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ジュリアット=メネズ

「ふぅ……流石にちょっと疲れたかな」


 魔法が使えるようになってからというもの、そこから先は怒涛の展開だった。


 シャロルさん――いやシャロル先生というべきなのか、が連れて下さった先は入学試験の成績上位者のみで構成されたクラス、紫級ヴィオーレ


 そんな所に純白の男が入ろうものなら教室は騒然となるのは言うまでもない話で、生徒達からは奇異な視線を向けられてしまった。


 レイラこそ喜んでいたけど、エルミナ嬢には睨まれたしね。


「おまけにシャロル先生は紫級ヴィオーレの担任教師だったなんて」


 とはいえ、考えてもみれば当たり前ともいえる話だ、ヴェラルティ家の使用人さんでないというのならヴァランティウヌ卿の魔法補佐と考えるのが妥当。


 聞けばラコルナ領主魔法騎士の魔女ウィクトだそうで、王立ストラティエンヌ魔法女学院の卒業生にして今はヴァランティウヌ卿の補佐をしているのだとか。


「ただシャロル先生曰く、僕は紫級ヴィオーレではないらしい」


 何なら金級アウロでも銀級エルシェントでも銅級ブロッゾでもない、科目によってクラスが毎回変わるという不安定さ。


 まあこの学院では定期的に行われる実技と筆記を含んだ入れ替え試験で激しくクラスが上下するらしいから、僕もまたその結果次第なのだろう。


「先はまだまだ長い――でも明日からは魔法を使った授業が始まる」


 そう考えるとやはり戸惑いより期待感の方が募るというものだ。


 あ、因みに今僕は紫級ヴィオーレの生徒とその関係者が集まった社交パーティーへの参加途中。


 紫級ヴィオーレともなるとその殆どが貴族なのでこうした催しが開かれるらしいけど、正直な所昔からあまりこういうのは得意じゃない。


 クライス卿が不在だから勿論ブリアン家を代表して挨拶回りはしたけれど、貴族の矜持がバチバチとぶつかり合う場でもあるから、決して和やかじゃないし。


 だから今は外に出て休憩中、でもそろそろ戻らないと。


「――隣、構わないかな」


 そう思いかけた所で水色の長い髪靡かせた女性が僕の隣に並んだ。


「ジュリアット=メネズ公爵令嬢」


 メネズ家の時期当主候補にして入学試験では次席の成績を残した、今は三角帽子を身に付けていないけど紫の最高位を持つ超優秀な存在だ。


 ただ――ブリアン家とは昔からあまり良好な関係ではない、というよりクライス卿が毛嫌いをするせいで今日に至るまで会ったことがなかった。


 でもいざ話をしてみればジュリアット嬢に限ってはとても気さくで、クライス卿が仰るようなイメージは一切無かったのだけど――


 エルミナ嬢を勝ち気と言うのであれば彼女は殊勝というべきだろうか。


「ジュリアットで構わないよ、君のような立場だと畏まることも多くて疲れるだろう? 同じ年代同士もっと気楽に話そうじゃないか」


「とんでもないです――ですがありがとうございます、ではジュリアットと」


「言葉も固いよ、もっとレイラに話す時のような感じで」


 そう言ってふふっと笑ってみせるジュリアット嬢。


 ……よく見ていらっしゃるなぁ、そこまで言われてしまうと僕としてもくだけた言葉を使わざるを得ないだろう。


 ……念の為周囲を確認、どうやら僕とジュリアット以外はいない。


「じゃあ遠慮なしということで」


「うん、ではこちらも早速カルムに質問をしたいのが構わないかな?」


「ええ勿論、質問をされても仕方がない立ち位置ですしね」


「経歴が特殊故に周囲も君のことが気になって仕方がないようだね」


「でも表立って話しかける方は中々いませんよ、聞くに訊けない、というのもあるかもしれませんけど」


「確かに。王立ストラティエンヌ魔法女学院は貴族から平民まで実力さえあれば入学する権利を得られるだけに、平民からすれば君に話しかけづらいし、貴族からすれば君に話し掛けたくない、そういう気持ちもあるだろう」


「もう慣れましたけどね」


「だが実力という観点で見ればこの学校至極平等だ、つまり君もまたご多分に漏れず才能があるということになると思うのだけど、違うかな?」


 余裕にも見える笑みを崩さぬままそう言うジュリアット。


 ……ああそういうことか、と僕は表情を変えないまま頭の中で考える。


 彼女は純粋に相手の実力だけを見定めて話をしているのだ、そこに上下関係は一切排しており、強さのみに興味を持つ。


 メネズ家はそういうものだと、いつしかクライス卿が言っていた。


「……どうでしょう? 案外篝火しか出せないかもしれませんよ?」


「だとしたらクライス卿は君に貶めようとしていることになるよ」


 何だか僕を焚きつけようしているような……もしかしてクライス卿が苦手だと言うのはそういう意味で……?


 それにこの言い方だと僕が推薦状で入学しているのも分かっていそうだ、流石に『破滅の書』読んで――というのは知らないだろうけど。


 それはシャロル先生伝えでヴァランティウヌ卿から『公にしてはいけない』と言われていることだし。


 でも彼女は仮にそこまで知っていたとしても興味は持たないだろう。


 ただまあ、挑発に乗るのは僕の性分じゃない。


「……魔法は確かに使えるよ、でもそれだけだし、紫級ヴィオーレに入ったのは一時的な処置、男だから特例でとシャロル先生が――」


「成る程、つまり扱いに困る程稀有な存在なのか君は、増々興味が沸く」


「へ、いやそれは――」


「カルム、明日から本格的に授業が始まる訳だが」


「そ、それはそうだけど、それが何か……?」


「はっきりと言おう、練習試合では君と手合わせをさせてくれないかな?」


「いっ! いや……ジュ、ジュリアット……?」


 ジュリアットはレイラとは違う目の輝かせ方で僕の手を取ると、身体まで寄せてそんなことを言ってくる。


「私はこれまで年齢を問わず、様々な魔女ウィクトと手合わせを願ってきたが、誰も彼も骨はあっても強いと思ったものは一人もいなかった」


「そ、それはジュリアットが強過ぎるからなのでは……」


「そんなことは知っている! だからこそ私は窮地に追い込まれる程の相手と一度でもいいから闘ってみたいのだ!」


 いや、さらっと凄いことを言ってるよ……言い方は悪いけどどう考えても戦闘狂のソレだ。


 あれ、もしかして僕、結構ヤバい?


「君であればきっと私を楽しませてくれると確信している、だからもう一度言おう――是非とも手合わせを願いないかな?」


「う――――……」


 クライス卿……貴方が僕をメネズ家に頑なに合わせようとしなかった理由がようやく分かりましたよ……。


 でもそう思った時には僕に選択肢など残されていない。



 結局僕はその熱意に気圧されて、首を縦に振ってしまったのであった。

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