4話 実力
桜花との訓練を気持ち早めに終え、約束の場所に来ていた。
「よく来てくれた。飛水よ。」
声をかけてきたのは十星を指揮している軍部のお偉いさんである椎野夏葉だった。
軍の人間では珍しく、能力者である。彼女は戦闘系の中でも武器を使わない本当に珍しい人だ。
「お久しぶりですね、椎野さん。今日の用件はなんでしょう?」
「相変わらず冷めてるねー君は。用件は偵察と敵の捕獲または消滅かな。」
普通の会話をしているのかと間違うくらいの感じで俺に面倒ごとを持ってきてくれた。
「いいですけど、そんなの十星に任せればいいじゃないですか。俺だって何故か、天野桜花とかいう女の教育係になったんですよ。暇じゃないんです。」
俺は思っていることを伝えると椎野はだいぶ真面目な顔をして俺に言った。
「今度から部下になる子がどれくらい使えるか確かめるのも上司の役目だから。まぁ、君がどれだけ優秀かは知っているんだけどね。」
「待て、上司だと?」
「そう、今度の十星会議から十二新星が出来て、その上官にまた、私が選ばれたってわけ。因みに君ともう一人は桜花ちゃんだよ。」
なるほど。だから俺のところで訓練をさせるのか。あそこはとてつもなく戦闘好きが集まっているため、入って最初の挨拶は模擬戦だとふんでいるが間違ってなさそうだ。
「はいはい、分かりました。今度の会議から態度は改めますよ、上官。」
そう答えた瞬間だった。
俺の背後から大量のナイフが飛んできた。
「はぁ。」
ため息を1つだけした後、俺は槍をだす。
(くしなだ)
槍を横凪ぎに一振りする。それだけですべてのナイフは消える。
「いつも言っているがやめてくれないか。」
「いやだね。俺は俺のやりたいようにやる。」
こいつは十六夜極夜。十星のうちで一番戦いが好きな男である。特に、メンバーではない俺との戦いが好きらしい。
つまり、本当に迷惑な奴なのだ。
「だからよ。相手をしろ、飛水。」
「やめなさい、極夜。」
ここでやっと、こいつの保護者がきた。彼女は極夜の1つ年上の姉の十六夜静。この人も結構強い。しかも極夜の苦手なタイプの能力らしい。
「どうも。静さん。」
とりあえず挨拶をする。
「えぇ、久しぶりね。飛水君。」
優しい笑顔で言ってくれるが、この人は極夜が恐れている人だ。見た目とは違ってすごく怒ると怖いらしい。
だから、俺は怒らせないように気を使うのだ。
「静さん、俺はこの後仕事なんで失礼します。」
椎野さんから直ぐに場所を聞き出して向かう。
(やっぱり苦手だな、静さんは。いや、今は仕事に集中しよう。)
その後の仕事は何の問題もなく終わった。偵察を一瞬で消すだけの仕事なのだから。
「ただいま。」
俺は静かにドアを開けて家に入る。桜花は寝ているであろう時間になってしまった。
俺はここで、今日を思い返して見ることにした。
少しだけ思い返すだけで嬉しくて笑みがこぼれてしまう。初めての学校に行けて嬉しかったのを覚えている。もちろん、勉強はしてきたのだが何よりもクラスメートがいるというのが新しくて新鮮だったのだ。
ふと、俺は最近買ってもらったスマホを見た。すると、そこには母さんと父さんからメールが来ていた。
『入学おめでとう。本当は祝いに行ってあげたいんだけど忙しくて、ごめんね。飛水、楽しい学校生活を過ごしてね。お母さんより』
因みに父さんからは『おめでとう』とだけ来ていた。
メールを読んだ後俺は、風呂に入り直ぐに寝てしまった。
5時になる。俺は起きた。軍部で習慣化してしまったらしくこの時間になっている。
何となく筋トレを始める。いつも通りのメニューをこなす。
それから、一時間も経つと桜花も起きてきた。
「おはよう、桜花。まずは顔を洗ってきな。」
「は~い。」
だいぶ寝ぼけているような感じだ。
俺はここで筋トレをやめて朝食の準備を始める。
担任曰く、今日の部活動勧誘は戦争らしい。なので、しっかり朝ごはんを食べてから行く。
俺らが家を出たのは登校時刻の40分前の7時30分だ。家から学校までは親の配慮で20分くらいである。
「ねぇ、桜花さん。間違っても呼ばないでよ。」
俺が彼女に対して言っているのは俺を飛水と呼ばないかということだ。食事中ずっと飛水さんと呼んでいたからだ。
「大丈夫です。学校では絶対に呼びません。」
こう言うから信じているのだが、何回か飛水と言いそうになっているのだ。
今日の部活動勧誘は俺には関係がないのだ。俺は十六夜先輩が入っている部活に入ることになっている。
勝手に決められてはいるがこれも俺がここにいるための条件なのでしょうがないと思うことにした。
学校が近くになると喧騒がすごく、今日がどれだけやばいかが想像でき、隣にいる桜花は頬をひきつらせている。
俺には関係がない、と思っていたが大いに関係がありそうだ。まずは、教室に行けるかどうかから始まる、今日一日。少しだけ楽しみにしている自分がいる。
今日が無事に終わるように俺は祈る。
時同じく、職員室。
「今年はどれほどの生徒が教室までやってこれるか。」
「まぁ、去年よりは増えることを願いましょう。」
「やっぱり放課後から勧誘可能に変えませんか?」
教師陣も今日は諦めと疲れを感じさせるような雰囲気を出して、職員会議を行っているのだった。




