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テネブリスアニマ ~終焉の世界と精霊の魔城~  作者: 朝寝東風
第一章 テネブリスアニマ再誕
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ブランカルミナリスIX

「はあぁぁぁ!」


 仁の剣がゴブリンスケルトン数体を薙ぎ払う。


「こっちです!」


 仁の声に反応してトーラス達が追従する。


 トーラス達はアサンとの戦いで心身とも疲労していた。


 少し走ってはゴブリンスケルトンの一団と遭遇する。


 それを何回か繰り返した。


「またか!」


 仁はいつもの様に華麗な剣捌きで敵を倒す。


 仁は剣を使った経験はほとんど無い。


 全てはコレンティーナの幻影魔法の補正。


 冒険者達には素人丸出しの剣筋が達人の剣筋に見える。


 そして倒されるゴブリンスケルトンはケーレスが指示を出している。


 斬られたふりをして自壊する動きは不自然極まりない。


 幸い、それはアンデッドだから、と冒険者達は片付けた。


 元々ケーレスは芝居や演技に価値を見出せない。


 だからこんな大層な出し物も時間の無駄としか思っていない。


 病的なまでに演出過多なアサンを密かにあざ笑っている。


 それを言えばアサンとの命を懸けた死闘が始まるので、黙っている。


 今回は大きな作戦の一部と言う事で渋々やっている。


『経験値入らないのが残念だ』


 結構倒しているのに、仁は経験値を稼いでいる感じがしなかった。


 アイアン・サーガ・オンラインでも召喚されたモンスターに経験値は設定されていなかった。


 これはボスだけ生かして、延々雑魚を召喚させて経験値を稼がせないための措置。


 ただ経験値の無限稼ぎは誰でも望む事。


 無限湧きするポイントを使った経験値稼ぎは当然の様に横行していた。


 シナリオの都合で侵入出来ないエリアに入ろうとすると、敵が湧いて押し戻される。


 その敵は召喚されていないので、倒せば経験値になる。


 それを繰り返す。


 こうして倒した敵の数がシナリオの敵軍の総数より多かったりするが、それは些細な問題だ。


「ジーン殿、道は確かなのか」


 トーラスが聞く。


 彼としては案内されるしかないと諦めていた。


 しかし余裕が出来る内に後ろの冒険者達が騒ぎ出した。


「もう少しで城から出られます」


 仁は走りながら言う。


「恐らく本当だ」


 スカウトのリーダーが仁を肯定する。


 それを聞いて他の冒険者達も一応納得する。


「くっ、この一団を倒せば出口です」


 仁が出口の前に居る最後の一団を指す。


「俺たちも戦うぜ」


「そうだぜ、骨野郎には負けねえ」


 冒険者達が前に出る。


『邪魔』


 仁は冷たく思った。


 乱戦になればコレンティーナの幻影に綻びが出来る。


 実際はこの規模なら大丈夫だ。


 それでも弱い仁は不確定要素を嫌った。


「一人先行しろ」


 スカウトリーダーの命令でスカウトが一人飛び出す。


 城を出たら敵の待ち伏せがあった、となれば笑えない。


 スカウトリーダーの警戒は正しかった。


 しかし杞憂に終わった。


 冒険者達は盛大に手古摺りながらゴブリンスケルトンの一団を倒す。


 実力不足を始め、様々な要因があった。


 その中でも僧侶が疲労で魔法を使えない事が一番堪えた。


 ターンアンデッドを放てれば、道だけなら一分で斬り開けた。


「こっちです、早く!」


 仁は城の大扉を潜って外に出る。


 残りの冒険者達も続く。


 先ほどの戦いで疲れたのか、文句を言う者は居なかった。


 それとも城を出た光景で言葉を失ったか。


「都市が無い?」


「あばら家があるぞ」


「あんなのが都市の建物か!」


 冒険者達は茫然と立ち尽くす。


「これは一体?」


「一度滅ぼした都市を幻影で作り直すために起点となる建物を用意したのです」


 仁が答える。


 仁に取っては隠すほどの事は無い情報だ。


 しかし人類に取っては青天の霹靂。


 仁のこの発言が人類の幻影魔法の歴史の針を200年は早めた。


「城門が閉まっている!」


 先行していたスカウトが帰ってくる。


「どうするか……」


 トーラスが迷う。


「城門を開いて外に出ましょう」


 仁が言う。


「可能なのか?」


「幻影で消えなかった。それならかつての面影があります」


 仁が自信満々に言う。


 冒険者達は衛兵とも親しかった男の言葉を信じた。


「敵がいない」


 スカウトリーダーが不意に呟く。


 城門まで後少し。


 何故かそれまでに襲撃が無かった。


 順風満帆に進んでいる時こそ罠を疑え。


 スカウトなら当然の懸念だ。


「城門で仕掛けて来るのでしょう」


 仁が答える。


 日々の運動不足で息も絶え絶え。


 それでも幻影のおかげで涼しい顔をしている。


「門を開けられたら勝ち、さもなければ負けか」


 トーラスが分かりやすく言う。


『出ても追手があるから、勝ちでは無い』


 仁は何も言わずに首を縦に振った。


 ここで水を差す事をしても意味が無い。


「そこの階段を上って、右にある管理室にあるレバーを押すのです!」


 仁が城門の開閉機構を説明する。


 スカウトの一人と機械に詳しいらしい冒険者が上を目指す。


 スカウトリーダーは城壁に上り、外に敵が居ない事を確認した。


 トーラス達は城門を押し開けるために下に残った。


「後一息!」


 トーラスが安堵のため息を出す。


 城門の鍵が開く音がした。


 そしてそれを合図にあばら家に居たゴブリンスケルトン達が一斉に出て来た。


 城壁に隠れていたゴブリンスケルトンも出て来た。


 その数は優に千を超えていた。


「押せ! 押すんだ!」


 トーラスが悲痛な叫び声をあげる。


 人一人が通れるスペースを確保しないと死ぬ。


 全員死に物狂いで頑張った。


「ゴブリンスケルトンは私が暫く押し戻します」


 仁が後ろから迫った集団に斬り込む。


 城門の管理室に行った二人はゴブリンスケルトンの波に飲み込まれた。


 上から血の雨が降り、叫び声が聞こえた。


「お前たちの犠牲は無駄にはしない!」


 トーラスが叫ぶ。


 そして城門が人が通れる隙間が出来た。


 その次の瞬間、魔法で城門が完璧に開いた。


「開いた?」


「すげえ」


 冒険者達が口々に言う。


「ほっほっほっ、ただの手品よのう」


 その声を聞いて冒険者達は心の芯から凍り付いた。


 城から迫って来るゴブリンスケルトンが二つに分かれた。


 そして出来た道を一体の何かが歩く。


「貴様は!?」


 仁が問う。


 問えるのが仁だけだった。


「名前など遠の昔に忘れたのう。最近はケーレスと呼ばれているのう」


 ケーレスの真っ赤な双眸が冒険者達を睨む。


 トーラス達は遂に探していたリッチと相対したのだった。

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