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テネブリスアニマ ~終焉の世界と精霊の魔城~  作者: 朝寝東風
第三章 ティファーニア炎上
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ドワーフの陳情ⅠⅠⅠ

 長い道のりを終え、仁達はドワーフ族の隠れ住む地底都市に到着した。


「来るまでが冒険だったな」


「そうですわね、陛下」


 仁とコレンティーナが道中の事を思い出して笑う。まずはテネブリスアニマでランクアップと最低限の準備を済ませ強行軍でラクの村に戻った。そしてラクの村では酔い潰れたドワーフを回収した。テネブリスアニマは食余りのため、余剰分は容赦なく酒になっていた。モイラのポーション工場には仁が試作した蒸留設備があり、ポーションを濃縮する事で効果を高める事が実験の結果判明していた。その蒸留設備を最初に酒に使ったのは誰か分からない。しかし一度使われたら後の祭り。ドワーフ好みの強い酒が出来、それを目ざとく発見したドワーフたちは仁が来るまで酒場のカウンターを占拠した。酒代はモイラがドワーフ製道具の物納とし、仁に回収を依頼した。


「ジェムイーターと戦う前に仕事が増えるとは流石の俺でも読み切れなかった」


「面目ない」


 ログンが済まなそうに頭を垂れる。


「輸出品目が見つかったと思っておくさ」


「うむ、あれは売れるぞ! その前に私が全部飲むぞ!」


 仁は愛想笑いして答えなかった。ログンの連れが「俺が飲む」とか叫んでいる。中に入れば仁も巻き込まれる。これはドワーフの交渉担当となる人間かサキュバスに丸投げするに限る。


 仁は地下都市に興味があったがそこは素通りして更に地下を目指した。仁達はモンスター扱いなので都市に入ると面倒事がおきると認識していた。下に居るジェムイーターと言うワンダリングボスモンスターの存在でタダでさえピリピリしている所に上から違うモンスターの一団が来たらどう反応するか誰にも読めなかった。


「ここからは暗くなるわね」


「灯りを付けますね」


 コレンティーナの発言を聞いてエンジェルがランプに火を灯す。魔法の炎で酸素を消費しないタイプだ。これから地下に行くなら必須の装備と言いたいが、これを必要としたのは仁だけだ。今回のジェムイーター討伐パーティーに参加しているメンバーで暗視が無いのは仁のみ。他のメンバーは暗くてもある程度見えるし、暗い方が強かったりする。


「面白い灯りだな」


「そうなのか?」


「私たちも鉱石を掘り出した時の確認に灯りを使う。それをすると偶に息しづらくなる」


「エンジェルの灯りならその心配は無いか」


「うむ」


 ログンと仁が灯りについて話し合う。仁はコンストラクトに懐中電灯を持たせれば良いと思ったが、黙っておいた。味方では無いドワーフに知識を無条件に与えては将来的にテネブリスアニマが困る。仁は自分が知っている採掘関連の知識が取引材料になり得ると確認出来ただけ収穫があったと考えた。


 地下への道を歩きながら仁はリッチに留守番をさせて良かったと思った。足場が安定せず狭い空間での戦闘ではリッチの強みを生かせない。ケーレスなら地下全体を原子の塵に変えて対処するだろうが、リッチはそこまでデタラメな事はまだ出来ない。コレンティーナはそれでも追加火力として港町残っていたリッチの3番と5番を連れてきたかった。二人ともひきこもりの読書生活を満喫したいがために当然拒否した。そこで仁がコレンティーナを必死に説得して、二人にはテネブリスアニマに火急の事態が発生したら動く事で手打ちとした。仁が強権を発動したら無職の3番は連れてこられたが、地形の関係で余り活躍は出来なかっただろう。


 ゴツゴツした岩だらけの道を半日ほど歩いた所でベースキャンプに到達した。ここがジェムイーター討伐の最前線だ。ジェムイーターは支配領域をゆっくり巡回するため、領域内でも対策用の拠点を設置できる。発見されたら拠点は容赦なく破壊されるので定期的に動く必要がある。


「見事なものだ」


「分かるのか?」


「ジェムイーターの習性を利用した戦い方だ」


 仁がドワーフの取った手段に感心する。ここを指揮しているドワーフはそれ相応の実力者と言う事になる。仁は後方に居たとは言え、これまでテネブリスアニマの敵となり得るほどの名将には出会っていなかった。各種報告にも目を通しているが、仁の考えは変わらなかった。しかし人類に忘れられた地底の底でそんな名将に会えるかもしれないと仁は期待に胸を膨らませた。


「ほお初見でジェムイーター対策を見抜くとは貴様、中々やるな」


「何を言う、この無……」


「いいから、いいから」


 白髪交じりのドワーフが仁とロダンの会話に入ってきた。その物言いにコレンティーナが切れたが、仁が抑えた。切れる部下を抑えるのが日課になりつつある仁だった。


「俺はガングエン、地下を任されているルーンマスターだ。名乗るが良い」


「魔城テネブリスアニマの主、仁だ」


「テネブリスアニマ五将の一人、コレンティーナよ」


「ふん、モンスターに援軍を頼むとはドワーフも落ちたものだ」


「待ってくれ親父、これは神託だと!?」


「五月蠅い馬鹿息子! 神託など与太話を信じおって」


「あれは本物だ! 親父も上に来たら分かる」


 仁個人としては与太話を推したかった。しかしテネブリスアニマの王としては神託が真実の方が都合が良かった。ガングエンとログンのやりとりで大凡現場と地底都市の考えが分かった。後はそれをどうテネブリスアニマの利益に繋げるか。


「まあ二人とも言い争ってもらちがあかないでしょう。ここはテネブリスアニマから持って来た酒でも飲みましょう」


「何、酒だと!」


「陛下、あの酒は親父には勿体ないぞ!」


 親子喧嘩が終わりそうに無かったので仁は持って来た蒸留酒を使った。効果覿面だ! 早速酒盛りが始まり、モンスターだとか神託だとかは忘れられた。


「この蒸留酒はまさしく女神様の聖水。俺は神を信じるぞ、馬鹿息子ぉー!!」


「だからって俺の分も飲むんじゃねぇ、クソ親父ぃー!!」


「酒一つで神を信じるのか、ドワーフ恐るべし」


 仁は困惑した。背中から撃たれない程度の関係を築くはずが、いつの間にかノワールを讃える酒宴に早変わりしていた。何故かロダンが持っていたノワールの神像がテーブルの上に乗っており、その造形美について議論までしている。


 ノワールに新しい属性が付与される可能性に仁は戦々恐々した。幼女、裸、酒の三つが揃えばそれは当然なのかもしれない。仁の恐れたとおり、「脱ぎ癖のある酒乱幼女神」なるノワール象がドワーフ族の共通認識となるまでそう時間は掛からなかった。


 一夜明け、酔い潰れたドワーフを無視して仁とコレンティーナはジェムイーター討伐に向かう事にした。雑魚が何人居ても足手纏いだ。それなら確実に一対一で勝てるコレンティーナをぶつけるのが上策。仁が行く理由は無いのだが、やはりコレンティーナを一人で送り出すのは心配だった。敵がジェムイーターなら後方に下がってアメノハバキリに守って貰えば大丈夫と仁が説得した。


「行くのか?」


 ベースキャンプを出たところでガングエンが待ち構えていた。


「ああ。相手が相手だ。早いほうが良い」


「それなら俺も行こう」


「分かった、道案内を頼む」


 ガングエンの突然の申し出を受けて、仁は一瞬悩み、快諾した。アイアン・サーガ・オンラインなら兵一人出さないのに、ここではガングエンが援軍として来た。それだけでも仁は来て良かったと思った。仁は当然ガングエンがドワーフ族の政治的状況を鑑みて道案内を買って出たと言う事は分かっていた。よそ者だけがジェムイーターを倒せば、ドワーフの立つ瀬が無くなる。それを回避するには「ドワーフが一人でも共に戦った」と言う実績が必要になる。


 そうして三人はジェムイーターの待つ闇の中に進んでいった。

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