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マカンデーヤ

 マカンデーヤは遙か東に来ていた。時たま現れるランク2のモンスターを独占的に殺す事で仲間の内では最速でランク3にまで進化していた。ただ、総合的に見て他の仲間とは圧倒的な差はまだ無かった。転移時の基礎ステータスが高すぎてレベルアップによるステータス増加が微々たるものだった。


 マカンデーヤがここまで殺戮の道を切り開いたのも更なる力を求めて。道中で殺したモンスターの後処理は仁が送った部隊に任せていた。彼には魔石の回収やテネブリスアニマの強化は興味の無い出来事だった。テネブリスアニマのランクが上がらないと更なる進化は無理なのだが、そこまで物事を深く考える男では無い。


 そんな傍若無人なマカンデーヤでも困惑する事態に直面していた。


「貴方の手に掛かるくらいならこのまま自害します!」


 自分の喉元に匕首を突きつけながら言う娘。背中に大木をあてて、背後からの奇襲に警戒しているように見える。実際は震えて自力で立つ事が出来ない。手も震えており、ちょっとした手違いで首を切ってしまいそうだ。並の存在ならこの状況から彼女の自害を止められない。だがマカンデーヤなら余裕で止められる。


 マカンデーヤ本人としてはこんな娘はどうでも良かった。アサンなら娘が着ている衣服などからそこそこの文明があると見抜き、情報収集のために生かしただろう。マカンデーヤはそんな事を気にしない。東に進めばもっといるだろう程度の考えしか持たない。


 この娘は頭に角があった。仁ならアイアン・サーガ・オンラインに居た鬼人だと見抜けた。マカンデーヤはオニだ。両者は似ているがゲームでは別種族として扱われた。オニは魔石を持ちランク1から存在する。鬼人は人間同様にランク3から始まり、魔石を持たない。


 ゴブリンと人が長い進化の歴史で収斂進化した結果がオニと鬼人だと言う説がある。もう一つはオニと鬼人は同じ祖先を持ち、多様化した説がある。アイアン・サーガ・オンラインではその様な似た種族が多くいたが、公式回答は無かった。


 ゲームの掲示板ではオニと鬼人が家庭を持てるから後者ではと言う勢力が強かった。しかしゴブリンの進化形態なら前者の方が説得力があると反対意見は根強かった。仁はもっぱらユニットの性能を重視していたため、特に関わることは無かった。子供ユニットがポップして、それの性能に影響を与える様な仕様だったら仁は血走った目で掲示板に持論を展開していただろう。


「大将、どうすんで?」


 マカンデーヤを大将と仰ぐゴブリンシャーマンが聞く。このゴブリンは仁が召喚したゴブリンでは無く、野生のゴブリンだ。彼の村がマカンデーヤに襲われた際に、仁が召喚していたゴブリンに取りなしを頼んで配下の座を手に入れた。


 言葉を話せるゴブリンは珍しい。マカンデーヤはその真価に気付かぬままゴブリンの命を助けた。邪魔をせずに適当に付いてくるなら好きにすれば良い、と言うのがマカンデーヤの基本的な行動方針だ。


 このゴブリンシャーマンは小者であったがくせ者であった。他のゴブリンが全員まだ見ぬ誰かに忠誠を誓っていると嗅ぎつけた。マカンデーヤ個人に忠誠を誓っている者はいない。それはゴブリンシャーマンにまたとないチャンスをもたらした。彼はいの一番にマカンデーヤに忠誠を誓った。


 マカンデーヤもそう気を悪くしなかった。ゴブリンシャーマンなどどうでも良かった。ただ、他のゴブリンよりも上に扱った。それに他のゴブリンは自分から動くことは無い。このゴブリンシャーマンは色々と献策してくる。それだけでも側に置く価値があった。


「捨て置け」


 マカンデーヤはそう言って歩き出す。


「こ、来ないで!」


 娘が悲鳴を上げる。しかし悲鳴を上げ終わる頃にはマカンデーヤは彼女の横を通り過ぎた。放心する彼女の横を残りのゴブリンが駆け抜ける。


 それはある種、彼女に取って耐えがたい屈辱だった。最弱たるゴブリンにすら相手にして貰えない。その様な噂が立てば一族郎党の大恥。それならゴブリンに敗北して子を身籠もった方が多少はマシだ。少なくても戦って負けたと言う免罪符が手に入る。


「ま、待ちなさい!」


 彼女は激情の赴くままに吠える。


「なんだ? こっちは忙しい」


 面倒そうにマカンデーヤが振り返る。ここで無視しない辺りがマカンデーヤが意外と

配下に好かれている理由の一つだ。


「えーと・・・・・・」


 まさか振り返るとは思っていなかったのか、娘は言葉を失った。


「どうしても死にたいなら一撃でやってやるぞ?」


「そ、それは・・・・・・」


 死ぬ覚悟はあったかもしれないが、死ぬ気は無かった。マカンデーヤは野生の勘でそれが分かっていた。


「なら俺は行く」


 そう言ってマカンデーヤは歩き出した。娘はどうしたら良いのか途方にくれた。しばらくしてマカンデーヤの後を追った。何故追ったのか彼女も分からなかった。しかし彼の側に居れば野生動物やモンスターに殺される事は無いと考えた。


 この出会いがマカンデーヤを鬼人の国キシュワーンに招くことになる。そして神々の筋書き通りにマカンデーヤとテネブリスアニマが激突する未来に繋がる。

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