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ザンボルド帝国II

「戦況はどうなっている!」


 次期皇帝が確定したアルフォンソの怒号が玉座の間に響く。彼の父であるラミロ4世はフェルディナンドの復讐戦の報告を聞いて寝込んでしまった。そしてアルフォンソが権力を握る限り、ラミロ4世が部屋から出てくる事は二度と無い。


「三つの戦線全てで主導権を取り戻しつつあるとの事です」


 父の代から仕えている侍従長が答える。


「やっとか」


 アルフォンソは久しぶりに聞く良い知らせに安堵した。彼の戴冠に反対する貴族層はテネブリスアニマを利用して磨り潰したが、まだ生きている貴族の親族からは恨まれている。その親族は当主無き後の家中統率でアルフォンソにまで手が回らない。しかしアルフォンソに弱みがあると思えば牙を剥くのに躊躇しない。


 アルフォンソが皇太子として権力を握り続けるには軍の華々しい活躍が絶対必要だ。軍が勝てばアルフォンソの地位は盤石となり、負ければ揺らぐ。過去にも戴冠を確実しされていた皇太子が軍の敗北と連動して不審死した事が幾度もある。逆に廃嫡が確実しされた皇太子が軍の活躍で戴冠した例には事欠かない。


「報告を出来る者は居るか?」


 アルフォンソがそう言うと三人の将軍が前に進み出た。三つの戦線をそれぞれ受け持つ方面軍司令官か彼ら直属の将軍だ。


「西方戦線なら私めが」


 五十半ばの割には若く見える将軍が最初に発言する。染めているのか、白髪は余り目立たず、まだ現場で剣を振るえそうな体躯をしている。


「国内戦線の事なら私の担当です」


 優雅に一礼する四十代前半の美丈夫。赤い口紅を指した唇が異様に目立つ事を除けば普通の将軍だ。


「はっ、東方戦線異状なしです!」


 良く通る声で三十代後半の将軍が宣言する。発言内容は問題が発生したが追求して欲しくない時に使う常套句である。軍が使う隠語に詳しいアルフォンソは当然その意味を理解したが、その対応は残りの二人の報告を聞いてから決めることにした。


「オードウィンよ、西はどうなっている?」


 アルフォンソは年功序列順に声を掛けた。本来は国内を優先したいが、軍内部に要らぬシコリを作りたく無かった。


「地震の影響で混乱している時に背後からモンスターの襲撃を受けました。帝国軍は素早く統率を回復しましたが同盟勢力は回復出来ず、混乱に拍車が掛かりました」


 オードウィンは名前を覚えられていた事に感動したのか、多少上気して語り出した。地震が起こった時に西方戦線に居た帝国軍は少ない。これはラミロ4世がテネブリスアニマを攻めるために動かせる全軍を東に移動したためだ。


「流石は帝国軍よ」


 アルフォンソが追随する。内心は早く本題に入れと言いたかったが、ここは我慢した。戴冠するまでの辛抱と自分に言い聞かせた。


「人類の敵は完全に統率を失い烏合の衆と化しました。そこを精鋭で突いて優勢に進めていたところ、最大勢力である王国軍が瓦解しました」


 オードウィンは王国軍に責任をなすりつけた。王国軍は帝国軍の代理で戦い無様に負けたので非難されても仕方が無かった。しかしアルフォンソも帝国軍も敗北そのものは重視しなかった。


「して失地回復の目処はあるのか?」


「残念ながら今は新しい絶対防衛線の構築に忙しく」


「候補はこの四つか」


 侍従長がサッと差し出した書類を見てアルフォンソが唸る。どれもこれも大幅に防衛線が東に移動する。それは即ち帝国の西の国境に近づく事。


「出来れば小国家群で食い止めたいのです」


「それは分かるが、立地的に言うと帝国の西国境沿い以外に適所は無かろう?」


「それはそうなのですが国土を戦場にするのは避ける様に動いています」


 アルフォンソは黙って頷く。他国の領土で戦争をする限り、その領土がどうなっても構わない。しかし帝国領土ともなると、少し失うだけで五月蠅い輩が大挙して出てくる。軍事的に最適案が政治的に自殺案だと言う事にアルフォンソは歯ぎしりした。


「当面は小国家群で防衛線を敷きながら、西国境の要塞化を始めよ」


「畏まりました」


「要塞化をするとなると国内方面軍の動きも大事になる。そこはどうなのだギフォード?」


「やっと私の出番? 年寄りは話が長いから」


「くっ、この変態が!」


 ギフォードの挑発にオードウィンが噛み付く。実績を盾に好き勝手やっているギフォードと旧来の厳正なる軍紀を尊ぶオードウィンは水と油だった。ラミロ4世は二人の仲が悪いのを知ってこの地位に就けた。これだけ相性が悪ければ両司令官が結託してクーデターを起こすことは無い。


「両名とも、皇太子殿下の御前ですぞ」


 侍従長がやんわり指摘する。もはやこのメンツが揃った時の様式美になっていると言っても良い。


「国内は突如現れた強いモンスターの対応に追われましたが、マニュアルに沿って行動し、既に帝国の重要拠点の安全は確保しました。僻地にある農村と人類が余り足を踏み込まない地の調査を行っている最中です」


 先ほどの一幕が無かったかのようにギフォードが熟々と話す。帝国は重要拠点全てに軍の部隊を駐屯させている。予想外の奇襲にも部隊長が無事なら対応出来る。


「やはり拠点に駐屯部隊を置くのは正解であったか」


 アルフォンソが満足げに頷く。駐屯部隊の費用と治安の低下が以前から問題になっており、廃止ないしは縮小の方向で議論が進んでいた。今回の素早い対応のお陰で当面は現状維持となる。


「王国に比べて初動が遅れたと聞いているが?」


「王国はモンスターの発生を知っていた、と考えます」


 オードウィンの指摘にギフォードも負けじと答える。


 帝国は歴史が浅く、過去の資料が乏しい。国是からして「歴史は作る物」と考えている節があり、過去を振り返る行為は軽視されがちだ。


「国内に発生したモンスターに対応出来たのだ。この件はこれで終わりだ」


 アルフォンソが不毛な争いに発展する前に止める。西と東に問題を抱えるのに、中央まで炎上されては堪らない。アルフォンソは中央を緊急時の援軍として派遣する腹案を持っていた。それを望まないオードウィンがギフォードの功績を過小評価させたかった。


「次はミロか。東はどうなっている? ティファーニアの征服は終わったのだろうな?」


 アルフォンソは最後に残ったミロに矛先を向けた。


「未だ動けず」


 ミロは滝のような汗を掻きながら話す。オードウィンとギフォードは方面司令官だが、ミロは方面司令官付の下級将軍だ。司令官の代理で来ていなければこの会議に参加出来ない身分であり、その上で報告内容は皇太子の逆鱗に触れうるものだ。


「なんたる無能!」


「ちょっと東まで遠征したく無いわよ!」


 オードウィンとギフォードが異口同音にミロを非難する。ギフォードは皇太子の前だから控えていた口調が元に戻った。


「原因は何だ? 対策は出来ているのか?」


 アルフォンソは問う。勇躍前の足踏みなら許せる。しかしそうで無い場合は皇太子として決断を下す必要があった。


「レジスタンスです」


「レジスタンス?」


「ティファーニア独立運動の輩がミゼラリス商業連合国の支援を受けてゲリラ戦を仕掛けているのです。土地勘はあちらの方が上のため、対応が後手に回っています」


 支援と言っても現地にあった武器などを横流ししただけ。商業連合国としては「強奪された」と主張出来る範囲の行動に留めていた。留めていた積もりが、国家自滅の余波で雇っていた傭兵軍が独自行動を開始した。レジスタンスに迎合する者、盗賊に転職する者、独立自治領を設置する者など多岐に渡った。


「踏み潰せば良かろう」


 アルフォンソは皇太子として当然と思える発言をした。ミロは「それが出来れば苦労は無い」と言うのを必死で抑えた。テネブリスアニマの様に軍属と民間を区別無く殺して国が立ち行くならそれでも良かったのだが、帝国が人類の国家である限り労働力の保全は重要課題だった。


「一つ踏み潰せば新しく二つ、三つと沸きます。東方方面軍では問題の抜本的解決に向けて行動をしています」


「具体的には?」


「後方兵糧基地の安全確保、レジスタンスの懐柔、地図の作成です」


 ミロの語った事は正道ではあった。しかし国家戦略に全力で喧嘩を売るものだった。


「ミロよ、私が皇太子であって命拾いしたな」


「陛下なら東方方面軍の司令部を逆賊として族滅を命じていたでしょう」


 アルフォンソの怒気と侍従長の冷静な説明を受けて流石のミロも目に見えて振るえだした。王国に借金踏み倒しの悪評を押し付け、ティファーニア救済の栄光を求めたのは実を捨て名を取るため。それすら出来ていない事態にアルフォンソは激しい怒りを覚えた。


「お、お許しを!」


「もう良い、失せよ! 三ヶ月だ。三ヶ月で結果を出せ! 良いな!」


「い、命に代えても必ず!」


 逃げる様に出て行くミロの背中を見てアルフォンソがため息を付く。


「ギフォード、東征の準備だ。オードウィンは西を守れ」


「任せてん!」


「畏まりました!」


 アルフォンソは期待出来る司令官が二人居る事に満足した。戦いは人類の存続と同時に大神殿無き後の人類世界の中心が王国か帝国かの主導権争いに発展していた。アルフォンソは王国に負ける気は微塵も無かった。余力でティファーニアさえ取れれば勝ちに王手を掛けられた。それを目指して帝国はいつも通り近代的独裁国家への道を進んだ。

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