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テネブリスアニマ ~終焉の世界と精霊の魔城~  作者: 朝寝東風
第一章 テネブリスアニマ再誕
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イーストエンドの町 攻略戦II

 ダグの村跡は騒がしかった。


 昨夜遅くトーラス達が帰還した。


 神官達は帰還を想定していなかった。


 それどころか、全滅を確信していた。


 トーラス達をゾンビと疑って一触即発の事態になった。


 道中で死んだ一人を除いて、7人は満身創痍。


 腕を失っていたり、体に矢が突き刺さっている者が多かった。


 無傷と言えたのは僧侶ただ一人。


 不自然なまでに無傷だったので、冒険者達の目は厳しかった。


 僧侶本人は高徳の高さ故と嘯いていたが、本人ですら信じていなかった。


 そんな7人が夜中にうめき声を上げながら簡易陣地に近づけば警戒される。


 その時はそんな事を考える余裕も無かった。


 皮肉にもトーラス達を救ったのはかつてのロバートの行動だった。


 神官達にターンアンデッドとセンスイービルを掛けて貰って信用して貰った。


 その後は治療を頼んだが、返事は芳しく無かった。


 神官は守護の石柱の調査に来ているのであって、冒険者を癒すために来ているのでは無い。


 正論ではあったが、頭に血の登った冒険者達には逆効果だった。


 この調査依頼は神殿が冒険者ギルドを通じた正式なものだと脅してやっと最低限の治療を施して貰った。


 何はともあれ、調査任務に参加した僧侶は次の朝にイーストエンドの町に送られる事になった。


 冒険者達の今後は特に指定は無かった。


 神官達は粗暴な冒険者とこれ以上関わりたくなかった。


 冒険者達は疲れてそれどころでは無かった。


 その日はそのまま不穏な空気が流れる中で終わった。


 朝早くになって、トーラスはイーストエンドの町に帰還する冒険者の選定をしていた。


 馬車が一台出る。


 しかし僧侶一人だけ帰還させるのは危険。


 そうなると護衛として冒険者を数人付ける必要がある。


 僧侶も冒険者だが、戦闘能力は低く、神殿を優先するだろう。


 そうなると護衛の冒険者が冒険者ギルドに報告する。


 重要な役割なので、人物の選定に気をつかった。


「迷っているのかトーラス」


 スカウトリーダーが話しかける。


「ああ、誰を送るか」


「トーラス、おまえが行け」


「俺はここに残らないと」


「残っても出来る事は無い」


 責任を理由に動かないトーラスと、出来る事が無いと反論するスカウトリーダー。


「何故、そこまで俺を行かせたい?」


「家に帰ってからが本当の遠征だ」


「どう言う事だ?」


 トーラスはこれで仕事が終わったと思っていた。


 そのためスカウトリーダーの発言の意味が理解出来無かった。


 部隊を指揮する経験を生かして調査部隊を率いた。


 しかし軍人時代はその上に行ったことは無かった。


 スカウトリーダーは、今こそそれが必要だと強弁した。


「僧侶が帰ったら、神殿は自分の良い様に報告を捻じ曲げる」


「そんな事して何になる?」


「あの紋章、知っているのは貴様だけでは無い」


「……」


「帝国なら紋章のために何でもする」


「懸賞金の額は大きいが……」


「神殿は金など望まない。おそらく帝国内での発言権の強化」


「それはまずく無いか?」


 神殿の発言力は年々低下している。


 特に帝国での発言力の低下は顕著だ。


 この流れをひっくり返せるのなら祭っている神ですら平気で殺す。


 複数の神話が融合した多神教故に、政治上得となれば神を切り捨てる事を厭わない。


 幸い、エボルグラス王国のとある一件を青き閃光が上手く治めたため王国内での発言力は多少回復した。


 となると王国と同じく巨大な軍事力を保持する帝国でも似た奇跡を起こしたい。


 神殿内に居る帝国出身の者なら誰でもそう考える。


「最悪の事態を想定しろ」


 エボルグラス王国の一件は神殿の発言力を強めた。


 王国は未だその混乱から立ち直っていない。


 これが巡り巡って、ルトシズ魔法王国への援軍派遣が滞った。


 そしてルトシズ魔法王国と隣の中央神殿は失陥の危機に瀕している。


 人類からしたらあの一件は有難迷惑でしか無い。


「それには同意する」


 軍人時代でも常に最悪を想定して行動していた。


 トーラスに取って、これは理解しやすい言葉だった。


「だから貴様が行け。神殿は貴様を買収出来ない」


 スカウトリーダーが自信を持って言う。


 トーラスの為人を見て来ての判断だ。


 人も組織も信じないスカウトリーダーに取っては異例の事だ。


「……」


 トーラスは無言で頷いた。


 神殿と言えど、調査部隊を率いたトーラスに強硬策は取り辛い。


 僧侶や他の冒険者なら神殿が買収出来るし、確実にそうする。


 冒険者ギルドもトーラスの発言だけは別格として扱う。


 あの旅路の真実、そして証拠となる1つの紋章と2つの日記。


 それを神殿に歪められないためにもトーラスはイーストエンドの町に帰る事にした。


「本当は先行して出し抜いて欲しい位だがな」


 スカウトリーダーが初めて笑う。


「意地でも食らいつく、までは約束するぜ」


 トーラスもつられて笑う。


 暫くして馬車がダグの村跡から出た。


 トーラスと冒険者二人が歩いて、僧侶が馬車の上だ。


 神官達は見送りに来なかったが、動ける冒険者達は見送りに来た。


「帰った来たら酒場で奢るぜ!」


 出発前にトーラスが景気良く言う。


「頼むぜ!」


「目を付けていたワインがあるんだ」


「酒場の嬢が俺を呼んでいるぜ」


 冒険者達が口々に言う。


 彼らはトーラスが見えなくなるまでその場に居た。


 双方ともこれが今生の別れとも知らずに。

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