戦利品
玉座の間の間に戻った仁達。
仁は玉座に腰掛け、アサン達の報告を聞く。
「近隣ではこの様な果実が成っていましたわ」
「見た目は大丈夫そうだが?」
「食えるぜ」
「マカンデーヤ、何勝手に食べていますの?」
仁が食えるか心配するもマカンデーヤが気にせずかぶりついた。
少し酸っぱくて、腹がいまいち膨れないらしい。
『俺が食えるか分からないが、最悪マカンデーヤ食わせれば良いか』
倉庫の食料は貴重だ。
何せ、唯一安全に食えると断言出来るのだから。
「ゴブリン以外も食べていたようですし、食用と見て良いのう」
ケーレスの補足説明のおかげで仁もいずれ食べてみようと思った。
「こんなものより、やっぱ肉だぜ!」
「動物の肉なら良いが、モンスターの肉は食えるか調べねばならない」
肉を所望するマカンデーヤに待ったをかけるアサン。
アサンとしては仁の食卓を豊かにしたい。
しかし、命を危険にさらす食材を出せない。
ヒューマンが居れば、無理やり口にねじ込んで経過を見守って確認出来る。
あいにく、ヒューマンには未だ遭遇していない。
「陛下、ゴブリンの集落でこれを発見しました」
アサンは錆び付いた剣を取り出した。
剣身は半ばで折れていた。
錆に寄る浸食が酷く、実用性は皆無。
「剣か」
「はっ、剣です」
ただの剣。
それは仁にとっては大きな意味があった。
「ゴブリンでは無理なのだろう?」
「不可能です」
ゴブリンでは無いのなら、誰が剣を作った。
剣を作れる知的生命体が居る。
「いつ頃作られたと思う?」
「30年以内ですのう」
「そうか」
30年以内なら作った存在は滅んでいない可能性が高い。
敵対がほぼ確実とはいえ、そんな存在が居るのは仁に取っては喜ばしかった。
「遠くから持ち込んだという可能性もありますわ」
コレンティーナは可能性が低いと思ったものの、一応指摘した。
仁が勝手に興奮して、真実を知った際に落ち込むのを見たくなかった。
「そうなのか?」
アイアン・サーガ・オンラインのゴブリンは余り移動しない。
しかし集落は大陸中にあった。
この剣をゴブリンの先発隊が常に持ち歩いて居れば長大な距離を渡って来た可能性がある。
「ゴブリンの習性から考えると、可能性は低い」
ゴブリンの習性では貴重品を外に持ち出さない。
アサンはこの剣が集落の中で貴重品扱いされていたと断じた。
それなら、この剣は近くで回収された物となる。
「他の集落で何か出るか楽しみになった来た」
「俺様が叩き潰した後にアサンに土いじりさせれば無いか見つかるかもな!」
マカンデーヤにとっては詰まらない話だ。
戦えれば良いのだ。
ゴミ拾いなどアサンに任せるに限る。
「剣が近場で作られた事を裏付ける物がこちらに」
アサンがマカンデーヤを無視して次の戦利品を出す。
「貨幣か」
20数枚の貨幣。
「銅貨が3枚と鉄貨が20枚ですのう」
銅貨には倉庫にある貨幣と似た意匠がしてあった。
倉庫の貨幣が意図的に古い物でない限り、この貨幣も現役だろう。
「鉄貨?」
仁は剣同様に錆び付いて、意匠すら判別出来ない鉄貨を興味深そうに見た。
「経済状況は余り良くないのでしょう」
鉄が貨幣に使われる事は稀だ。
何せすぐに錆び付く。
仁の世界でも歴史上存在した、と言う程度の扱いだ。
銅貨がある中で鉄貨に頼るなら、それ相応の理由がある。
アサンは経済状況と断じたが、確定させるには情報が不足している。
「私はやはり金と銀が好きですわ」
お金が好きなコレンティーナも鉄貨には食指が動かなかった。
「金が欲しいなら持っているやつから分捕れば良いだろうが!」
マカンデーヤなど最初から貨幣経済に興味がない。
流石は蛮族経済の申し子。
「他には?」
「最後はこの葉っぱですのう」
ケーレスが乾燥した草の束を見せた。
「これは?」
「薬草ですのう」
「これが薬草か。効果の程は?」
「無いより増し、と言ったところですのう」
「期待は出来ないか」
「煎じれば効能が強化されると推定しますのう」
「なるほど。ゴブリン達にはその程度の知能も無いのか」
「左様です」
最後はアサンが割り込んだ。
薬から政治の話に変わったためだ。
「分かった。ならこれの群生地も探索目的に加えよ」
「お任せください」
薬になると聞いて仁は群生地の発見を命じた。
アサンは仁のために群生地を独占する策を練った。
行く行くは薬草園にして、仁の天領にする計画まで立てた。
物思いに耽るアサン。
横目でアサンをチラッと見て、諦めの表情をするコレンティーナとケーレス。
『アサン、何か変な事を考えるな』
仁は事がまた変な方向に向かっていると察知した。
しかし言い出す事が出来ず、被害が小さくなる事を密かに願うしか無かった。
まさかアサンが薬草園に飾る仁の石像を誰に発注すれば良いのか迷っているとは思いもしなかった。
そして空気が読めないマカンデーヤがツッコミを入れるまで、この奇妙な沈黙が続いた。




