表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
テネブリスアニマ ~終焉の世界と精霊の魔城~  作者: 朝寝東風
第一章 テネブリスアニマ再誕
7/185

方針

「目立ったと思うか?」


 仁が聞く。


 答えは何となく分かっていた。


 それでも聞かざるを得ない。


「太陽がもう一つ増えたかの様でした」


「かの鳥を見て、付近に居た生き物は全て逃げましたのう」


 アサンとケーレスがフェニックスの印象を語る。


『最悪だ。どう考えても何処かで目撃されている。』


 仁は焦った。


 こっちは準備が整っていないのに、フェニックスがこの方角から飛来したとバレる。


 ある程度蛇行していれば良いが、それでも東から来たと思われるだろう。


「フェニックスが何処から来たか調査されるとして、いつ頃来るか?」


「近くに大きな都市は無かろう」


 アサンは周りの状況から都市を作る知的生命体が近くに居ないと推察した。


「小規模な先発部隊は別として、纏まった数は数か月は来ないかのう」


 未開の地に踏み込むなら準備期間がいる。


 人員はなんとかなっても兵站は違う。


 ケーレスはそこに注目して、数か月と試算した。


「小規模なら俺がぶっ飛ばせば終わりだぜ!」


「弱体化したのを忘れたの? まずは強くならないと」


 マカンデーヤの脳筋発言にコレンティーナがツッコミを入れる。


『最速で強くなる。それしか無い』


 仁はマカンデーヤの考えを内心支持した。


 ランク3までしか上がれないが、多少ステータスに下駄を履かせられる。


 モンスターを倒す過程で手に入る魔石でテネブリスアニマを強化して、各種機能と部屋を解禁出来る。


 その上でアサンが玉座の間で敵を迎え撃てば勝利は確実。


 小規模の部隊がアイアン・サーガ・オンラインのヒューマン最強の英雄部隊と同等ならこれで勝てる。


 仁は少しばかり希望が見えて来た。


「数日で限界まで鍛えよ」


「御意」


 仁が玉座から命令を出す。


 アサン達が承諾の意思を示す。


「近隣のゴブリンを倒すのは良いですけど、方針はどうなさいます?」


 ゴブリン狩りなど数日で終わる。


 コレンティーナがその後の事を問う。


「取れる方針はラッシュ、ブーム、タートルと言ったところか」


 仁はアイアン・サーガ・オンラインで良く使われた方針を口にする。


「ラッシュ一択だぜ! ゴブリン潰して、次の敵を潰して、そして世界を陛下に!」


 マカンデーヤが勇ましく吠える。。


 ラッシュは速攻で敵を倒し、経験値と戦利品頼りの戦法。


 上手く決まれば大抵のイベントを数分でクリア出来たが、息切れするとそのまま滅亡だ。


 近隣のゴブリン限定でラッシュをかけるのは既に決まっている。


「内政をしっかり整えて一気に攻勢に転じるブームかのう」


 前準備に全てを賭けるケーレスが反論する。


 ブームは内政を充実させてから戦力を用意する。


 攻められない状況なら最善手であり、仁もゲーム内で多用していた。


「外に行く必要が無いのです。タートルも悪く無いです」


 コレンティーナが仁の内心を汲んで言う。


 タートルは引きこもって防衛を優先する先鋒だ。


 ブームと違い、反転攻勢を視野に入れていないため、攻める事が出来ない。


 最近のゲームでは忌避される事が多いが、リソースが有限なら粘り勝てる。


 防衛する側に体力を回復する何かがあれば一方的に敵に出血を強いる事が出来る。


 100年の寿命しか無いなら取り辛いが、アサン達に寿命は無い。


 極論するならば、何らかの事情で他の知的生命体が全滅するまで引きこもっていれば良い。


「リソースの確保さえ出来るのなら、陛下の選択に従いましょう」


 アサンはあえてどれも選ばなかった。


 アサンがどれかを選べば、その方針に2票入る。


 仁が違う方針を選択すると2つの方針が同数になる。


 詰まらぬ仲間割れの要因となる。


『アサン、俺の王としての器を試そうとしているのか?』


 アサンの心、仁知らず。


 仁が疑うのも無理は無い。


 ゲームならいざ知らず、現在は能力、知能、決断力、全てにおいてアサンが上回っている。


 ランク3になる早道以外に仁を王に据える理由が無い。


 少なくても仁の考えでは理由が浮かばなかった。


 アサン達の忠誠心は本物だったが、仁はそれを無条件で信じられるほどお人好しでは無かった。


『王に相応しい振る舞いをすれば、当面は大丈夫だ。これでダメなら積んでいると諦めよう』


 仁の強さ。


 それは諦めの良さ。


 もう少し頑張れ、と常に発破を掛けられて来た。


 それでも仁は自分のスタンスを曲げなかった。


 良いか悪いかは別として、一本芯が入っている仁は強い。


「ラッシュだ。俺たちの強さは攻めだ!」


「応よ! それでこそ陛下だぜ」


 マカンデーヤが喜色満面で喝采を上げる。


「分かりましたのう」


「陛下が命を全力で遂行致しますわ」


 ケーレスとコレンティーナもこれに倣う。


 ケーレスは残念そうだが、コレンティーナは特に気にしていない。


 この手の方針選択を苦手としているコレンティーナ。


 今回声を上げたのは仁とアサンに違う方針を打ち出させないため。


 自分が泥をかぶり、テネブリスアニマ運営に欠かせない二人の対立を未然に防いだ。


 この手の心配りこそコレンティーナの真骨頂。


 どんな男の心でも弄べると豪語する大淫婦らしい。


「方針はラッシュ。最初の目標はゴブリン。3マンセルで昼夜を押して攻める!」


 アサンが方針を具体化する。


 三人態勢なのは一人がここで仁を守らないといけないから。


 仁とマカンデーヤ以外は睡眠を特に必要としない。


 この世界のゴブリンの生態は不明だが、夜に活動が鈍る様ならアサンとケーレスが一方的に狩れる。


 ちょうど太陽が下がり、月が出て来たので、仁とマカンデーヤを留守番において、三人が外に出て行った。


「陛下、腹が減ったぜ!」


「良し、俺が何か作ろう」


 かくして王である仁の最初の仕事がおさんどんに決定した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
一日一回投票可能です
小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ