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テネブリスアニマ ~終焉の世界と精霊の魔城~  作者: 朝寝東風
第三章 ティファーニア炎上
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ドワーフの陳情ⅤⅠ

 黒いビームを躱して入った先の部屋には全長10メートルを超えていそうな漆黒のドラゴンが待ち構えてた。先ほどから感じているドラゴンの殺気を全身に受けても仁はたじろかなかった。運良くヴォーロスとの会話でこれ以上のものを感じた事があったのが幸いした。コレンティーナですら一瞬は硬直する程の殺気だったので、仁一人で来たのは逆に良かった。


「外れだ」


「ここからが本番だ!」


「やってみろ」


 仁はそのドラゴンに言い放った。このドラゴンと言葉を交わせた事に驚いたが、その姿から敵の正体を見抜いた。その独特な色合いからネザードラゴン種だと特定出来た。エインシェントネザードラゴンなら神に匹敵する存在だ。しかし目の前の強敵はそこまで理不尽な強さを持っていなかった。消去法でエルダーネザードラゴンと仮定してアメノハバキリに指示を出した。


 本来なら異世界からの侵略者であるネザー系モンスターの言葉を理解出来ない。しかしブロークンの種族特性で「全ての言語を話せる」ため、意思の疎通が出来ない相手とも会話出来た。ただ単に創造神話時代の存在同士で神々が何らかの共通言語を持っていただけの可能性もある。


 ネザー系モンスターは洞窟壁画で語られていた邪神の眷属だ。邪神そのものと言う見方もある。邪神は神々と世界の覇権を掛けて戦い敗れ去った。その戦争で今の大陸が形作られた事になっている。そしてその戦いで大地の大熊と大海の大鯨の従属神が滅び、天空神一強の時代になった。神々の追撃を逃れた数体のネザー系が今も世界をその手中に収めよと悪しき計画を練っている。


「ほざけ!」


 ネザードラゴンが黒いビームをアメノハバキリに向かって放つ。そしてアメノハバキリは仁の命令に従い華麗に回避した。回避しながらアメノハバキリは携帯型の懐中電灯を辺りに設置した。アメノハバキリの目をライト代わりに使う余裕がある敵では無い。しかし数発回避して仁は違和感に気付いた。敵は何故かアメノハバキリのみを執拗に攻撃していた。仁が意図的に隙を作っても仁が黒いビームの対象にはならなかった。電灯を破壊すれば少なくても仁は不利になるのに、それを狙っている様には見えない。


 ネザードラゴンは当然仁の存在を感知しているしアメノハバキリの奏者だと言う事も理解している。マナポーションを飲んで魔力を回復している時なんて格好の攻撃チャンスをあえて狙わないのは何故か。その変な行動の理由を仁は探した。アイアン・サーガ・オンラインの知識は役に立たなかった。世界観の類似性があっても個人個人の事情はゲームでは触れられていない。実際は設定上あったのかもしれないが、ゲーム内の敵モンスターは語りかけたりはしなかった。


 ネザードラゴンは「神々の走狗」と言っていた。仁はてっきり自分の事だと思っていたが、よく考えると違うのではと思い直した。あのネザードラゴンが仁を神々の走狗と断定できる情報は何一つ無い。会話出来る事で気付いても驚かないが、ブロークンの種族特性を知らなければ確証は得られない。それに比べてアメノハバキリはヴォーロス神族に製造されたコンストラクトだ。神々の気配を未だ身に纏っている。


「俺がたまたま良い玩具を手に入れたと思い込んでいるのか……」


 仁がプライドの高い戦士なら激高していたかもしれない。生憎と仁は何より勝つ事を優先する男だった。それ故にこれをチャンスと捉えた。アメノハバキリは腕から衝撃波を飛ばして定期的に攻撃をしているが、ネザードラゴンに有効なダメージを与えていない。もっと接近して全力で攻撃すればネザードラゴンの装甲を抜けるかもしれない。


 仁は無用なリスクを避けるために距離を持って攻撃させていた。そしてその距離なら余裕で黒いビームを回避出来る。このまま行けば千日手で決着が付かない。しかしネザードラゴンがこのまま同じ事を繰り返す保証は無い。勝利するには何処かで主導権を奪う必要があった。


「ええい、ちょこまかと躱すな!」


 苛つくドラゴンを尻目に仁はここが勝負所とみた。新しい風が吹いている今こそが好機。仁は自分自身を危険に晒す事で勝機を得る作戦を採用した。


「弱い! その程度の雑魚だから神々に見逃されたのだ!」


「うがあぁぁぁ……殺す、コロスゥゥゥ!」


 仁が自分でも信じられない程の安い挑発に乗せられたネザードラゴン。世界創造が終わって、神々との戦いに敗北してからずっとここで隠れていたのだ。神々はネザードラゴンの存在を知っていたはずだ。それでも倒すには値しない弱者として放置した。それを数千年ぶりに指摘されて理性のたがが外れた。攻撃はより苛烈になり、仁も攻撃対象になった。アメノハバキリは回避と仁の安全を守ろうと奮戦したが、次第に装甲の腐敗が進んだ。


「モウスグ、オワリダ……!」


「古来より大きい化け物を殺す方法は二つ。一つは酔わせて首を取る。一つはこれからおまえに実演して貰う」


 仁はネザードラゴンを無視してアメノハバキリに語りかける。それを聞いてアメノハバキリが一瞬頷いた気がした。本来ならアメノハバキリはそんな思考を持っていない。負ったダメージによって装甲がグラついたのか、仁も知らない人格が芽生えたのか。それでも今更作戦を変更は出来ない。


「クラエ、ワガサイキョウノイチゲキ!」


「今だ!」


 ネザードラゴンが口を大きく空けて極太の黒いビームを放とうとしたその瞬間、アメノハバキリはネザードラゴンの口に突っ込んだ。アイアン・サーガ・オンラインでネザードラゴン系は相手を一撃で倒せる状況になると隙の大きい必殺技を放つ癖がある。仁はここではあえてゲームとは違う方法でネザードラゴンを倒す事にした。それにゲーム通りに倒すにはアメノハバキリの火力だけでは足りない。


「ガハハ、口の中に飛び込めばそのまま消滅するだけよ!」


 勝った慢心からかネザードラゴンは正気に戻りつつあった。ネザードラゴンの言った通り、アメノハバキリの装甲は腐敗して崩れ落ちて内部構造があらわになった。突入時にボディーを庇った大破した左腕が地面に落ちた。そして黒いビームに焼かれネザードラゴンの胃の中に落ちていった。


「既に貴様の死は確定している」


 仁は自信満々に宣言した。


「何を馬鹿な?」


「アメノハバキリ、自爆せよ!」


 仁の命令を受けてアメノハバキリは自爆装置を作動させた。ネザードラゴンと言えど体の中からの攻撃には弱い。自爆で飛び散った神製の破片が胃を突き破り、体中を細切れに引き裂く。


「ギャアアアア!!!」


 腹の中から引き裂かれる激痛にネザードラゴンは悲鳴を上げた。痛みでのたうち回る暇さえ無く体は四散した。ネザードラゴンで原型を留めたのは頭と首、そして四肢の先だけだ。


「終わったか」


 仁は敵がネザードラゴンと分かった時から自爆戦法を採用していた。ネザードラゴンと遊ばずに最初の一手から自爆を仕掛けても良かったが、この手の攻撃は相手の油断があって始めて成功する。神々から数千年隠れ続けたネザードラゴンだけに初手自爆を見破ったかもしれない。それで無くても本能的に危険を察知した。ネザードラゴンの行動パターンを熟知していた仁だからこそここまで鮮やかに決まった。


「マ、マダダ……貴様モ道連レダ」


 ネザードラゴンは最後の力を振り絞って仁に狙いを絞って頭を飛ばした。もはや執念の一撃だ。そんな一撃を仁の能力では躱す事は不可能だ。そしてネザードラゴンの顎が仁をかみ砕いた。


「ヤッタ……ゾ」


 自らの勝利を疑わずにエルダーネザードラゴンはその長き生涯に幕を閉じた。

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