白亜の城IX
『常識的な対応だな』
仁は詠唱を覚えようとしながら、必至に詠唱する僧侶たちを見ていた。
仁は腕の一本でも斬られるのかと覚悟していた。
それが感知系の呪文による調査ではそう思うのも無理は無い。
『結果が黒でも俺に掛かった幻影が解けない限り白としか認知されないし』
青き閃光のサミュエルならいざ知らず、このレベルの僧侶ではコレンティーナの幻影を打ち破る方法は無い。
サミュエルがディスペルやブレイク・イリュージョンを使えば仁も肝が冷えた。
しかしここに居る僧侶たちではそんな高度な魔法は使えないし、使っても能力差で幻影を打ち破れない。
仁は絶対の自信を持って佇んだ。
その姿を見て、冒険者達は仁が白だと言う思いを深めた。
皮肉にもロバートの行動が冒険者達をより深みへ誘った。
「では某から、タァァァンアァァァンデッドォォォ!」
眩い光が仁を包む。
ただ目が眩む程では無い。
『これが人のターンアンデッドか』
仁は体に及ぼされる効果を見ながら考えた。
コレンティーナのターンアンデッドに比べれば明らかに詠唱者の力不足。
だが何故そうなのか、までは分からなかった。
ランク差、レベル差、スキル差など、色々と思い浮かんだが確証は得られなかった。
「こんなものか?」
仁は聞く。
「ジーン殿は間違いなくアンデッドではありません」
詠唱した僧侶が言う。
「リッチの様な高位アンデッドならターンアンデッドを無効化出来るのでは?」
ロバートがすかさず言う。
このまま流されてはロバートの立場が無い。
「それはありません。ターンアンデッドは2つの魔法効果から成り立ちます」
僧侶が丁寧に説明を開始した。
対象になった仁のために特別にレクチャーしてくれている。
効果は二つ。
一つはアンデッドの有無の確認。
これは絶対効果で、たとえリッチでも誤魔化せない。
一つはアンデッドの消滅。
これは術者次第でアンデッドが逃げるだけから消滅まで幅広い効果がある。
「それならアンデッドでは無い事は確か」
ロバートが反論出来る前にトーラスが宣言する。
こうまで言われてはロバートとしては黙るしかない。
ロバートとトーラスが争えば戦力の分断に繋がる。
それは避けたかった。
「では次は某が、セェェェンスイィィィビィィィルゥゥゥ!」
魔法が発動する直前で詠唱を止めていた僧侶が動く。
今回の魔法はどうなるか仁は多少心配していた。
モンスターでは無く、悪を感知する面白い魔法だ。
誰が悪を定義しているのか。
悪を悪と思わない者でもセンスイービルの効果で露見する。
となると、この魔法は術者を基準に発動している。
それ故、術者によって善悪の価値観でブレる。
『神が直接判定を下すほど暇じゃないだろうし』
仁は達観していた。
そしてはそれは結果に表れた。
「悪ではありません」
僧侶が淡々と言う。
ロバートはこの世の終わりの様な顔をしている。
アンデッドでも悪でも無い。
例えこれ以上醜態を晒しても、仁の評価は動かない。
冒険者達に取って、仁は道先案内人を務める初老の男性で固定された。
『良かった、良かった』
仁はこの難局を乗り越えられて安堵していた。
イレギュラーがあれば、近くに潜んでいるアサンが動く。
アサンが動いたら、ここに居る冒険者達では数分も持たない。
しかしそれはより大きな作戦の失敗を意味する。
『幻影のためにコレンティーナを城に帰して良かった』
コレンティーナならロバートが声を上げた時点で介入していた。
彼女に取っては仁の安全こそが最優先。
作戦が潰れようとかまう事は無い。
『アサンなんて腕一本位までなら作戦を優先するだろうな』
対してアサンは仁に命の危険が無い限り作戦を優先する。
仁が腕一本斬られる覚悟をしたのもこのためだ。
アサンとコレンティーナは強い上に仁への忠誠心が高い。
それでもお互いの優先順位にはかなりの違いがある。
『上手く適材適所に配置しないと喧嘩になりそうだ』
仁はこれ以降の難しい舵取りに胃を痛めた。
ロバートのせいで多少遅れが生じたが、トーラス達は動き出した。
しばらくすると先行していたスカウト三人が合流した。
「お前たちか、どうだった?」
「間違いない、白亜の城があった」
「中は?」
「流石に遠目で見ただけだ」
「他には?」
「城門の前には人の衛兵が居た」
「なら、安全か」
トーラスはスカウトの報告を聞く。
中まで確認して来なかった事が残念だった。
しかしスカウトに危ない橋を渡れと命じられるだけの権限は無かった。
それでも衛兵が人間であると言う情報は重要。
骸骨の衛兵だったら回れ右していた。
「全員で入るのか?」
ロバートが問う。
「ここで野宿する事は無理だ」
トーラスが一蹴する。
精神的に無理。
物理的には可能かもしれない。
「ログハウスに戻りますか? 鍵ならお預けしますよ」
仁が善人面で言う。
もちろん、誰もログハウスに辿り着く事は無い。
「……ここで数を減らすのは得策では無い」
ロバートはなんとか言葉をひねり出した。
怒りと屈辱、そして敗北の劣等感で気が気では無かった。
それでも冒険者達を見捨てまいと虚勢を張った。




