ゆで卵にはなりたくねぇだろ(義理の姉弟。ほのぼの)
薬臭く、白い空間。──病院。
ぼんやりと点滴に繋がれながら、相変わらずこの空気は好きじゃないと思う。
それなのに入院とは、ツイて無さ過ぎる。
「熱中症は、脳みそがゆで卵になることだって知ってたか?」
私を見下ろしながら、義理の弟くんが言った。
「いやあ、それは一番酷い状態でしょう?」
「馬鹿か、一番酷くてそれってことは、その前だってたいがいやばいってことだろ」
エアコンが、壊れた。
扇風機もあるし、窓を開けて、保冷材巻いてたらどうにかなんだろ、と思っていたが、甘かった。
〆切をきちんと守り、さて、掃除でもするかなと思ったのが間違いだったのかも知れない。
あ、これはヤバい? と思ったときには遅かった。
頭は痛いし、身体の節々も痛む。何と、腹も痛くなって下してしまったから、なお性質が悪い。
身体が熱い、と思っていたら、しばらくしてびっくりするほどの寒気を感じた。
「ははは、まあね。歯の根が噛み合わないなんて経験、生まれて初めてだよ。感動だなぁ」
「馬鹿なのか」
そんな風に床に転がっていた私を見付けたのは、LINEを交換した義弟だった。
思えば、この子は床に転がる私ばかり見ているのではないか。ウケる。
「母さんたちには言ってないだろうね?」
はあ、と彼がため息を吐いた。
「今のところは」
「重畳、重畳」
今、母さんは義父さんと旅行中だ。
楽しみに水を差しては悪い。
「ちょうじょう、ちょうじょう。じゃ、ねぇんだよ。アンタ、わかってんのか」
弟くんが、怖い顔で私をのぞき込む。
「俺が見付けなかったら、死んでたかも知れねぇんだぞ」
「……ハハッ、不甲斐ない」
それは、まったくそう。
流石にこれは死ぬかと思ったのもまた事実だから。
「申し訳なかったね。せっかくの休日を」
「そんなことはどうでもいい」
チッと舌を打って、彼はそばの丸椅子に腰かけた。
「アンタ、自分の命が大事じゃないのか」
「んー……作品を生み出すためには要るなとは思うけど」
だから、頭がゆで卵は困ってしまうのだけど。
「でも、作品を生み出すのが一番かな」
「……はあ」
弟くんは、もう何も言わなかった。
「とりあえず、エアコンはとっとと直せよな」
「あー……電話かけるの面倒くさいなぁ……」
「チッ」
俺がかける、と言って、彼はスマホを取り出した。
「悪いねぇ」
「……本当に悪いと思ってんのか、アンタは」
ネットで検索をしていた彼が、電話をするらしく席を立った。
「……悪いねえ」
その後ろ姿を眺めながら、私はもう一度謝罪した。
END.
※本当に熱中症はやばいので、早めの対処をお願いします。半分ほど実体験です。
※本当に熱中症はやばいので、早めの対処をお願いします。半分ほど実体験です。