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テネブリスアニマ ~終焉の世界と精霊の魔城~  作者: 朝寝東風
第二章 フェリヌーン陥落
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切り裂かれる森VII

 エルフの集落を支配して10日経過した。その間にアサンは迷いの森を発生させている人工物を壊した。道が出来たらエルフの狩人は当然帰ってくる。そして彼らの大半はアサンと戦い殺された。一割は降伏する事で死なずに済んだ。


 これから起こる事をティールから聞いて、生き残った狩人は生き残った事を後悔した。かと言ってここで自決すればエルフの立場が更に悪くなる。だからか、これから行う蛮行は彼ら狩人が率先してやると心に誓った。


 狩人が全員集落に帰還した事を確認して、アサンは世界樹攻略をマカンデーヤに命じた。エルフの最後の砦であり、ここが陥落すればエルフは終わる。集落を襲った初日に世界樹を攻めればより簡単に落ちた。しかしアサンは包囲のみに留めた。


 アサンはこう考えた。準備が出来て本気になったエルフを倒してこそ意味がある。エルフには準備不足で負けた、と言わせないために敢えてマカンデーヤに無理を強いた。必要以上にテネブリスアニマ側に被害が出るだろう。しかし将来の事を見据えればこっちの方が被害が少なくなる。


「進めぃ!」


 マカンデーヤの号令でテネブリスアニマの雑多なモンスターがエルフ達が作った世界樹のバリケードを突破する。エルフは最後の抵抗とばかりに矢を射ったり、魔法を放ったりしている。矢はゴーレムの装甲を貫通できず、魔法はインプ系が防いだ。そんな中、ゴブリンは他のモンスターの後ろに隠れていた。


 エルフの攻撃は先頭を行くマカンデーヤに集中するも、彼はかすり傷一つ負うことは無かった。引き籠もることで自己研鑽を捨てたエルフなど最初から敵では無かった。半日ほどの戦いで世界樹に籠もっていたエルフは全滅した。


「アサン、命令通りに降伏は認めなかったぞ」


 戦いが終わり、後ろで見ていたアサンにマカンデーヤが報告する。マカンデーヤは上から下までエルフの返り血で真っ赤だ。サキュバスが濡れた布で必死に拭こうとするも、マカンデーヤはお構いなしに動き回った。


「それで良い」


 アサンは満足そうに言う。横に居るエルフのティールは顔面蒼白で精気が無い。近くで見なければアンデッドの上級眷属と誤解する。ティールの後ろに集められている他のエルフも似た感じだ。


「そうか」


 マカンデーヤは憮然と答えた。


 エルフは死にたがりでは無い。何とか降伏して命を長らえようとした。女子供だけでもと頼み込んだ。しかし指揮権を持つアサンが取り合わなかった。マカンデーヤもこの件でアサンと対立する理由が無かった。アサンに利を提示するか、マカンデーヤの情に訴えていれば違う結果になっていたかもしれない。


「首尾はどうだ?」


 アサンが拠点から連れてきたインキュバスに問う。


「既に万全かと」


 インキュバスが優雅に礼をしながら答える。アサンに大きな仕事を任され一皮も二皮も剥けた様だ。インキュバスの次に仕事を任せられたサキュバスは血の臭いに酔って早々とリタイアしてしまった。


「エルフの族長ティールよ、時は満ちた!」


 アサンは族長を殊更強調してティールに呼びかける。事実上の命令なのは言うまでも無い。


「わ、分かりました魔王様・・・・・・」


 ティールは勇気を振り絞って答える。ティールの言葉でエルフの歴史は終わる。それを言わなければエルフが滅びる。彼に掛かったプレッシャーは相当なものだ。


 彼はたいまつを持って世界樹に近づく。後は投げるだけ。しかし、彼には出来なかった。彼が投げなければ他のエルフは投げないだろう。投げなければアサンがエルフを粛正するだろう。ティールは途方に暮れた。


「落ち着けよ、族長」


 いつの間にか側に立っていたマカンデーヤが声を掛けた。アサンが後ろから睨んだが、マカンデーヤはどこ吹く風だ。


「あ、貴方・・・・・・様は?」


 ティールはマカンデーヤと話した事が無かった。かなり上位の存在だとはなんとなく分かっていた。


「俺様か? 俺様はマカンデーヤ。喧嘩好きの鬼さ」


 サムズアップしながら笑みを浮かべる。場が場で無ければティールもつられて笑みを浮かべたかも知れない。


「エルフに取って世界樹は大事なんだろう?」


「それはもう」


「だがよ、大事だからお別れする時が来た。そう思わねえか」


「大事だから」


 ティールの死んだ目に少しばかり光が戻る。


「エルフの今の惨状を見ろ。満足に食うものが無いから子供が少ない! 知識も失われ森に入れば迷子! もう世界樹を自由にしてやれ」


 マカンデーヤの心からの叫びがエルフの心に突き刺さる。


 人に比べエルフの寿命は長く、基礎能力は高かった。エルフの魔法とその応用で生み出された道具は類を見なかった。人が農耕を始める前はエルフの天下だった。しかし、人の数が増え出すとエルフは辺境に追いやれた。人が科学技術を発展させて軍事的な絶対優位に立つとエルフを住処から追い出した。そしてエルフは今は人から隠れてこの森でひっそりと滅びを待っていた。


 狩猟民族故にエルフの数は増えない。弓を捨て桑を持てば数は増える。狩猟に人が必要なため、知識の多くが失われた。魔法理論を再度構築すれば世界に覇を唱えられる。世界樹を焼けばエルフの輝かしい未来がそこにある。


「分かりました・・・・・・」


 ティールはそう言って残ったエルフに振り返った。その顔は漢の顔だった。


「エルフの皆、聞いてくれ。私はエルフの族長ティールだ。今日、我々は母なる世界樹を焼く。これは世界樹が憎いからでは決して無い。我々はエルフの未来を取り戻す! そのために進むしかない。・・・・・・私に続け!」


 ティールはそう言って世界樹にたいまつを投げた。エルフの死体から出た油に引火して良く燃えた。それを見て残りのエルフもたいまつを投げ入れた。世界樹は三日三晩燃え続けたが、エルフはその最後を目に焼き付けるように場を動かなかった。


「エルフの新たな夜明けだ」


 その炎はエルフの文明開化の光となった。数千年先にテネブリスアニマが健在なら、このエルフの光がテネブリスアニマの闇を払うだろう。


 エルフは大事な世界樹と決別した。それはマカンデーヤに取って大事なテネブリスアニマと決別する未来を暗示していた。

プロット変更で難産だった。

本来はエルフの巫女がヒロインで、仁がエルフを倒すはずだった。

仁の活躍は第3章からにしたから、第2章はアサンとマカンデーヤが良い所を持っていた。


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