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テネブリスアニマ ~終焉の世界と精霊の魔城~  作者: 朝寝東風
第一章 テネブリスアニマ再誕
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イーストエンドの町 攻略戦XI

 数日の内に謎の女性の噂がイーストエンドの町中を駆け巡った。


 コレンティーナ自身が特に隠す気が無かった。


 それどころか激しい金遣いで目立つ行動を意図的に繰り返していた。


 そして侵入してから7日が経った。


 ケーレスが本格的な攻撃を開始して住民のストレスは限界に達した。


 本格的な攻撃と言っても、土魔法で作った岩を昼夜問わず城壁にぶつけるだけ。


 城壁そのものを破壊するには至らない。


 ただ城壁を越えて町に当たる岩もある。


 防衛側はとにかく被害を減らそうと岩の迎撃にリソースを消費する。


 撃ち落とした岩が城壁前の水堀に落ちる。


 そして堀を埋める。


 防衛側はこれを取り除こうとするも、その時だけはケーレスが本気で攻勢に出る。


 おかげで掘は埋められ、城壁までは緩やかな丘が出来ている。


 その気になれば徒歩で城壁を越えられる。


 刻一刻と悪くなる状況。


 そんな住民に取っては苦難を忘れられる女性の噂は熱狂的に受け入れられた。


 領主のフランクと冒険者ギルド副マスターのウェスは彼女の事を疑っていた。


 司祭は半狂乱で祈りを捧げていて、それ処ではない。


 結果的に彼女に割けるリソースが無かった。


 スパイだとしても王国か帝国の手の者だろうと侮った。


 皮肉にも帝国のスパイのふりをしたいコレンティーナにはそれが追い風となった。


 様々な思惑が渦巻く中で籠城戦は遂に20日を超えた。


 そんな中でも中通りにある繁華街は今日も賑やかだ。


 食料を売っている場所は在庫が尽きたのか、全部閉まっている。


 武器や防具を扱う店も棚は空になっている。


 それでも人通りが多いのは新しく売りに出された物を逃さないため。


 後は純粋に岩が落ちる範囲から外れていたのも大きい。


 ド、レ、ミ、ファ……。


 定期的にドスン、ドスンと音がする中でパイプオルガンの音が流れた。


「ちょっと音がズレていますわね」


「すいません、お嬢様。何せ整備出来るやつがここには居なくて」


 コレンティーナは町にある楽器店に来ていた。


 小さな個人商店を除けば、町唯一の店だ。


 そこで彼女は古くなったパイプオルガンを弾いていた。


 楽器を弾けるわけでは無い。


 仁にドからドまで弾く方法を教わったに過ぎない。


 本格的な演奏をしないのならそれで十分熟練者に見える。


「でも売り物なのでしょう?」


「大きな声では言えませんが、神殿のお古を無理やり下取りさせられたのです」


 店員はパイプオルガンの歴史を掻い摘んで話す。


 古くなったので新品を取り寄せた。


 外から運んできたので、町にも店にもなんら利益は無かった。


 古くなったのを処分するなら金に変えようとなった。


 この店がそれを押し付けられた。


 何せ唯一の楽器店。


 断ったら次の日から商売が無くなる。


「それは大変ね」


「木が腐らない様に注意しましたが、それ以上は流石に……」


 最初の頃は目立つところに陳列していた。


 神殿のお古だ。


 それ相応に格があった。


 それで呼び込めた顧客も多い。


 それも今や10年以上前。


 太陽で外は焼け、音程はズレ、輝かしい歴史を覚えている者はいない。


 誰にも知られずにケーレスに焼かれる運命だった。


「買うわ」


「ほ、本当ですか! いやあ、ありがとうございます」


 コレンティーナが即金で買うと約束する。


 彼女の金払いの良さは有名になっていた。


 「今日は何を買う」、「今日は幾ら使う」などが酒場での賭け事の対象になっていた。


 流石にパイプオルガンを買うと賭けた者はいないだろう。


「でも置く所がありませんわ」


 一瞬の間を置き、コレンティーナが困ったように言う。


「……どういたしましょう?」


 キャンセルされては困るので店員は必至だ。


「エストヴィルの村に倉庫を借りているの。そこに輸送してくださらない?」


「ま、まあそれ位なら」


「お願いね。場所は……」


 コレンティーナは倉庫の場所を伝える。


 倉庫そのものはアサンが先回りして確保していた。


 店員は支払いを裏に持っていき、急ぎ馬車を手配する。


 粗相があっては数年に一度の大商談が流れる。


「うふふっ、これでまた噂が立つわ」


 コレンティーナは含み笑いをしながら呟いた。


 エストヴィルの村はイーストエンドの町から60キロ西にある村。


 人口は600人程。


 イスフェリアとイーストエンドの間に残っている唯一の村。


 イスフェリアは東から来た者を脱走兵として殺すと脅していた。


 彼らは本気だった。


 しかし彼らの防衛ラインはエストヴィルの村から30キロ西にあった。


 コレンティーナが輸送を開始するまで誰も知らなかった事実。


 これを知ってエストヴィルの村まで逃げようと考える者が多く現れた。


 イーストエンドの町が落ちるまでエストヴィルの村は大丈夫だ。


 そんな甘い考えを持つ者が多く居た。


 エストヴィルの村には秘密がある。


 それを朧げに知っているのはモイラみたいな老人のみ。


 モイラの虫食った記憶から点と点を線で繋げられるのは仁のみ。


 そしてそれを実地で確認出来るのはアサンの様な存在のみ。


 歴史に隠された真実を持ちて死兵を崩す。


 それがアサンの作戦だ。


 そしてそれはもうしばらくしたら結実する。

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