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テネブリスアニマ ~終焉の世界と精霊の魔城~  作者: 朝寝東風
第三章 ティファーニア炎上
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セントリーア大乱ⅤⅠ

「最初の一撃を外した事が貴様らの敗因だ」


 青い光が消えた後から無傷のコットスが姿を現した。如何にモンスターに効果的とはいえ、魔法だと分かってしまえば対処は出来る。コットスは魔法無効化の魔法障壁を唱えただけだ。それはアサンの系譜のヴァンパイアらしく力押し一択だった。


「それでも貴様の軍は壊滅した!」


 ガイツがコットスの放つプレッシャーに負けない様に叫ぶ。コットスは無傷でも彼が率いていたスケルトンの被害は馬鹿に出来ない。南東に展開しているスケルトンを呼んだとしても西セントリーアを攻略するには数が足りない。数日掛けて再召喚すれば元通りになるが、それでは機を失う。


「ならば私自らが軍と同等の働きをするまで」


 コットスは決して誇張して言った訳では無い。コットスの戦闘能力はスケルトン数千体に匹敵していた。単独で暴れ回って西セントリーアを火の海に沈める事は十分出来た。土地を一切占領出来ずともこれだけの武勲があれば三司令官の中では頭一つ抜けた状態になる。


「負け惜しみだ! 俺達が貴様をここで倒す」


 ガイツ視点ではここがコットスを倒せる可能性がもっとも高い戦場だった。ルミナの攻撃が一回で見抜かれるのは想定外だったが、コットスとスケルトンの軍隊を分断する事には成功した。それにここまでやってたった一体に西セントリーアを荒らされる訳にはいかなかった。ガイツと思いを同じくした精兵がコットスに向かって駆けた。


「ふんっ、雑魚過ぎて武器すら不要だ」


 迫り来る精兵を腕一本で切り捨てるコットス。並の相手には腰の剣を抜く必要すら無かった。同僚を目の前で肉塊に帰られた兵は動揺した。全員で畳み掛ければ勝てると言った甘い幻想は吹き飛んだ。コットスが立っている限り勝利は無いと思わせるには十分だった。ガイツは遂に自分が死ぬ番だと覚悟を決めて一歩踏み出そうとした。


ガキィィィン!


「抜かせました」


「くっ、小癪な……」


 ガイツが動けるよりも早く先行と化したルミナがコットスに斬りかかった。コットスは咄嗟に剣を抜いて攻撃を防いだ。青く光出したルミナ肌の近くに居るだけでコットスはダメージを負った。ルミナの半径10キロに展開された空間はその内部に足を踏み入れたモンスターに継続ダメージを与えるモンスターベインになっていた。


 素早い攻撃を繰り返すルミナ。それを動体視力だけで見切って打ち合うコットス。しかしルミナの空間ダメージがコットスの自己回復を僅かに上回った。それでもコットスが倒される前にルミナの体力の現界が来るとガイツは見抜いた。場合に寄っては体力の前に命が尽きる。それ故にガイツは雄叫びを上げて突進した。


「うおおおお!」


 ガイツの大戦斧は空振るもコットスとルミナの間に少しばかり距離が空いた。ルミナはコットスと距離が空いた事を快く思わなかった。


「ガイツ?」


「ルミナ、俺達はパーティーだろ? 最後まで付き合うぜ」


「二人に増えても警戒に値するのは一人。何も変わらん」


「それはどうでしょう?」


 横からサミュエルがシールドバッシュをコットスにぶつけた。コットスは右手一本で迫り来る大盾を止めたが、それと同時にルミナとガイツが斬りかかった。この連続攻撃すらコットスは躱したが、それでも先ほどの余裕は失せた。本命の前にフェイント2枚があるとコットスでも相手の攻撃を確実に予想出来るか分からなかった。


「私が前に出ます。二人は援護をお願いします」


 ルミナは必要以上にコットスに近付いて剣を振るう。そうすればルミナの狙い通りコットスの攻撃がルミナに当たる。コットスはルミナの剣にカウンターを合わせルミナの右腕を切り飛ばした。ルミナはそれも折りこり済みなのか、左足でコットスの頭を蹴ろうとした。コットスはこれを紙一重で躱すも右目の視力が一時的に奪われた。


「人間にしては不思議な体だ」


 コットスは素直にルミナを賞賛した。切り落としたはずの腕はいつの間にかくっついている。恐らくは首を切り落としても死なないと推論した。そしてルミナの腕を斬ったコットスの剣は溶け出していた。オリハルコンの剣と互角に打ち合っていたドラゴンの牙から削り出したコットスの剣は大きく痛んだ。コットスが人間についてもう少し興味を持っていればルミナの体は人間としてはあり得ないと気付いていた。


「はあ、はあ……」


 苦しそうに息を吐くルミナの左右をガイツとサミュエルが固めた。二人の実力では万全のコットスには通用しないと分かっていた。ルミナの負担を減らし勝ちに繋がる一撃を入れされるのが二人の役目だ。


「ルミナ、無理をするな!」


「時が近いです」


「そんな、馬鹿な!?」


 サミュエルはそれを信じたく無かった。しかし一層青く輝く肌を見る限りルミナの命は今日潰えるのは確実だった。


「後もう少し……どうすれば届くの……届かないなら」


 ルミナの意識は朦朧としていた。それでも大神殿の決戦兵器としてコットスを殺す方法を模索した。コットスはルミナの異常な雰囲気を察知した。彼がヴァンパイアで無ければ一目散に逃げる選択をしたかもしれない。逃げるくらいなら死を選ぶ傲慢さがコットスにはあった。


「ルミナにこれ以上負担は掛けられん、行くぞサミュエル!」


「応!」


「雑魚二人で何が出来る?」


 ガイツとサミュエルが二人掛かりでコットスに攻め掛かった。二人のオリハルコン製の武器ならエルダードラゴンの鱗すら貫ける。それより柔らかいはずのヴァンパイアの肌なら当たれば重傷は間違い無いと考えた。しかしコットスは端から二人の事など眼中に無く、常にルミナのみを見ていた。そしてルミナの状態が普通ならそれで能力差でコットスが勝っていた。二人の攻撃を躱す気すら無かったコットスに見事命中するも、コットスの肌には傷一つ付かなかった。そして気合いのみで二人を空に弾き飛ばした。


「うああああ!」


「神々よ、我らを救い給え!」


 重鎧のまま大地に叩き付けられた二人は少しの間は動けない。他の人間兵はこの戦いを見て萎縮している。だからコットスは来るべきルミナの攻撃に構えた。ルミナはまるで引く事を知らないかの様にコットスに仕掛けた。コットスは全速力で走ってくるルミナの心臓めがけて剣を突いた。ルミナなら躱すと確信を持って放った一撃だ。そしてコットスの剣は寸分の狂い無くルミナの心臓貫いた。と同時にルミナが左手でコットスの右腕を掴んだ。


「届きました」


「何を?」


「終の青です」


 コットスはルミナが自殺した様にしか見えなかった。そしてそこまでは正しかった。聖少女の力がルミナを治そうとするも突き刺さった剣がそれを許さない。そして回復失敗の無限ループに陥ったルミナの命は急速に消費されていった。限界を越えたルミナの体は青き光を至近距離でコットスに浴びせながら自爆した。その青い光は戦場を覆い尽くし、近隣に居た全てのモンスターを塵に帰した。


 聖少女の切り札にして大神殿の通常攻撃は聖少女の死をトリガーとする自爆攻撃だ。聖少女の浄化を至近距離で受けたらどんなモンスターでも確実に倒せる。大神殿は聖少女一体で脅威となるモンスター一体を道連れに出来れば採算は合うと結論づけていた。唯一の誤算は人類の敵がモンスターでは無いため、この切り札が意味を成さなかった事だ。それと外聞が悪い自爆前提の特攻を気にした大神殿は役目を終えた聖少女は神々の元に至るから体すら残らないとだけ説明していた。


「ルミナ、おまえの犠牲は忘れない」


「最後までお守り出来なかった」


 ガイツとサミュエルがルミナの死で項垂れていると兵士達が騒ぎ出した。


「まだ……終わってはいない……」


「あれを至近距離で受けて生きているのですか!?」


 ガイツとサミュエルが死んだと確信したコットスが彼らの完全に立ち上がった。コットスの右半身は消滅しており、辛うじて骨が残っている程度だった。左半身も所々骨が見えて、活動出来るのが不思議な状態だった。コットスは言葉とは裏腹に後一発食らえば死ぬ程の重傷を負っていた。逃げれば気付かれなかったのにあえて姿を現したのはヴァンパイアの傲慢さ故か。


「ルミナの命懸けの攻撃で貴様は死んだんだ! 大人しく死んでろ!」


 ガイツは怒り任せに大戦斧をコットスめがけて振り下ろした。コットスはダメージが大きすぎて躱せない。そして大戦斧が双方に取って予想外な者の骨を断ち肉を切り裂いた。

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