妹のたくらみで私は妹いじめの悪役令嬢として愛する王太子に婚約破棄され、辺境送りとなった。そして20年後、何故か王弟が私の勤める魔法協会にやってきて私に婚約者になるように求めたが?
「はい?」
「アイシャ・アディール、私はあなたを婚約者としたい」
「36歳と24歳という年齢差を考えてそれいっているのか?」
「はい」
私は仮にも魔法協会の支部長であり、ここの管理者。
その私に求婚? 頭がおかしいのか? 私は頭を抱え込む。
昔婚約破棄された男の弟がやってくるとは思わなかった。
「支部長、この決済は……」
「そこにおいておけ」
私は部下に指示をし、権力者特権を使ってやってきた男に向かって出ていけと扉を指さしたが微動だにもしない……。
「はっきりいって迷惑だ、私は確かに傲慢な女だった。だから婚約破棄されたそれは認めよう、だが下町に放り出したのはあいつが悪い」
「ええそうですね兄が悪いです」
「そして私は魔法師であり、今はウィダールという名前がある。ウィルと呼べ」
「……私の婚約者が決まらないのです」
「まあそうだろうな」
私は無邪気な令嬢だった。ただのバカともそれは言う。しかし下町に捨てられ盗賊に襲われ、そこを隣国の旅の魔法師に助けられた。
魔法の素養を認められ、ここの支部長にまで上り詰めたが。
それは幸運だったからでもある。
侯爵令嬢を下町に放り出すのはやりすぎだ。後釜になった私の妹が私より余計性格が悪い奴だったから、王家の財政はもうかなりきわどいところまで来ているらしい。
「私の婚約者となりえる方は国内では一切いません」
「みな逃げたんだな?」
「はい」
「さもありなん」
私は魔法師として今は隣国の王家に仕えている。利用価値といえばそれくらいだ。
隣国の王家にはこいつと釣り合う女子がいないからな……。
「子供はもう望めない」
「はい」
「だから利用価値といえば魔法師であるということだけだ」
「ええ」
魔法師は数少ない、ネームバリューがある魔法師が一人いれば王家の威信は整うといわれる。
宮廷魔法師などがいるこの国はかなり魔法が発展しているしな。
「それを承知でか?」
「はい、婚約者を決めなければ王太子にはなれません。陛下は私を次の王に指名されました」
「……ローズマリーや災華あたりなら年齢が釣り合う。確か20歳過ぎだ」
部下の名前をあげると、いえあなたでないとあの王家ではやっていけませんとユリウスは薄く笑う。
昔は無邪気に笑ったのに、どこか老成した感じになったな……。
「どうしたい?」
「あの王家の腐敗を一掃したい、だが私の力が足りないのです。ウィル」
ローズマリーは確かに心が優しすぎる。東方の魔法師である災華では荷が重かろう。
王太子妃の浪費で傾いた王家はもう沈没寸前だというのは聞いていた。だがユリウスが後釜になろうとは。
無邪気に20年前笑っていた少年がこんな風になろうとは。
「そうだな契約としてなら乗ってやる」
「契約ですか」
「2年だ、2年のうちのあの財政をなんとかしろ力も貸す。そしてお前の兄と義姉を処分することだ。陛下は甘い、甘すぎる。王太子の地位を取り上げたとしても、結局あいつらを追放もできんだろ?」
「ええそうです。その通りです」
私はこの小さかった少年が青年となり、その重荷を背負っているのが少し気の毒になってきたのさ。
私は魔法師として成功した。だがこの青年はこれからだ。ならそれに力を貸してやってもいい。
「あいつらをどうにかできたら契約してやる」
「わかりました、ウィル」
「多分36歳の王太子妃では笑いものになるなお前が」
「いえ、それもなんとかします」
「……そうか大変だな」
「私とて王族の一人、あの兄をなんとかできなかった罪がある。申し訳ありませんでした」
「仕方ない、お前は子供だった」
「しかしあの義姉の罪を暴くことくらいはできたはずだ。正妃が母ではないとはいえ」
私はユリウスの手を握った。私とてあの王家の惨状を聞いてはいたが、せせら笑ってざまあみろなんて思っていた。
だがユリウスには罪はない。
幼い彼はお姉さまといって慕ってくれたのだから。
「やるだけやってみよう」
「私はあなたしか頼れる人が思いつかなかった申し訳ありません……」
「いや、それはいい」
私はこの若い青年の手を取り、私とて祖国の現状は気になるといったところ、ありがとうとユリウスは初めて少しほっとしたように笑ったのだった。
「闇の精霊、我が命に従え、そして我が願いを聞き届けよ!」
私は陣を構築する。目の前にいるのは私と同じくらい年をとった元婚約者と妹だった。
力を見せつけないとだめだと私はユリウスと話した。
魔法協会はこの国にはない。しかしこの国に魔法協会の支部を置きたいと考えていた本山と私の願いは一致した。だから私はユリウスの許可を得てクーデターを起こすことにしたのだ。
「お前、お前、お前!」
「……己の罪を胸に手を当てて考えろ、クリス、エミリア」
「お姉さま、お姉さま、許して、許して!」
私は薄く笑う、現れた闇の精霊に永久にこの二人を闇の牢獄に閉じ込めるように命令をした。
力を見せつけることが大事だ。恐怖の支配は望ましくないが罪人に対する処断は必要だった。
「願いは永久に、願いは闇に、我が闇の精霊クーリンよ、我が願いは永久に……」
私は闇魔法師、闇の精霊と通じ、滅びを……支配するものだ。
ユリウスはあなたたちを永久に闇の牢獄に封じると命令する。父である陛下は痛ましげにこちらを見ているが……。闇が二人を包み込み消えていった。
「アゼリカ魔法協会支部長、ウィダールをここに私の婚約者とし、王太子妃と将来することを宣言する!」
「……陛下、ご英断でした」
私は長い銀の髪をかき上げ笑った。青い瞳が美しいと昔言ってくれたこの年老いた王を痛めつけるつもりはなかったが、闇の精霊で脅したのは良心が痛んだ。
「……ユリウス、これは契約だ。2年で、この王国の腐敗を一層しろ。38の王太子妃なんぞ、余計笑いものになる」
「……ええもう少し早く何とかして見せます」
陛下は倒れた。あんな男でも息子だからな……。さすがに闇の牢獄にとらわれるとわかったら……。
私は周りの貴族たちに闇の精霊を見せつける。皆恐れの顔でこちらを見ている当たり前か。
「……申し訳ありませんウィル」
「これからなんとかしろ」
まだ若き王太子に私は笑いかけた。幼い日々、手を取り合って花畑で笑いあった。
でもそれはもう遠い、王太子の愛とやらを信じていた16歳の少女はもういないのだ。
でもこの若き青年に力くらいはかせるだろう。
「私はあなた自身を……」
「……契約だこれは」
私は金の髪に青い瞳の若い青年に笑いかけ、その唇に口づけた。これは契約。
そしてあの女をなんとかできなかった若き日の私の思い出を消し去るための儀式。
でも……この王国の腐敗をなんとかしようとする気概は嫌いじゃない。
「さあ、行こう、お前が次のこの国の王だ」
「はい、アイシャ」
この国の腐敗を一掃し、そしてお前にふさわしい王太子妃を探すがいい。私は手助けしよう。
少し胸が痛んだ自分がいた。でもこんな大年増なぞふさわしくない。
魔法協会支部でたくさんのやばい人間と渡り合ってきた私が力を貸そう。
「私はあなたを愛しています」
「……」
まだはじまったばかりだ、私は闇の魔法を周りでひそひそ言い合う貴族たちに見せつけ、そしてにっこりと笑い、私が再び王太子の婚約者になるとはなと笑いかけたのだった。
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