表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
テネブリスアニマ ~終焉の世界と精霊の魔城~  作者: 朝寝東風
第一章 テネブリスアニマ再誕
71/185

イーストエンドの町 攻略戦IX

 イーストエンドの町の住人の予想に反し、リッチの軍はすぐに攻め掛からなかった。


 総勢1500の軍はイーストエンドの東側に布陣した。


 後方には鮮やかなテントが一つあった。


 それがリッチの本陣だろうとアタリを付けた。


「布陣して一日。相手はやはり動かぬか」


 テントの中に居るアサンがケーレスに話す。


「敵は知らぬ事が多過ぎるからのう」


「相手には調べる方法が無い」


「それでも試さずにはいられぬのう」


 勝ち目が0に見えてもそれを確認しない限り次の行動には移れない。


 確認したら勝つ方法が見つかるかもしれない。


 そんな希望的観測にイーストエンドの町は命運を委ねようとしていた。


「今しばらくは現状維持をしても良かろう。だが……」


「案ずる事は無い、春先までには落とすのう」


「それなら細かくは言うまい」


 アサンはそれで当面は納得した。


 アサンはイーストエンドの町の攻略をケーレスに譲った。


 アサンの狙いはイスフェリアの町。


 あそこの方が遥かに滅ぼし甲斐がある。


 小物はケーレスに任せて半ば高みの見物を決め込んだ。


 そしてこの態度に困ったのがケーレスだ。


 どう攻めるか未だ悩んでいた。


 イスフェリアの人口は8000人。


 戦える敵は800から1600人。


 互角の手勢で石壁に守られた要衝を落とすのは辛い。


 人類が本気で整備していたら、ケーレスのアンデッドでは落とせなかったかもしれない。


 もっとも簡単な手段は既に分かっている。


 アサンが城門を蹴り飛ばし、単騎で住人を虐殺すれば良い。


 大勢は一日で決まる。


 ケーレスが頼めばアサンは動くだろう。


 アサンは頼まれなければ絶対に動かないだろう。


「まずは周辺の地形を調べるかのう」


 ケーレスにしては消極的な手を打った。


 仁の何気ない一言が原因だ。


 イーストエンドの町は作りがおかしい。


 町の周りには全方位に道が伸びて、農村があって然るべき。


 しかし道は東西に伸びているのみ。


 冒険者から手に入れた情報でもイーストエンドの町の周りには何があるかはっきりしなかった。


「パワーノードの恩恵に寄生しているだけだ」


 アサンはあっさり切り捨てた。


 それが皮肉にも正解だった。


 そしてそれは仁が考えている以上に人類が弱い事を意味していた。


「あそこにある小型パワーノードなら一万人規模を養えるのう」


 ケーレスはアサンの発言に一定の理解を示す。


 それ以外の理由があるのか検証して実験したい。


 ケーレスはそのためにゴブリンスケルトンをイーストエンドの町の北と南に派遣した。


 そして何事も無く5日過ぎた。


「まだ動かん」


 アサンは多少苛ついていた。


 敵との華々しい一騎打ちや歴史に残る高速機動戦闘は起こらなかった。


「まだ動かないですのう」


 ケーレスは特に気にしていなかった。


 彼に取って時間は無限。


 焦る必要は無い。


 それに調査は進んでいた。


「何を書いている?」


「確認したエリアと襲撃の有無よのう」


 ケーレスは自作のマップを広げていた。


 イーストエンドの町の南北には文字がぎっしり書き込まれていた。


「北側の襲撃が多い」


「北に小さな門があるのう」


「ほう、門か」


「道が出来たら使い勝手が悪いのう」


 商業用の門では無く、秘密の脱出路に近い。


 南側にはまだ門は見つかっていない。


「かなり先までは進んでいるが、価値はあったか」


「開拓後は無いのう」


「本当に東西の連絡路でしか無いのか」


「後は東からの防壁かのう」


「その割に援軍が到着する様には見えん」


「捨てられたかのう」


「厄介な」


 アサンも死兵は面倒だと知っていた。


 アイアン・サーガ・オンラインではバフで強化され、単騎でもHP0になるまで戦う。


 ただただこちら側の被害を増やす存在。


 それにおまけで攻略中の拠点に火を放つ事もある。


「本を焼かれては困るのう」


「本より楽器だ」


 イーストエンドの町の攻略するにあたり、この二人の本命は楽器と本だ。


 住人など最初から眼中に無い。


 フランクが「本と楽器を置いて行くから撤退を認めて」と言えば、二人は合意していた。


 常識的にそんな事を考え付く事は出来ない。


 特に実りの無い会話をしながら二日経過した。


「貴方たち、まだ落としていないの?」


 コレンティーナが前線を訪ねて来た。


「未だ」


 アサンがぶっきらぼうに答える。


「陛下が頑張っているのに!」


「して陛下は何か言ってきたのかのう?」


「モイラって人から歴史を色々とね」


 代官としてラクの村に赴任した仁は聞き込みをしていた。


 モイラ以外は農業の事しか知らなかった。


 モイラは開拓開始の時から生きている。


 一般には忘れられた記憶を多く持っていた。


 生憎、モイラにはそれを活用できる実力は無かった。


 仁には出来た。


 アサンなら更に有効に使えた。


 そのため、仁を影ながら護衛していたコレンティーナが前線に送られた。


「こんな事が!?」


 アサンは仁が上手く纏めた書類を読んで驚愕する。


「イーストエンドの町の事が説明出来ますのう」


 ケーレスは相槌を打つ。


「今回はこの情報は役に立たないかしら?」


「そうでも無い」


「そう?」


「逃げ道があれば死兵は弱兵となる」


「どういう事よ」


 アサンはコレンティーナに状況を説明した。


 そして一仕事頼んだ。


「呆れたわ」


「出来るだろう?」


「仕方が無いわね」


 コレンティーナは肩をすくめた。


 上手く行けばイーストエンドの町の防衛に大穴を開けられる。


 ここで試すのも悪く無い。


 仁に確認を取った後、コレンティーナは一人でイーストエンドの町を落としに向かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
一日一回投票可能です
小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ