花澤咲
花澤咲と出会ったあの日から1週間が過ぎた。あの後俺、佐倉優一郎と花澤咲は連絡先を交換してお互い帰宅した。
流石にあれからはまだ会ってないが、花澤咲からちょくちょく連絡は来る。
【おはよー!元気ー?】とか
【今日雨だね、だるー】とか
【仕事頑張ってねー】とか
彼女かよ!って言うようなLINEばっかり飛んでくる。
しかもやっぱり返事に関しては超早い、即レスだ。
因みに今しがたも花澤咲からLINEが届いた。
【明日ヒマー?】
だそうだ。そして何という事だ、間が悪い事に明日は俺は休みだ。断ろうと考えたのだが、次のメッセージが届いた。
【明日またあの喫茶店行くんだー♪】と来た。
ふと、何故かこれは断っても無駄かなっと思った。
素直に【空いてるよ】と送る俺。
【マジ!?じゃあ明日12時に喫茶店ね♪】と即返事が来た。
有無を言わさず時間まで決まってしまった。そして思った、この子の友達とか予定合わせるの楽かもな。いや、逆にちょっと待ってってなるかもしれないな。そんなこんな考えながら俺は返事を送った。
【わかった、また明日ね】
そう返事を送った後、俺はベッドに横になった。……なんか不思議だよな、妹でもない少女とLINEしてるなんて。普通に見たらコレちょっと危ないんじゃないか?って言うかむしろ妹が居たとしても妹ともLINEなんてしないんじゃないだろうか。
ん~…まぁいいや。色々考えると眠れなくなりそうだし、考えるのやめよ。そう思いながら俺は早めの夢の中へと落ちて行った。
そして次の日の正午12時。俺と花澤咲は喫茶店で落ち合った。
「私ジャンボバナナパフェ頼んでいい?」
「また?この前も食べたのに?」
「この前のはジャンボチョコパフェでしょ!今日はバナナパフェだから!」
「俺からしたらそんな変わらないよ、バナナが付いてるか付いてないかでしょ。」
「も~、わかってないな~」
指でチッチッとやりながら俺に指摘する。なんかこの子はたまに古臭い事やるよな。
「…それじゃあ俺は珈琲で」
「コーヒー?またぁ」
またとは失礼な、ここの珈琲は美味しいんだぞ。お子様には分からないだろうがな。ほんのり酸味があり、苦味ばしった感じが堪らんのだ!
「またとは失礼な!って思ったね?同じだからぁ」
な…何故わかったんだ!エスパーか!?
「むしろメニューが違う分私のが勝ちだから」
何が勝ちなんだかよくわからないが、花澤咲はメチャクチャ勝ち誇ったドヤ顔を浮かべた。
「すみませーん!ジャンボバナナパフェ1つと珈琲1つお願いします!」
またしても元気がいいもんだ、きっとこの子は風邪でも引かない限り元気なんだろうな。いや、風邪の方から逃げていきそうだな。
「今日もゲーセンに行きたいのかい?」
「今日は違うよ、今日はこの後の予定は~」
ニヤリとしながらこっちのを見る。何だ!
「鎌倉に行こうと思います!」
「鎌倉!?何でまた!」
「あそこテレビとかで出たりする事あるじゃん、観光地だしオシャレだし、行ってみたいの!」
だそうだ。何とまぁまた鎌倉とは、まぁ別にそんな遠い訳でもないしいいかと俺は思ってしまった。俺ってもしかしてお人好しなんだろうか?
そう考えてるとジャンボバナナパフェとやらが届いた。花澤咲はまたしても感動の様子。
「ヤバ~!ジャンボバナナパフェもたまらん!」
たまらん?オヤジかお前は。
「これも映えじゃん♪」
出た、また『映え』インスタ映えだ。そんな楽しいものなんだうか?そして楽しそうに撮影をしている花澤咲。俺はその様子を見ながら珈琲を啜る。
「さぁ食べよ♪」
またリスのように頬張るのだろうな。
「うま~♪」
ビンゴ。またしても頬袋にエサを詰め込むリスのようだ。そして俺はふとした疑問を投げ掛けてみた。
「そういえばさ。鎌倉とか友達とは行ったりしないの?あと買い物とかさ」
この位の年だと同級生の友達と遊びに行ったりとかするだろうに
「今友達ね、結構家族旅行とか行ってるのが多くて。あと私たくさん友達作らない派だから」
意外だな、なんか大勢の友達とワイワイ遊園地とかテーマパークとか行ってそうな感じなのにな。
「そうなんだ、意外だな」
「何?意外って!失礼じゃない?」
「いやぁ、友達多いイメージだったから意外でさ」
パフェを食べながら花澤咲は言う。
「ん~、友達多いのってめんどくさそうじゃん」
この時俺は、花澤咲の言う事がわかると思った。
俺も比較的友達と言うものが多いタイプではない。それは花澤咲が思っている事と同じかもしれない。自分が仲が良い友達が出来たらその決まった相手としか会わなくなる、大勢で会ったり遊んだりするのが面倒臭い。人間関係が多くなるのが面倒臭い。
俺の理由はこれなんだ。
「人間関係多いのめんどくさそうだし、仲良くなった人とだけ遊んだりしたほうが楽しいし。」
なんとビンゴだった!なんと言うか、まさかこんな共通点があったとは驚きだった!本当に意外だ、誰とでも仲良くできそうな子なのに。
「そういう優一兄さんも友達少ないでしょ?」
「うん、まぁ少ないな。…って優一兄さんって何?」
「え?優一兄さんだから優一兄さんだよ?」
何かおかしい事言ってます?みたいな顔をしてるぞ。
「俺の名前は優一郎なの優一郎。優一じゃないの」
「うん、だから優一兄さんなんだよ」
うわぁ…話し通じねー、なんだこの子。そしてもりもりパフェ食いやがって。
「あ~美味しかった♪」
そしてまたしてもあっという間にパフェを完食した花澤咲。この子は早食い競争の選手にでもなればいいのに。
「という訳で、早速鎌倉に向いましょー!」
「はいはい」
またゆっくりする間もなく出発か、忙しないなー。ともかく俺と花澤咲は鎌倉に向かう事にした。
湘南新宿ラインに乗り、俺と花澤咲は鎌倉に向かっていた。平日だが夏休という事もあり車内は結構混んでいる。花澤咲は某旅雑誌を見ながらウキウキしている。
「どこ行こうかな~、鎌倉楽しみ♪」
「目当ての場所とか、行きたいお店とかは無いの?」
「うん、私旅行は行き当たりばったり派なの!」
そうか、この子は旅行は行き当たりばったり派なんだ。まぁ計画的に何かやるタイプには見えないもんな。
「あ、でも大仏はやっぱ見ときたいかも!」
「あー、大仏な」
「あと鹿」
…………ん?今何て言った?鹿?え、もしかして奈良と勘違いしてらっしゃる?
「あの、鎌倉に大仏はあるけど。鹿?鹿は奈良だよ…」
「え?……あ、そっか。大仏だから間違えちゃった!」
テヘペロ♪みたいな仕草をする花澤咲。
「いや。そこはテヘペロされてもな~」
「何!?え、ちょっ!ハズいんだけどー!」
メチャクチャ動揺しとる、なんか面白い。こんな動揺するんだ。そして花澤咲が照れてるうちに電車は鎌倉駅に到着した。
「あ!つ、着いたよ!」
動揺してる花澤咲が先頭を切ってホームへ降りていく。
鎌倉駅改札を出てみると、やはり観光客で賑わっている。
「鎌倉ー!とーちゃーく♪」
「嬉しそうだね」
「だってずっと来てみたかったんだもん!そりゃ嬉しいよ♪さぁさぁ、早速行くよ!」
さっきまでの動揺してた子とは思えないくらい、いつも通りの花澤咲に戻った。
そして俺達は高徳院へと向かう事にした。そして俺はふと、大事な事に気付いた。
「あ!そういえばさ、鎌倉大仏見に行くのはいいんだけど。良く考えたらこの鎌倉駅からだと30分位歩く事になるけど、大丈夫?」
くるっ!と振り向く花澤咲。ちょっと間があった後満面の笑みで
「OKベイベー♪」
OKベイベー?なんだその単語は
「せっかくの鎌倉なんだし、ゆっくり観光しながら歩いて行けばいいよ!まだ13時半とかだし」
そう言って悠々と歩き始める花澤咲。まぁ確かに時間はまだある。やれやれ、行きますか。
高徳院に向かっている道でも町並みを見ながら花澤咲は目を輝かせている。正直逆側にある小町通りと違って、高徳院に向かう道のりには、趣のある建物や、老舗等が数件あるだけだ。なのに目をキラキラさせている。本当に楽しみだったのだろう。
「なんか、東京と違って雰囲気いいよね!」
「まぁね。こういう所は都会にはないからな」
「優一兄さんは鎌倉来た事あるの?」
「ん?あぁ、確か高校最後の修学旅行で来た事あるくらいかな。だからもう10年振り位だよ」
「え!そうなの?っていうか優一兄さん年いくつ!?」
しまった…口を滑らせてしまった。いや別に自分の年を気にしてる訳ではないんだが、いつもちょっと下に見られてしまう為以外と年いってるね!って言われるのが嫌なんだ、何てこった
「……今年。さ、30」
「えーーー!オジサンじゃん!」
ほら見たことか。
「ほっとけ」
「じゃあ優一兄さんじゃなくて優一おじさんだね!」
「やめろ!」
あーやってしまった、そんな呼び方されたら周りからどんな目で見られると思うよ。
「じゃあ私と16も違うんだ、私は14才中学2年生だよ♪」
14才中学2年生だよ♪じゃねぇよ!
「改めてよろしく、優一おじさん♪」
「だからやめろ!」
「えー!やだぁ?ワガママだなぁ。じゃあ優一おじちゃん!」
「変わらんじゃないか!」
「じゃあ…優一じい!」
「それもうじじいみたいじゃん!」
「えー?じゃあねぇ……」
考える花澤咲。
暫く考えた後、花澤咲は立ち止まり、俺の方を見て言った。
「優一さん」
…俺の気のせいか。(優一さん)と言ったその姿が、いつもの天真爛漫な花澤咲ではなく。なんと言うか、一瞬乙女さを感じた。
「…まぁ、それでいいよ」
「それじゃあ優一さんって呼ぶね!」
なんだったんだろう。今の感じ。そんなやり取りをしていたら、俺達は高徳院に到着した。ここも観光客で賑わってるな、中には外国人観光客も多い。流石名所だ。
「スゴーい!なにコレ!本物だぁ!」
鎌倉大仏を見た花澤咲は目をキラキラさせている。本当何にでも感動する子だなぁ。そして、(近くで見る!)と花澤咲は駆け出していく。後ろから見るとはしゃいでる子供みたいだ。
「優一さんも見てみなよ!」
「見てる見てる」
「凄ッ!テレビとかで見るのと一緒だぁ!」
そう言いながら花澤咲は嬉しそうにスマホで写真を撮り始めた。
「また映えかい?」
俺が何気なくそう聞くと。
「んー、いや。コレは写真にだけ納めとくだけでいいかな」
そうなのか?俺的にはコレこそ映えそうだが。よくわからないもんだ。
「そういえば、子供の頃から思ってたんだけど、大仏のあのおでこのテンって何なのかな?」
「あー、あれは確か(毛)らしいよ。前にテレビでやってた」
「マジー!何でおでこなんかに毛生えてるの?」
「えっと何だっけなぁ、白毫とか言って、世界を照らす…的な事言ってたかなぁ。」
「えー!凄くない!?おでこの毛で世界を照らせるの?」
「それなぁ」
………あ!『それな』って言ってしまった!染ったか!?
「あ、それなだって!染っちゃった~?」
しかも気付かれてしまった!恥ずかしい!花澤咲はニヤニヤ笑って俺を見ている。認めたくない俺は
「……別に、染ってないし」
「え~本当ぉ?顔真っ赤じゃん!」
「本当だよ!」
「はいはい、じゃあそういう事にしときますよ♪」
くそ、何だろうこのちょっと負けた感じ!相手は中学生だと言うのに!
「ちょっとくらいノリ若くなればいいのに」
「俺はこれでいいんだよ」
「えー!つまんなー」
何がつまらないんだかまったく。大人の男がパネェだの、ヤバーだの、それなだの言ってたら気持ち悪いだろうに。それなは言ってしまったけど。
「そんな事はいいから、他に行きたい所は無いの?」
「あ!それな!」
「…今の当て付けで言ったでしょ」
「そんな事ないっすよー♪」
などと言っているが、楽しんでるの丸分かりなんだよ
「せっかくだし、真逆に戻る事にはなるけど。お土産屋やら観光でも賑わってる、小町通りにでも行ってみるか?」
「お!いいね!サンセー♪」
即決だ。と言う事で俺達は小町通りに行く事にした。この子はああいう所好きだろうからな。
そして俺達はあれからまた30分程歩き鎌倉駅に戻り、小町通りに到着した。流石だ!日本人だけじゃない、外国人観光客もあちこちに居て小町通りはかなりの賑わいだ!花澤咲はまたしても目をキラキラさせている。
「スッゴーイ!ナニココ!?」
なんか、興奮のあまり片言になっている花澤咲
「スゴイスゴイ!スッゴーイ!ねね!スゴイよ!!」
「わかった、わかったから少し落ち着きな!」
まぁ、興奮する気持ちはわかる。流石に俺も少しワクワクしてるからな!
「よし、んじゃ早速行こうか」
「参りましょう!」
武士みたいな掛け声を放ち、浮き足立ちながら花澤咲が先陣を切る。俺もちょっと楽しくなってきた。古風で趣のある観光地ってなんかこう、心踊るよな!そして俺達は小町通りの散策に向かった。
花澤咲を先頭に小町通りを歩いていると、趣のある土産物屋や食事処、茶屋等があり、普段都会に住んでいると味わえないような雰囲気を味わえて、とても心地よい。花澤咲も相変わらず目を輝かせている。
「マジ凄いんだけど!ナニココ!?」
「君がこういった所に感動するとはな、意外」
「何言ってんの!マジ楽しいじゃん!」
そう言って勇ましく歩き進める花澤咲。本当、何やってても楽しそうだな。
「いや、君ってやっぱ原宿とか渋谷で遊ぶのが好きそうな子に見えるからさ」
と言う俺の言葉も聞こえてないのだろう、何の返答も無く悠々と進んでいく、そして何かを見付けた花澤咲は急にこう言った。
「ねぇ!タピろうよ♪」
……急に俺は何を言われたのか分からなかった。
『たぴろうよ』??なんだその単語は??
「え?何、たぴろうって…何?」
「え?知らないの!?タピろうはタピろうだよ♪タピオカ飲みに行こうって事!」
いや知らねぇよ!タピろうよって急に言われても何か分かるか!
「あそこにタピオカ置いてる喫茶店あるから!タピろうよ♪」
あぁ~、女子高生とかに人気のタピオカミルクティーってやつか。ん~、まぁ飲んだ事無いし飲んでみるか。
「いいよ、飲むか」
「よし決まり!行こ行こ♪」
俺はグイっと腕を引っ張られる。凄い勢いだ!よほど行きたいのか!という事で俺達はタピる?事にした。そしてやっぱり女性客が多い、どこに行ってもコレは人気があるんだな。自分の番が回ってきた花澤咲はメニューを見て盛大に悩んでいる。
「う~ん、どれにしようかな~~」
「めちゃくちゃ悩むじゃん」
「だぁって、どれも美味しそうなんだもん」
「俺ほうじ茶タピオカミルクティーお願いします」
「え?もう決まったの!?ちょっと待って!えーとね」
「別に焦らなくていいよ」
「……うん!私も一緒ので!」
悩んだ末に一緒のになった、よくあるパターンだな。…それにしても見る女子見る女子みんなタピオカ持ってるな。都内でもよく見るけどそんな美味いのかな?見た目は黒い魚の卵みたいなのに。
そう考えてると俺達のが来た。
「来た来た♪さぁ、タピるよ!」
と言いながら早速撮影してる。また映えかな?よくもまぁ飽きないもんだな
「優一さんも一緒に撮る?」
「いや、俺はいいよ」
「あ!また拒否る!」
「別に拒否った訳じゃ」
「そんなんだから友達少ないんだよ?」
「ほっとけ」
「ほら!いいから一緒に撮ろうよ!」
ぐいっと横に詰め寄られる、強引すぎだろこの子!
「いや引っ付きすぎ……って言うかだって、載せたりするんでしょ?じゃあヤダよ!」
「……載せなかったら、一緒に撮ってくれるの?」
……!!ッゥ!!
「一緒に写真くらい撮ろうよ」
ッ何だよ今の!確かに載せたりするならヤダよとは言ったけど!!この至近距離で見上げやがって。
「…イヤ?」
「………いいよ、一緒に撮っても」
「よし決まりー!ちゃんとキメてよー?」
「わかったわかった」
カシャッっというシャッター音。次の瞬間には花澤咲がイイ感じー!等と嬉しそうにしていた。やれやれ、気恥ずかしいったらない
「優一さんカッコ良く写れてるじゃん!もっと冴えない感じで写るんだと思ってたー」
「ほっとけ、じゃあもう二度と撮らんぞ?」
「そんな拗ねないでよー、ピチピチの女子中学生と2ショット撮れたんだから喜びなよ~」
またこの子はピチピチの女子とかジジ臭い事言うしさー
「はい、嬉しい嬉しい」
「何その言い方ー、本当に思ってる?」
「思ってるよ。って言うかタピオカ飲んでいい?ぬるくなっちゃう」
「あぁ、いいよ!優一さん初タピオカなんでしょ?お先にどーぞ!」
わちゃわちゃしたやり取りの後、そして俺は恐る恐る初タピオカを口にした
「……うま」
「でしょー!?美味しいでしょー♪」
思っていたのとちょっと違った、俺の予想だともっと甘ったるいもんだと思ってた。そして弾力のあるモチモチしたのが入ってくる。よかった、魚の卵ではなかった。
「うまい」
「これで優一さんもタピオカの虜か~!」
「いや、そこまではないけど」
「また拒否るー」
「拒否じゃなくて今のは否定だよ」
「同じようなもんだよ」
意味合いとしては違うんだが、切り返してもまた同じ答えが来そうだったから俺は折れた。
「じゃあそういう事にしときますよ」
「何その言い方ー!」
またわちゃわちゃしたやり取りをしながら俺達は小町通りを歩いた。なんとなくこの子とのやり取りも慣れてきたな。
「せっかく鎌倉まで来たんだ、何か記念になる物でも買ってく?旅行から帰ってきた友達にやる物でもさ」
「それな!」
「!びっくりしたー」
そうだよねー!お土産とか見ないとねー!っと言い出し花澤咲はお土産屋を巡り始めた。今更だが、この子は疲れる事を知らないのか?そう思いながら俺も後ろから付いて行く。
それから花澤咲はアレでもないコレでもないと楽しそうに迷いながら色々見ている。色々見て行き、ようやく1つはかわいらしい花柄のポーチ?を買い。
暫くしてもう1つはキャラクターのご当地キーホルダーと、10個入りの菓子を2つを買って来た。ポーチとキーホルダーは友達だろうが、お菓子は家用か?
「お待たせー!友達のお土産迷っちゃってー!」
「いや別に、ずいぶん買ったね」
「うん!キャラクターとお菓子でだいぶ迷っちゃった、あの娘の好み見付けるのに一苦労~」
「あの娘?」
「うん、私の友達!アニメとかキャラクターが好きな娘なの!んで、お菓子も好きそうなの見付けるのに一苦労~」
「え?それ2つともその娘の!?」
「驚きでしょー、底無しかってくらい食べるんだよー。これでも少ないくらい、こんなの一瞬だよ」
「マジか……」
アニメとキャラクターが好きな大食い女子中学生って……濃いーな!
「あ!ねぇ、自分のも買って来ていいかな」
「え?別に構わないけど」
「ありがと!ちょっと待っててね」
そう言って花澤咲は向かい側のお店に入って行った。確かに自分のも欲しいよな。せっかくだし、戻ってきたら俺も何か買おうかな。
そして暫くして花澤咲が戻ってきた。
「お待たせー、ごめんね何度も」
「別に大丈夫だよ、んじゃちょっと俺も…」
「はい、コレ!」
そう言って花澤咲が何かを渡してきた、何だ?
「何?俺に?開けていいの?」
「もちろん♪」
花澤咲に渡された包みを開けてみると『ゆういち』と書いたキーホルダーだった。
「え?俺にも買ってきてくれたの?」
「うん、友達にお土産買ったのに、優一さんに無いのオカシイでしょ!それに鎌倉くんだりまで付き合ってくれたんだし」
俺は驚いた。まさか俺にまで買ってくるとは、律義なんだな。名前は優一郎なんだが、この時はどうでもよくなった。その気持ちが嬉しかったからだ、そして俺はお礼を言った。
「ありがとう、大事にするよ」
「うん♪」
嬉しそうに返事をする花澤咲。まさか一緒に来た俺も土産貰えるなんてな、ちょっと嬉しい。
「さぁさ、他に行きたい所はないの?見て回れる所まだまだあるよ」
「もちろんまだあるよ!まだまだ付き合ってもらうからね~」
そうして俺達は残りの時間も鎌倉の地を巡った。
鎌倉の地を二人で巡り終わって、俺達は帰路に就いていた。
湘南新宿ラインで東京に帰っている、俺達は歩き疲れた足を休める為二人並んで座っている。
「あ~楽しかったぁ♪」
「そりゃよかったね」
「優一さんは楽しかった?」
「うん、楽しかったよ」
「お!ホント!?」
「うん、ホントだよ」
たまには、こうして誰かと出かけるのも良いもんだな
「そっかー、よかった」
ニコッと笑い花澤咲は言った、また屈託の無い笑顔だ。そして俺はふと思い出したある疑問を花澤咲に聞いた
「あ、そういえば君は自分のお土産は何買ったの?」
「私?私はねー」
ニヤニヤしながらゴソゴソと取り出して見せてくれた、それは『さき』と書いたキーホルダーだった。
「私も名前のキーホルダーにしたの、へへ!おそろいだね♪」
そう言って、照れ臭そうに花澤咲は笑った。なんだかちょっと…可愛かった
「あとさぁ…」
「ん?どうしたの?」
「私の事『君』って呼ぶの止めて、その……『咲』って呼んでよ。私の名前」
……俺も気にはしていた。ただ、中学生の女の子相手に何て呼べばいいか迷っていたんだ。それをまさか言われるとはな。
「……えっと、」
照れ臭いな。彼女でもない女の子を下の名前で呼ぶとか、って呼んだ事無いしな
「さ…咲」
花澤咲のほうを見ると、これまた嬉しそうに屈託の無い笑顔で(よし!)と言ってニコッと笑った。またその笑顔が夕日に照され一層明るく見えた。