせた。結局、何を言っても変に受け止められるだけの話だ。


「ホントだよ」

「・・・・・・・ホントのこと、言ってもいいんだよ?」

「なんだよ、ホントのことって?」


何故か頬を赤らめている明日海を不思議そうに見つめる遊馬。その目を見て何も伝わっていないことを理解した明日海は素早く遊馬の膝の上に座ると両手を首に回す。とろんとした表情に嫌な予感を爆発させ、さっきの言葉の意味を理解した遊馬が明日海を引きはがそうと身をよじるものの、そうはさせまいと明日海は椅子ごと遊馬を抱きしめた。風呂上がりのいい匂い、柔らかいその身体の感触が遊馬の中の男をくすぐるものの冷静でいさせるのは、明日海の変化に対応出来ていないためだ。元々仲が良かったのならば、理性がここまで保たれていたのか不明だ。もっとも、遊馬は性的なことにも興味が薄く、恋愛感情自体もないのではないかと自分で認識しているだけにその可能性は低いのだろうが。とにかくがっちりと固められた遊馬は目の前にいる明日海が恍惚の表情を浮かべてそっと目を閉じ、唇を奪おうとしていることに恐怖を覚えていた。暴れても無駄とばかりにがっちりとホールドされている現状から逃れるための手段は1つしかなかった。


「キスしたら、嫌いになるぞ!」


咄嗟に叫んだその言葉の威力は絶大で、明日海は目を見開いて遊馬から飛び降りた。目は潤み、悲しみと困惑の入り混じった表情で遊馬を見つめている。ようやく解放された遊馬は大きく息を吐き、それから冷静な目で明日海を見つめた。


「俺の気持ちを無視してキスとかしたら嫌いになる」


冷たい目でそう言われた明日海は涙目をそのままにぎゅっと唇をきつく結んだ。その表情を見れば彼女が自分に本気だと理解できるのだが、その行動までは理解できない。自分の気持ちを無視して押し付けてくる行為など嫌悪感でしかないからだ。


「お前は普通にしてれば可愛いし、その好意は本物だ。だから、まっすぐに気持ちをぶつけてくれれば俺もそれに応えたい、と思うかもしれない」

「思うかも?」

「お前に対して恋愛感情はない。勿論、横澤にも、あのギャルのことだけど・・・同じだよ」

「・・・・普通って・・・・・」

「極端なんだよ、お前は」

「私はこれが普通なの!」

「だったら俺はお前を好きにはならない」


はっきりとそう言われた明日海はぽろぽろと涙を流して遊馬を動揺させる。かといってそれ以上の言葉をかけるつもりはなく、後は明日海自身の意識改革を期待するしかなかった。


「・・・・・わかった」

「なら・・・」

「絶対に私を好きにさせるから!」


遊馬の言葉を遮った明日海は涙も拭わずに過去最高の不気味な笑顔を残し、そのまま部屋を出て行った。ホッとする遊馬だったが、最後の言葉が気になるものの今はただ平穏な日常が戻ることを祈るばかりだった。



ギルドの拠点に入ったロストワンはそこにいるブレイズとザナドゥに挨拶すると自分の椅子に腰かけた。ここ2日ほどはアシュリーもムジも顔を見せておらず、2人とも自由にクエストをこなしているという情報しか入って来なかった。そろそろ10周年記念イベントもこなそうという時期ではあったものの、元々ムジはソロで楽しみたいという申し出もあり、どうするかを話し合っていた時だった。


「おっす!」


そう言いながら入ってきたのはアシュリーだ。ロストワンを見て小さく微笑むアシュリーは現実世界でも以前とまではいかないまでも少しだけ兄との距離を開けている状態にあった。さすがにEDENでまで迫ってくることはないと思うロストワンだがそこは油断しない。何せ相手はあの明日海なのだから。


「よぉ!どうだい、成果は?」


ブレイズの言葉に得意げな顔をしてみせたアシュリーは自分のステータス画面を開いてみんなに見えるように表示する。それと同時に入って来たミラージュが軽く挨拶をしてその画面に目をやった。その目が大きく見開いたのは何故か。


「え?」

「お?」

「うそでしょぉ?」


ブレイズ、ザナドゥ、ミラージュが声を上げる中、ロストワンは優しい目でアシュリーを見つめた。


「リライから聞いてる・・・頑張ったんだな」


ここ2日ほどは現実世界でほとんど会話が無かったこともあり、褒められたことも含めてアシュリーは天にも昇る気持ちを全身で表現する。それを見たブレイズたちはただ微笑ましいといった表情で頷いていた。


「しかしリライのフォローがあったとはいえ、まさかのレベル300!おめでとう!これでスキルが使えるな?で、どんなスキルなんだい?」


ブレイズの言葉に得意げな顔をしてみせるアシュリーはそれは戦闘でと答えるのみだが、かなりいいスキルなのかそこには自信が覗いている。だからこそ聞きたい気持ちが大きくなるなったミラージュが問い詰めようと立ち上がった時だった、勢いよく扉が開いたために全員がそちらに顔を向ける。ムジが来たのかと思ったのだが、それは違った。


「これはまた・・・・ウチのエントランスより狭いギルドだなぁ」


金色の長い前髪が青い瞳の片目を覆っている。趣味の悪い黄金の鎧に深紅のマント姿のその男は仲間と思しき5人を引き連れてどかどかと拠点に足を踏み入れた。誰かなどはその姿を見れば分かる、いわば有名人である。


「セルバンテス、か」


吐き捨てるようにそう呟くブレイズを見やるその目は下衆を見る目だ。自分よりはるかに格下であるブレイズを見下すこの男はアシュリーやザナドゥさえも嫌悪感を抱く男である。だからこそミラージュは露骨に嫌な顔をしてみせた。


「まぁ、低俗な連中を従えている男には似合いの場所だ」


そう言うと空いている椅子を引き寄せてドカッと座ると足を大きく組みだす。彼の仲間たちがその背後で仁王立ちをするその状態は王と従者といった感じであった。仲間は全て男で固めている。それもかなりの上位モンスター素材で出来た最高位の武具ばかりを着込んだ猛者ばかりだ。


「何の用だい、セルバンテス・・・不動のランキング3位が来る場所じゃないぜ」

「ああ、そうさ・・・・不動の1位、チャンピオンのいるギルドだから来たんだが、まさかこんな犬小屋以下とは思わなかった・・・俺には似合わない」


そう言うとセルバンテスの後ろに控えていた仲間たちが小さく下卑た笑いを漏らした。


「なら帰ってくれていい」


不遜な態度を続ける無粋な輩に怒りを燃やすアシュリーやザナドゥ、ブレイズと違って冷静なロストワンがゆっくりとセルバンテスの前に歩み寄った。ミラージュは相手にもせず肘をついた手に顎を乗せて黙って様子を伺っている。あのブレイズですら怒りの目を向けている中でどうしてこうも冷静なのか。


「用がまだだよ、ロストワン」

「用?」

「7vs7、知ってるよなぁ?」

「セブン・バーサス・セブン・・・・10周年限定イベント、か・・・・まさかのお誘いか?」


ブレイズがゆっくりと立ち上がるのを見つつ、セルバンテスは仰々しい動きで足を組み替える。その仕草もまたいやらしいと思うアシュリーは嫌悪感に押しつぶされそうになっていた。そんな中でロストワンは不敵な笑みを浮かべているセルバンテスを静かに見下ろしている。その表情が気に食わないセルバンテスだが表には出さず余裕のある笑みを浮かべていた。元々気に入らない存在であるロストワンはランキングやレベルこそ自分より上だが、それ以外は劣っているという認識だ。現実世界でもそれは同じで、ここにいる誰よりも立場や地位が上の人間だという自負があった。


「どうだ、ロストワン、この7vs7、ウチとやろうぜ」


嫌味な口調でそう言うと全員を見やる。


「断る」


すぐにそう言ったロストワンに対し、アシュリーとザナドゥ、ブレイズが迫って異議を申し立てた。


「いや受けよう!こんなやつらに負けないよ!」

「そうさ!」

「返り討ちにすりゃぁいい」

「そうだよ!絶対負けない!」


ザナドゥの勢いのある言葉にアシュリーとブレイズも頷く。こういう時は冷静なブレイズが何故こうも熱くなっているのか不思議なロストワンだが、受ける理由がないという目をしてみせた。


「こいつがただ単に誘ってくるわけがないよ」


冷たい目で自分を見降ろす視線が気に入らないセルバンテスが組んでいた足を戻し、ゆっくりと立ち上がった。


「メンバーはやる気なのに、リーダーは逃げ腰だ・・・・そうやって自分よりレベルの低い連中を集めて王様を気取っている時点で、拠点もコレだし、せいぜいしれてるな」


わざとらしい言い方をしてそうあざ笑うセルバンテスに呼応して仲間たちも大きく笑いだす。それが余計に3人に火を点けた、セルバンテスの策略通りに。


「なめんな、万年3位が!やってやるさ!」


掴みかからん勢いのアシュリーにザナドゥとブレイズも頷いた。


「その万年3位のギルドはギルドランキング1位・・・・やるだけ無駄よ。どうせあっちが勝ったらって何か条件を付けるでしょうしね」


冷静にそう言ったのはミラージュだった。セルバンテスはミラージュを見て小さく微笑みを浮かべる。下卑た、人を見下した目で。こういう美人アバターに設定している女ほど現実世界では見かけが悪いと相場は決まっている。だからこそ自分のギルドメンバーは現地世界での男に限定し、それを証明させた上で選んでいる。ギルド内で色恋沙汰は御免だからだ。そのためセルバンテスはミラージュのリアルでの姿が醜いものだと勝手に決めているが、そんな目にも負けず、ミラージュは不敵な笑みを浮かべて見せた。


「大企業アクセスの跡取りで常務、だけど大の女好き。肩書だけで仕事なんかせずにハンターワールドで遊び惚けながらオフ会を企画しては現実世界の女性を容姿で見極めて手を出している下衆男、そんな男の話に乗る必要なんかないわ」


その言葉に驚愕の表情を浮かべたセルバンテスがたじろぐ。何故それを、何故自分の正体を知っているのか、そればかりが頭の中を支配していく。仲間にさえリアルでの正体は明かしていないというのに。うろたえるセルバンテスがミラージュの正体を考えてみるが、当然ながら答えなど出ない。


「ふん、じゃぁ、逃げるってことでいいな・・・所詮は下位ギルド、ロストワンの自己満足ギルドだ」


とにかく計画を遂行することに頭を切換えるものの、そこにはさっきまでの不遜な態度が見えない。動揺が続いているとわかるロストワンにしてもこの挑発に乗る必要はないと思っていた。


「訂正なさい」


背後から聞こえた声に全員が振り返れば、そこにいるのは青い髪の女だ。


「ムジ!」

「最後の仲間か・・・・これまた低いレベルだなぁ」


見た目で勝手に判断した言い方だが、ペッパーズの面々のデータは頭に入っている。どのメンバーもレベルもランキングも高くはなく、突出してロストワンがいるだけのつまらない連中だ。このムジもまた低いレベルでスキルすら習得していない雑魚でしかない。


「ロストワン、受けましょう」


ムジがきっぱりとそう言い切り、ミラージュとロストワン以外がすぐさま賛同する。ため息をついたのはミラージュで、その後ゆっくりと立ち上がった。勝算は薄いものの、それはそれでどうにかなりそうな気もしている。それに、この男に色んな意味で制裁を加えるにはちょうどいいのかもしれない。だからミラージュは意味ありげな視線をわざとセルバンテスにぶつけた。


「で、何を賭けるの?」

「ほぉ、話が早いな」

「自己顕示欲の塊みたいなあなただもの・・・どうせくだらないことでも考えているのでしょう?」


ミラージュの挑発じみた言い方だが、セルバンテスの自尊心に火を点けるにはちょうどよかった。こういう下衆な男への挑発は得意なのだから。


「くだらないかどうかは別にして、負けた方のギルドは解散ってのはどうだい?」

「それだけぇ?」

「それだけだ・・・・あとはまぁ、個人的にロストワンに勝負を挑むだけ。まずは7vs7だよ」


ミラージュのそれ以上の挑発には乗らずに冷静さを前に出した言い方をするセルバンテスだが、ミラージュの正体は気になって仕方がない。もしかするとこの勝負を左右する存在なのかもしれないのだから。そんなミラージュは困った顔をするロストワンを見やった。


「大丈夫よマスター、きっと勝てる。助っ人1人を強力な人に選べばなおのこと」

「いいや、俺たちだけでも十分だ!」

「受けるぜ」

「受ける!」

「負けないし」


仲間たちの決意は固く、また、その意思を覆すことが出来ないと判断したロストワンは深々とため息をついた。ギルドの解散を賭けた勝負にしてはこちらの分が悪すぎる。ギルドランキングやレベルの他、各々のレベルにしても相手には遠く及ばないのだから。セルバンテス率いるギルド、アバロンのメンバーは全員がランキング50位以内であり、セルバンテスの3位を筆頭に11位と13位がいる最上位のギルドだ。7vs7は同じステータスを持つ全く同じモンスターをいかに早く倒せるかを競うもの。つまりは武器やスキルが重要視される中で、ペッパーズではミラージュとムジはスキルを得ていないし、武装にしてもアバロンに総合的に劣っている。そういった意味でもこの勝負は回避するべきだろう。勝つためにはじっくりと戦略を練って対応する必要があるだけに、勝負を受けるとしても時間的猶予が欲しい。


「わかった・・・その勝負、受けよう。ただし、勝負は一週間後、でいいか?」


ロストワンの言葉に醜悪な笑みを浮かべたセルバンテスはこみ上げてくる笑いを声に出さないように四苦八苦しつつ頷いて返した。これで予定通りギルドを解散させ、残ったロストワンに心理戦を仕掛けて1vs1の限定イベントに引き釣り出して引退させればいい。今の自分ではランキング1位にはなれないことから考えた姑息な手だが、このワールドで1位を取ることがどれだけのメリットになるかを考えればそんなことなど小さなことだ。


「オーケェ!じゃぁ、一週間後だな」

「せいぜいいい助っ人を探すんだな、万年3位」

「おたくのギルドの方がその心配をするべきだよぉ・・・何せ、こちらはもう決まっているのだから」


ザナドゥの挑発にそう返したセルバンテスの笑みが醜悪さを増す。ここまで用意周到であることはロストワンには予想できたが、仲間はそうでなかったらしい。内心で舌打ちをするブレイズを見つつ、セルバンテスが入り口の方を振り返るのと、そこに立っていたムジを突き飛ばす人物が入ってきたのはほぼ同時だった。


「話はまとまったのかい?」


背の高い、そして不気味な顔をした男がそう声を発した。声にはエコーがかっており、その不気味さを増す。いや、やはり一番不気味なのはその顔だ。目の部分だけを丸くくり抜いた白い仮面、そして肩までかかる長い黒髪。まるで亡霊のようなその姿はここにいる全員が認知している者だった。漆黒の鎧もまた禍々しいものである。


「ああ、まとまったよジゴマ・・・・勝負は一週間後、だ」

「明日じゃないのか?」

「準備ぐらいさせてやろう、何せ7人目探しもこれからなんだからなぁ、こいつら」


そう言いながら立ち去ろうと動くセルバンテスの横に立つ仮面の男ジゴマはその仮面の下の口を笑みに変えた。


「ジゴマ、だと?」


ブレイズの言葉に仮面の下の目を動かすジゴマ。そんなジゴマの肩に手を置くセルバンテスは芝居がかった動きをしてペッパーズのメンバーをぐるりと見渡した。


「そう、我らの助っ人、7人目はこのジゴマだ!知っての通り、わずか半年でランキングを200以上も上げた注目の存在だ!ギルドを持たないこの男こそが我らの助っ人!さぁ、どうする?今からでも撤回すれば、この勝負を止めてもいい」


明らかな挑発だが、もう後には引けない。ますます勝ち目が薄くなった面々が意気消沈する中、ロストワンはゆっくりと2人に歩み寄った。


「そうまでしてこの弱小ギルドを潰したいというくだらない思惑は理解した。でも、俺たちは負けないし、下がらない。お前のギルドを解散させて、1vs1でもお前を負かす。どうせその時の条件は引退だろ?乗ってやるよ、そのすべてに」


不敵な笑みを浮かべるロストワンにセルバンテスだけでなく、仲間たちも驚いた顔をしてみせた。そんなロストワンをじっと見つめるジゴマがいる。そんなジゴマに視線を向けたロストワンは笑みをかき消した。不気味な存在だけに気を抜けないからだ。だがセルバンテスと違ってこのジゴマには相手を下にみた態度や視線は感じない。だからこそ不気味なのだが。


「さぁ、行こうぜセルバンテス・・・・話はまとまったんだしな」


そう言うとさっさと出て行くジゴマだが、仮面の下の口元には小さな笑みが浮かんでいた。楽しくて仕方がない、そんな笑みが。セルバンテスは何も言わずにロストワンを一睨みしてから出て行く。その後、全員が出て行ったために本来のギルドらしいメンバーだけの空間に戻ったのだった。緊張が解けた面々が力なく椅子に座る中、ロストワンは顎に手を添えて何かを考え込む仕草を取った。


「で、どうする?7人目」


ミラージュの言葉にブレイズがそっちを見るが、アシュリーが勢いよく立ち上がった。


「僕、リライに頼んで来るよ!向こうが3位と4位なら、こっちは1位と2位だ!」


そう言うとすごい勢いで拠点を出て行くアシュリー。止める間もなく出て行ったその動きにため息をしか出ず、ロストワンはリライを引き入れたとしても変わらず分が悪いことに頭を悩ませる。


「リライが助っ人なら、どうにかなる、かな?」


ザナドゥがそう呟くものの、それでも勝機はほぼないと思うロストワンはどうするかを考える。それにリライはギルドも作らずにソロで楽しんでいるプレイヤーだ、助っ人に来てくれるかどうかもわからない。


「とりあえず戦略はマスターやブレイズに任せる・・・私は私であいつを揺さぶってみるから」


ミラージュはそう言うと別れの言葉も言わずに唐突にログアウトして消えた。鼻でため息をつくブレイズを見やったのはザナドゥだ。ムジは途中から来ただけに、どうしてアバロンと対決になったのかの経緯を知りたいところだが、雰囲気的にそれが聞けない状況を把握しているために何も言わない。そもそもよくわからずに言葉尻だけを捉えてみんなを煽ったのは自分なのだから。


「セルバンテスのこと、ミラージュは知ってたんだね・・・ブレイズは?」

「いや、知らなかった。ただ、アクセスといえばIT企業としては世界的に大きい・・・EDENの設立や運営に介入できなかったとはいえ、その技術力は高く、そこの御曹司となれば大金持ちだよ、俺やミラージュなんかより遥かに、な」


つまり潤沢な資金と時間を持つ男ということだ。しかもミラージュが言った言葉が真実であれば、かなりの下衆ということになる。


「現実世界で揺さぶりをかけても、ジゴマがいる・・・・あいつは強い」


わずか半年で総合ランキング4位まで浮上させたその腕は確かで、今一番勢いのあるプレイヤーだ。しかもそのスキルは特殊であり、7vs7でも最初からそれを発揮すればこちらの勝機はゼロに近くなる。つまり、討伐までの速さを競う7vs7において、こちら側のスキルではその差を埋められないということだ。


「どうするかは考えるよ・・・みんなは助っ人も他に心当たりがあるなら動いてほしい。とにかく、7vs7を経験したギルドからも情報収集してくれ・・・・勝つためには情報が必要だから」


ロストワンの言葉にザナドゥがわかったと返事をしてギルドを出て行き、ブレイズは端末を操作し始める。ロストワンが腕組みをして考え込む仕草を取る中、ムジがそっと近づいた。


「私、余計なこと言ったかな?」


その言葉にロストワンとブレイズが顔を向ける。彼女の顔は無表情だが、雰囲気は悲壮感にあふれていた。わけもわからず最初に受けようと言った言葉を後悔している、そんな感じだ。


「お前さんが言わなくても誰かが言ってた・・・・ああまで言われて引き下がるほど、冷めたヤツはここにはいないからさ」


ブレイズの言葉にロストワンが苦笑する。彼もまた同じだ。止めようと思ったが止められない、それを理解していたからこそどう駆け引きするかに比重を置いたのだから。最初から、勝ち目がない戦いを持ち掛けられた時からこうなることは分かっていた。だからといって簡単に負ける気などない。どうしても1位になりたいセルバンテスにとって、まずは一番の邪魔者である自分を潰しに来たのだろうことは予想に容易い。リライはギルド持たないだけに、後でどうとでもできるとの判断なのだろうから。どのワールドでも1位を取るということは大きな名誉になるからだ。万年3位という地位に我慢出来なくなっての行動だろう。


「リライ、期待できる?」


ムジの言葉に考え込むロストワンだが、やはり期待は出来ない。かといってリライ以上の助っ人はいないだろう。こちらの戦力を理解し、それで上手く立ち回れる者はそういないのだから。


「期待は薄いかもね・・・それに彼の助っ人があっても勝てるかどうかわからない」

「でも、勝つ確率は上がる、よな」


能力的なことを言えば彼以上の存在はない。実力も武器も、全てが揃っている。


「7vs7の特性からいけば・・・リライが加入してもこちらの不利は変わらない。全く同じフィールドに全く同じモンスター・・・ただ、モンスターは移動出来ないがプレイヤーは1人だけお互いのフィールドを行き来できる・・・つまり、邪魔が出来るってことだからね。ヤツらの邪魔が出来るのはそれなりの実力者じゃなきゃだめだ。そうなるとこちらは限定されるし、邪魔に出すと戦力が落ちる」

「向こうは全員が、ロストワンを除いてこちらより上の実力者だしなぁ」


だからこその助っ人、より強い7人目が求められている。つまりはこの勝負を受けた時点で相当なハンデを背負うことになるのだ。通常は実力の近いギルド同士でするものであって、こうまで実力差がある中で行うものではない。だからこそ、セルバンテスは挑発的に仕掛けてきたのだから。


「あとはどう上手く戦うか、だな」


そのため息交じりの言葉に、ムジはどうにかしてロストワンの力になりたいと強く願うのだった。



リライがもうすでにログアウトしたと知ったアシュリーもすぐに追うようにログアウトする。自室に意識が戻ったのを確認し、すぐさまスマホを手にして電話をかけた。今日も一緒に修行という名のクエストをしていただけに、学校ではなく家にいるはずだ。もどかしくも長く短いコール音の後で回線が繋がった。


「あ、先生?ちょっと頼みがあるんだけど」


明日海は早口でそう言うと前置きもせずに助っ人の依頼をする。すると来美はまず返事をせずにそうなった経緯を聞いてきた。それは当然のことなので明日海はその経緯を細かく説明していく。セルバンテスの乱入から7vs7の勝負を仕掛けてきたこと、そして相手の助っ人がジゴマであること。ミラージュのことも含めて話を終えた時、明日海が再度の依頼をした。どうしてもこの戦いにはリライの参戦が必要不可欠なのだから。


「お願い!先生!」

『んー・・・でも勝ち目ないよ・・・全員のレベル的にもさぁ』

「分かってる!分かっててお願いしてんの!」

『負けたら解散って、そんな条件でなんで受けるかなぁ』

「だぁってぇ・・・」

『でも、解散か・・・・そうなったら、私がギルド起ち上げて彼を入れる、ってことも・・・』


邪な考えを口にした挙句に涎をすするような音も聞こえてくる。これは何としても助っ人に入れて解散を阻止する必要があると感じた明日海も必死になる。


「マジでお願い!ギルドだけじゃない!このままじゃ、お兄ちゃんの引退も掛かってくるんだから!」

『え?』


明日海は7vs7の後でセルバンテスとロストワンの引退を賭けた勝負もあると説明した。だが、それに対しては来美の反応は薄い。それもそうだろう、どんなにセルバンテスが罠を張ろうが、1vs1は運営が用意した初期ステータスで全てが同じ能力の武器防具を使用する上に、戦うモンスターのステータスも全く同じでスキルの使用は無しというものだからだ。装備やスキルでのハンデはなく、本当に本人の実力勝負になるのだからロストワンが負ける要素はない。だからギルド解散という目に遭わせて心理的なダメージや心の揺さぶりをかけてきたのだろう。


「とにかく!マジ、お願い!」

『どうせ助っ人しないと色々バラすってんでしょ?はいはい、分かりましたよ!で、いつだっけ?』


そこまで脅迫するつもりは、多少はあった明日海だが、意外とすんなりいったことにホッとする。


「1週間後」

『・・・・んと、1週間後、か・・・・・え?あー・・・・・・こりゃダメだ』

「なぁんで!なにが!どうして!ふざけんな!」


優等生の明日海にはない言葉遣いだが、来美はその本性を知っているだけに驚かない。そもそも明日海の修行に付き合ったのも、数々の助言や助太刀も、自分が遊馬に少しだけ好意を持っていることがバレた結果であり、その際の黒明日海を知ったからだ。彼女の遊馬への愛は本物だが、それは恐ろしく一方的で勝手で、怖い愛なのだから。


『合宿なのよ!部活の!』

「端末持ってけばいいでしょ!」

『顧問が合宿にEDENの端末持ちこんでゲームなんてありえないでしょ?それに副顧問の原田先生も一緒だし、そういう時間ないの!』

「法事か何かでっちあげて休めばいい!」

『あのね、そういうの、バレるから!バレたらクビだから!』

「こっちと合宿、どっちが大事なわけ?」

『合宿に決まってんでしょ!』

「お兄ちゃんと1日デート、キスハグエロ行為は無し、それをセッティングするって言っても?」

『え?・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・でもダメ』

「すんげー長い攻防があったみたいだけど?」

『とにかくダメ!じゃ!』


そう言って電話を切った来美に対して怒り心頭になるが、これは押してもどうにもならないだろう。深い深いため息をついてうなだれる明日海は舌打ちをしてベッドに寝転んだ。


「マジ、どうしよ」


脅せばどうにかなると思っていた明日海は当てが外れたことに意気消沈しつつ、他の助っ人を知らない自分を責めるのだった。



自分が行くには似つかわしくないお洒落なカフェを目の前に立ち尽くすしかない遊馬は入るまでにかなりの勇気と時間を費やした。約束の時間よりも早く来たために葛藤の時間はあったにせよ、遅れることは許されない。それは遊馬のポリシーで、人を待たせる行為はあってはならないというこれまでの一貫した行動にそれは現れている。一応、周囲を見渡して明日海が来ていないかを確認した遊馬は覚悟を決めた証として力を込めてドアを開き、店の中に入る。中はほぼ女性か、カップルばかりだ。店員がいらっしゃいませと声をかけてくるのと、奥の方で手を振る樹理亜を見つけたのがほぼ同時だったため、遊馬は店員に連れがいることを話して樹理亜のもとに向かった。対面するように座った遊馬がアイスコーヒーをオーダーし、樹理亜はハーブティーとチーズケーキをオーダーする。


「1分違いだったわね・・・・ところで、明日海ちゃん、来てないの?」


何かを察している樹理亜の言葉に小さく首を横に振った遊馬は、そんな自分を見て苦笑する樹理亜を見やった。今日も高そうな白いワンピース姿にブランドのバッグを横に置いている。薄めの化粧ながら美人である樹理亜はお嬢様的なオーラも発しているせいか、周りの女性からの視線を集める存在だった。そんな彼女の彼氏だと思われていないか不安な遊馬だが、平然としている樹理亜のおかげで多少は落ち着きを取り戻しつつあった。


「セルバンテスの件、どうするの?」


綺麗な指でお手拭きを開ける仕草も上品だ。そんな仕草を見つつ、遊馬も自分のお手拭きを手に取った。


「どうもこうも・・・リライに助っ人は断れました」


昨日の夜に血相を変えて部屋に飛び込んできた明日海の言葉に何となくそれは予想出来ていたせいかさほど驚きはしなかったものの、今後の事を考えると沈んだ気持ちになったのは言うまでもない。


「そっか・・・お手上げだね」

「まぁ、あとはどう立ち回るか、だけど」

「難しいわね・・・元々上位を目指そうってギルドじゃないし、楽しくやれればいいってだけだったしね」


ペッパーズの理念というべきものは楽しく遊ぼうというものだ。だからあえて上位を目指さないし、個々のレベルアップの補助的な位置づけでしかない。ソロ活動も制限しないし、来たい時に来ればいいというお気楽なギルドだ。対してアバロンは常に上位を目指し、集う時間もきっちりと決められて個よりもギルドを優先させた活動になっている。それもあってセルバンテスは総合的に3位に甘んじているというところだ。もっとも、ソロ活動を優先したところでロストワンやリライには及ばない実力なのは間違いないのだが。


「受けた以上は勝つしかないでしょう・・・相手がなんであれ」

「その確率がゼロでも?」

「ゼロではないよ・・・どんな勝負でも、ゼロはないし、かとって百もない」

「そうね・・・あなたのそういうところ、好きよ」


美人に微笑まれてそう言われては顔が赤くなる。樹理亜は優雅に水を一口飲むとじっと遊馬を見つめた。


「ゼロより少しだけ上の勝率を、もう少し高めるため、セルバンテスのリアルでの姿に揺さぶりをかける」

「どうやって?」

「明後日、EDEN運営主催のパーティがあるのよ、10周年を記念した、ね・・・私も父と一緒にそこに呼ばれているし、彼の会社の重役たちも呼ばれてる。おそらく、彼も来る・・・自己顕示欲の塊だしね、彼」


そういって微笑む樹理亜だが、上級階級の話はピンとも来ない。ただ、本人は知らないようだが樹理亜はセルバンテスの正体を知っているということは分かっている。どういうルートで知ったのかはこれから聞くとして、まずはそのパーティでどうするかを決めるのが先決だ。


「そこで、何かしらの動きを見せるってこと?」

「そう、きっとね。だからあなたも一緒に出て、2人で、ね」

「・・・・・・・・・・・え?なんで?どうして?」


思わ大きな声を上げてしまった遊馬が周囲の注目を受けるのも気にせず、樹理亜は運ばれてきたハーブティを自分の方に手繰り寄せて悪そうな笑みを浮かべて見せた。


「あなたは私の父の会社と提携したロストワン・・・・パーティに行く資格がある。そこで彼にモーションをかける。私は1人の女として、あなたはロストワンとして、そして私の彼氏として、ね」

「・・・・・どういうこと?」


最早思考が追い付かない。セルバンテスにモーションをかけるなら恋人などいない方が都合がいいはずだ。なのに何故自分が彼氏になる必要があるのか。


「筋書きは、こうよ」


そう言い、樹理亜は不敵な笑みを浮かべつつ昨日練った作戦を話して聞かせるのだった。



「すべて盤石だ・・・・あのギルドは解散し、動揺に怒り、様々な感情を抱え込んだあいつをさらに追い詰めてソロ対決に持ち込んで勝つ。それで俺は2位に浮上・・・・リライはここ数カ月ログイン回数も減っていることから、そう時間をかけなくても上に上がれる」


超高層マンションの一室、広い広い自室の窓から見える夜景を見つつ、白いガウンに身を包んだ男は醜悪な笑みを浮かべていた。


「ハンターワールドのチャンピオンになり、仮想でも現実でも有名になれば・・・女、地位、名誉、金が手に入る・・・くだらない会社運営などしなくとも悠々自適な生活が一生保障されるのだからなぁ」


止められない笑いを浮かべたまま、ガウンを脱いで無駄に引き締まった体をガラスに映す。自分の野望を胸に、その自身の身体にうっとりとした顔をしてみせた。


「数多くの女を抱いてきたが、これといった女はいない・・・・地位と金で女を釣れば、いい生活が出来る。結婚相手などピンとも来ないしなぁ・・・1人の女に縛られるほど、俺は小さな器じゃないんだ」


そう独り呟いた男は高笑いしつつシャワーを浴びに自室にある浴室に向かった。既に金も地位もあるが、それはまだちっぽけなものに過ぎない。現地世界だけの地位では今の世の中では価値が薄いのだから。だからこそ自分はハンターワールドで1位になる必要がある。それも歴代最強のロストワンを倒しての1位だ、その価値は通常の何倍にもなるのだから。


「いよいよ、この俺の時代だ!」


高らかにそう叫ぶと浴室に消えた。全ては計画通りに進んでいる、そういう醜悪で下衆な笑みを残したまま。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ