表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
テネブリスアニマ ~終焉の世界と精霊の魔城~  作者: 朝寝東風
第一章 テネブリスアニマ再誕
55/185

ブランカルミナリスIII

 城のバルコニーからは城下町が良く見える。


 夜になって皆寝静まっているが、所々にまだ灯りが付いている。


 ロバートは黙って闇を見ている。


「ロバート殿、冷えますよ」


 仁が後ろから声を掛ける。


「ジーン殿か」


 ロバートが振り向きざまに言う。


「中々の絶景でしょう」


「悪くは無い」


 仁はロバートの横に並び、町を見下ろす。


 ブランカルミナリスの城下町は仁の人間プレイヤー時代の記憶を下に作られている。


 テネブリスアニマみたいな大都市になる前に死んだので、仁の記憶でもこの程度の大きさだった。


『懐かしい』


 仁は感慨にふける。


 蛮族経済のテネブリスアニマでは城下町が大都市になっても荒野の如し。


 ブランカルミナリスでは20世紀初頭と言っても良い活気がある町だった。


 この世界ではテネブリスアニマにもこの程度の活気は欲しい。


 仁の密かな目標だった。


「ここの景色を見るとついつい昔を思い出す」


「昔ですか?」


 仁の哀愁の念がこもった目を見て、ロバートは仁が嘘を付いていないと思った。


 仁の考えている事と口から出る言葉は全然別だった。


「ザンボルドに居た頃の事です」


「あの帝国ですか」


 ロバートは話半分に聞いていた。


 とは言え、まさか帝国の名前が出るとは予想していなかった。


「諸般の事情で外に出て、帰る事が叶わなくなりそうです」


「ご家族でも?」


「生きていれば兄が80を超えているでしょう。後は兄の家族」


「それは高齢ですな。現皇帝を除いて余り高齢の方の話は聞きません」


「そうですか」


 本物のフェルディナンドならこれを聞いて何か違うリアクションをしただろう。


 しかし仁に取ってはフェルディナンドの兄が存命だと言う情報でしか無かった。


「なんなら一緒にイーストエンドの町まで帰りますか?」


 ロバートは仁の言った「叶わない」が気になった。


 帰りたいなら帰れるはず。


 何か理由があるのか。


「貴方も気付いているのでは?」


「な、何を!?」


 仁の言葉にハッとするロバート。


「ここの違和感ですよ」


「それを言うのならジーン殿に会ってからだが」


「これは手厳しい。まあ分からないでもありません」


 人類未踏の地でログハウスに住む初老の男性。


 違和感ありまくり。


「でも、それでは無いのだな」


「ご明察です」


「なら何が?」


「ブランカルミナリス」


「この城の一部、いえ全部ですか」


「初見の皆さんでは分からないでしょうが、全員少し違うのです」


 癖とか仕草とか。


 無意識の領域の行動。


 凡人なら気付く事すら無い。


 しかしフェルディナンドなら気付く。


 仁はフェルディナンドが気付いた体で話を進めた。


「違うという事は……」


 ロバートは言葉を続けられなかった。


「他人と言う事です」


「なら彼らは一体誰なのだ!?」


「分かりません。分かりませんが、恐らくすぐに分かりそうです」


「出来れば化けの皮は最後まで剥がれて欲しく無い」


 ロバートは心の底からそう思った。


 ここは敵地であるとロバートはずっと主張して来た。


 しかし仁にそれを言われては逆に全力で否定したかった。


「まったくです」


 仁は同意しながら、もう一度夜の城下町を見下ろす。


「ブランカルミナリスには詳しいので?」


 ロバートが意を決して聞く。


 仁に対しての疑惑は払拭出来ていない。


 それでもここに異常があると知らせてくれた。


 ロバートは自分が間違っていたことに一縷の望みをかけた。


「かつて死病を患っていた時、治療法を探す名目で東の探索をしたのです」


 やけくその行動だった。


 成功率などありはしなかった。


 実際、本物のフェルディナンドは道中命を落とした。


「患っている様には見えないが?」


 ロバートは懐疑的だ。


「陛下に直して貰いました」


 仁はさも当然の様に言う。


「そんな馬鹿な!」


「本当です。ブランカルミナリスには万病を癒すフェニックスの卵がありましたから」


「フェニックス。可能なのか……。嫌、そんな事は……」


 ロバートは考えが纏まらなかった。


「祖国では治療が可能なんて誰も思っていないでしょう。私が帰っても国が混乱するだけ」


「帝国なら大規模な軍を送るでしょう」


 フェニックスの卵を巡っての一大争奪戦。


 ティファーニア農業国を滅ぼした戦争が子供の火遊びに思えるほどの大戦争になっていた。


「だから帰れなかったのです」


 大恩あるブランカルミナリスに不幸は招けない。


「なるほど」


「フェニックスの卵の加護があれば大丈夫だったかもしれません」


 仁は笑みを浮かべて言う。


「それなら今でも……!」


「西へ飛び立ったフェニックス。私も見ました」


「では、あれはここで孵った!?」


「その日以来、私のログハウスにはブランカルミナリスから誰も訪ねて来ていません」


「良く人が来たので?」


「主には食糧の差し入れです。後は陛下がお忍びで狩りに来る事も」


「雪だからってわけではないですよね?」


「そうずっと思いたかった」


 フェニックスの卵を失ったブランカルミナリス。


 そして何か悲劇が起きた。


 仁の話はロバートを信じ込ませるには十分だった。


「かつて栄華を誇った城下町をもう一度見られた。それを良しとしますか」


「勝手に終わった感じにするな!」


「それは申し訳ない。私の勘ですが、明日には何か動きがあるでしょう」


「勘ですか」


「大規模な魔法が掛かっていると仮定するのなら、維持は明日まででしょう」


 仁は嘘を付いた。


 ただロバートの常識では真実だった。


 長期間、高度なエリア魔法をかけ続けられるのはコレンティーナだからこそ。


「アレか……」


 言葉に出さない様にロバートが言う。


 一度言葉にすると魔法が崩れる。


 それでは事態の更なる混乱に繋がる。


「そうだろう」


 仁も頷く。


 トーラス達が追って来たリッチ。


 彼が大規模な幻影魔法を掛けている。


「なら先に寝るか。明日は忙しそうだ」


 ロバートは幻影がある間は安全と判断した。


 だから明日始まるだろう決戦の前に少しでも休む事にした。


「武運を祈る」


 仁はそうとしか言えなかった。


 戦いの時は数時間後に迫っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
一日一回投票可能です
小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ