玉座に一人II
近隣調査は不完全。
それでも東にゴブリン、西に人間が居るのが判明した。
北と南には目立った反応は無い。
隠れているのか、もっと遠い場所に居るのか。
『東か西か』
仁は腕を組んで考えた。
テネブリスアニマが再利用出来る文明があるのは西だ。
前世の縁で人間に親近感を抱く仁は西を攻めたかった。
『神の狙いは西へ行かせる事だ』
仁はこれだけは確信を持って言えた。
コレンティーナからの又聞きだが、ダグの村とラクの村があると知っていた。
それ故、この先に何があるのか見てもいないのに知っていた。
『村1、村2、町1だろうな』
ダグの村からまだ見ぬ町までは一本道。
攻略して貰うために存在しているかの様だ。
『町1からは村を1つから3つ挟んで都市1のはず』
さしもの仁もここは確証を持てなかった。
しかし、ほぼ正しいと個人的に考えた。
『町と都市の間の村から分岐の線もあるか』
道中の村が町と都市ともう一つの村をT字で繋ぐ可能性はあった。
T字の先の村には小イベントがる。
アイアン・サーガ・オンラインの初期マップそのものだ。
無論、ゲームと全然違う可能性はあった。
しかし、これまで仁が見た現実はゲームとの類似性を強く物語っていた。
『最初のストーリーアークは一本道でプレイヤー有利。定石だな』
数瞬の沈黙。
『糞くらえ!』
仁は決めた。
『西になど行くものか』
神の狙いが西にあると言うのなら意地でも抗う。
イベントがある?
最初の町でレベル99にして最強装備を揃えてからだ。
ゲーマーとしては当然の選択。
『それでもあっちから来るか』
ゲームならこっちが動かなければあっちも動かない。
現実なら相手の戦略次第でテネブリスアニマまで攻め込む。
仁はそれほど気にしていなかった。
玉座の間にアサンを配置すれば敗北はあり得ない。
そして万が一負けたら諦めも付く。
『懸念は相手の攻勢を潰してなし崩し的に西の国を制圧する事だ』
ダグの村の状況からして裕福では無い。
最初のストーリーアークの敵役であるなら国としても雑魚の部類だ。
それこそアサンかマカンデーヤを一人派遣したら蹂躙出来る程度の勢力だろう。
国力差からしてダグの村を国境地帯には出来ない。
こっちが強すぎる。
『望まずとも西は俺の物になるか』
仁は神への悪態を付きながら、征服した場合の未来に頭を悩ませる。
西が半島の先でこれ以上国が無いなら幸い。
実際はそんな都合の良い立地では無いはず。
そもそも隷国なんて名乗っているのだ。
近くに宗主国があるはず。
『隷国を奪われた宗主国と連戦か。嫌になるよ』
仁はこの時、敵は一か国だと思った。
実際は四か国をほぼ同時に相手取る事になると知るのは少し先だ。
『ここまで来たら神の当面の狙いにこれを追加出来るか』
5.一定規模の勢力になる。
『やばい。これは実にやばい』
仁は冷や汗をかいた。
この世界が横スクロールのアクションゲームならアサン一人で無双出来る。
でも違う。
一人で無双するには世界が大きすぎる。
テネブリスアニマの現在の領土なら一人で無双出来る。
しかし西の国を占領し、更にその先まで手に入れたら、手が足りなくなる。
『圧倒的な強さを持つユニットを占領地に配置するとして、俺ならどうやって俺を殺す?』
アイアン・サーガ・オンラインの序盤にはレベル差で絶対に倒せない強敵が多数存在した。
そんな敵をなんとか無力化して、クリア目標を達成しないといけない。
仁の置かれるであろう未来の立場に通じるものがあった。
『4人をそれぞれ外で釘付けにして動きを封じる。俺には暗殺者を派遣。チェックメイトだ』
ケーレスがダグの村でやったハラス。
それを人間側がやれば良い。
占領地を放棄して攻めて来る敵を倒すか、敵が諦めるのを待って持久戦をするか。
どっちでも仁の援護に来られない状況を作り出される。
『俺が死んだらテネブリスアニマは分裂する』
分裂した後はどうなる?
『再就職?』
マカンデーヤなら気にせず戦い続けるだろう。
コレンティーナなら後追い自殺をしそうだ。
アサンとケーレスは雇用を打診されるかもしれない。
個人で国を相手取れる存在だ。
味方に引き込みたい国は多い。
『俺が死ぬまでが神の狙いか?』
そう仮定出来る状況証拠があるにはある。
4人だけ即戦力だ。
使いこなせない仁より余程相応しい主を神が用意しているのかもしれない。
もしそれが本当なら、神は仁を侮り過ぎた。
『対応出来ないと思ったら大間違いだ!』
4人に匹敵する存在を用意する事は出来ない。
質が無理なら数で補う。
創造の間でモンスターを増やす。
道路を作って情報伝達と行軍速度を上げる。
『絶体絶命からの再起は慣れている。やっと俺の知っているアイアン・サーガ・オンラインになったか!』
出来る事を見つけて喜ぶ仁。
しかし、彼の考えは想定外の理由でとん挫した。
知恵者であるケーレスすら検討もしなかった可能性によって。
なんと、来るはずの敵が来られなくなった。




