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テネブリスアニマ ~終焉の世界と精霊の魔城~  作者: 朝寝東風
第二章 フェリヌーン陥落
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激突イスフェリアIV

「何で大天使が攻めてくるんだ!?」


 仁は驚嘆の声をあげた。大天使は一定サイズの町の守護ユニット。イスフェリアの町になら存在していても不思議では無い。強い代わりに町から出ることが出来ない完全に防衛用のユニット。コレンティーナの調査で町にはいない事が分かっている。


 アイアン・サーガ・オンラインでは攻略戦のボスユニット扱いであり、モンスター陣営が自滅以外で最初に手こずる相手。町を一定量破壊するか、町の住人を一定量以下まで減らすかすると弱体化する仕様になっている。ランク3では弱体化していない大天使に勝ち目は万に一つも無い。ランク1のプレーヤーがプレーヤースキルを駆使して大天使を倒したプレイ動画があるので、理論上は撃破可能なのだろう。


「聞け、神々の威光を恐れぬ邪悪なる存在よ! 我が神々に変わって汝を討ち滅ぼす!」


 大天使がそう大声で怒鳴り、攻撃を激化させた。攻撃は徒手空拳であったが、一撃ごとに城が揺れた。万の軍勢でも破壊出来ない城門が軋みだした。アイアン・サーガ・オンライン同様、国を単騎で滅ぼせる存在は規格外だ。


 幸い城を覆うバリアのおかげで飛んで接近出来ないのはせめてもの救いだ。大天使の能力的にバリアを数回殴ればパリーンと割れる。それに気づかないのはゲームのAIに近い行動をしているのか正面突破をする事にこだわりがあるのか仁には判断できなかった。


「持って30分か?」


 仁は城の状態を確認しながら呟いた。流石にこれほどの存在が突然ポップして襲撃をかけてくるとは思っていなかった。突然隕石が降ってきて頭に直撃する位の確率に完璧な対応は流石に無理だ。アイアン・サーガ・オンラインでは日常茶飯事な気がしないでも無い。


「これでお終いだ!」


 大天使の力が膨れ上がったらと思ったら、一気に放出された。余波で突風が吹き、テネブリスアニマ全体が大きく揺れた。


「おおっと?」


 仁はテラスの手すりを掴み膝を付いた。手すりが無ければそのまま落下して絶命していたかもしれない。そんな格好の悪い死に様は回避したかったが、仁のステータスでは十分あり得た。


「また門とは、芸が無い!」


 大天使の怒りの声が聞こえた。それと同時にまた衝撃が城を襲う。


「舐めるなよ、こっちだって無策で居たわけじゃない!」


 聞こえないだろうが仁は大天使に怒鳴り返した。


 大天使は仁が用意した殺し間に入っていた。最初の城門は大天使が突破に掛かる時間を計るため。そしてそこから攻撃力を逆算した。それでも勝てるとは思えないが、大天使が無傷でここを通る事は無いだろう。


 大天使に向けて外郭塔のバリスタが狙う。鋼鉄製の門だろうと魔法で強化された城壁だろうと貫通する攻城兵器だ。当たれば大天使でも無傷では済まない。当たったところでHP自動回復のせいで数秒で完治する。それでも蜂の巣にまで出来れば退かせる事は出来るかもしれない。


「この程度、見切れぬと思うてか!?」


 大天使は軽やかに大半の矢を回避しながら、回避できない矢を素手で弾き飛ばす。


「十分だよ、大天使」


 仁は遠くでそう言う。実際、バリスタの攻撃が始まってからテネブリスアニマが揺れる事は無くなった。アサンが帰還する前提なら最良の戦略であり、戦略レベルでなら仁は確実に格上の大天使に勝利した。


 しかし、それで勝ちを拾えるほど大天使は甘い敵では無い。


「なるほど、悪知恵は働くと見える!」


 大天使はバリスタに貫かれた体で吠えた。数発にえぐられた程度では致命傷にならない。それならかわすより攻撃に切り替えれば良い。そして大天使は回避を最小限に城門の攻撃に集中した。


「気づかれたか!?」


 戦術が戦略をひっくり返した瞬間だと仁は理解した。このままでは突破される。しかし打てる手など残っていない。誰かが間に合えば勝てる。誰も間に合わなければ負ける。


 そしてその時がついに来た。最初の門に比べて時間は2倍以上に掛かったが、それでも後一撃で門が破壊されるところまで来た。バリスタの矢の雨、そしてテネブリスアニマのHP自動回復を大天使の拳が上回った。


「食らえ、我が一撃!」


 大天使が全力のパンチを放つ。限界を超えた城門が蝶番ごと城壁から吹き飛ぶ。


 道は開けた。


 もはや大天使の進みを止められ者はいない。


 大天使が場内に入ろうとしたその時・・・・・・。

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