激突イスフェリアXIX
アサンと人類がイスフェリアの町を明け渡す事に合意して三日経った。イスフェリアの住人のほぼ9割が退去した。期限が短かったが、できる限りの物を根こそぎ持ち出したのは流石だ。それでも町を漁れば大金持ちになれる程度の物は残っている。
残った1割は退去に反対し、最後まで戦う事を選択した人間だ。大司祭が煽った者達だ。肝心の大司祭は二日目に逃げ出した。残った者達は大司祭が逃げたことも気付かず怪気炎を上げている。
彼らは防衛に適した拠点を複数抑え、徹底抗戦の構えを取った。ペトロニスとサイモンがレジスタンスの攻撃は合意違反では無いとアサンに認めさせていなければ戦争が再開したかもしれない。
深夜の1時。退去の刻限から1時間過ぎた。
数日前まで領主の館だった中庭でペトロニスがワインを飲んでいた。大司祭から人類の裏切り者と糾弾された事が切っ掛けでペトロニスは残ると主張した。王国軍と帝国の貴族が挙って反対したが、ペトロニスは聞き入れなかった。
「息子のためだ」
ペトロニスは自分が逃げれば大神殿が実家の方に攻勢を強めると知っていた。コレンティーナの下僕になったので実家に特別な感情は残っていない。ただ生前のペトロニスの行動をシミュレートしてなぞっているに過ぎない。
「それに娘にも何か残せて良かった」
ペトロニスは残る条件として大神殿の聖騎士の称号を得た。聖騎士がアンデッドとの戦いで死ねば、大神殿と言えど実家に手は出せない。聖騎士の称号そのものは退去したコレンティーナが継承した。テネブリスアニマとしては称号の方がありがたい。
本来の予定では帝国への帰り道で病死していた。ペトロニスが生きて帰るのは実家の政治事情から不味い。それに今回の合意書の責任者が存命なのは帝国としても喜ばしくはない。実家か帝国のどっちかが早い内に彼を消すために動いた。今回の合意はあくまで一子爵の独断専行、それでも帝国貴族のサインがあるから帝国は合意を守る。こんなカバーストーリーを裏で用意するためにも真実を言えるペトロニスは邪魔だ。
「卿、敵はいつ攻めてくると思います?」
残った人間でペトロニスの世話役に立候補した男が聞く。近くに居る40人ほどの人間も注意を子爵に向ける。ペトロニスの方針で上手いワインをたらふく飲み、酒池肉林を楽しんでいるため、彼への忠誠心は高い。
「攻めては来ない」
「えっ? それはどういう・・・・・・」
全員が動揺し、子爵に続きをせがむ。
「上を見なさい」
ペトロニスはワインの表面に反射している魔方陣を見て、上を指さした。そこにはイスフェリアの町を覆う巨大な魔方陣が空に浮かんでいた。
「あれは!?」
「天を地に落とす第4階級魔法メテオフォール」
予め聞いていたペトロニスは静かに答える。それを聞いた者達は何故ペトロニスがそれを知っているか問い詰める事すら忘れた。逃げられない絶対の死に見下ろされ、彼らは棒立ちするしか無かった。
そして巨大な隕石が天より10個以上落ちてきた。一個が落下した時に生じた衝撃がイスフェリアの町を1/6ほど壊滅させた。イスフェリアの町を2回は灰燼に帰す超破壊攻撃により町があった場所には巨大なクレーターしか残らなかった。
メテオフォールを深夜に放った事で撤退中の王国軍と帝国軍の面々も空が真っ赤に染まるのを見た。これを見せつけるのがアサンの狙いでもあった。兵士はその圧倒的な攻撃の前にショックを受け、あの攻撃が第4階級魔法だと気付けた魔法使いは絶望した。人類の常識からして余りにも強すぎる。対策を協議すべく、各国は本国へ伝令を飛ばすしか出来る事が無かった。
「視覚的なインパクトは十分か」
テネブリスアニマ軍の本陣でアサンが腕組みしながら言う。
「実際に放ったのは儂よのう」
ケーレスがぼやく。ぼやきながら残り少なくなった魔力ポーションを飲む。
「今宵のスペクタクルは始まったばかり」
「話を聞いとらんのう」
「人類よ刮目せよ!」
「ギャラリーなぞおらんのう」
格好良く虚空に向かって宣言するアサン。テレビカメラでもあれば様になっていた。
人類に実力の違いを見せつける一連の行動だが、これはアサンの独断によるものだ。仁にイスフェリアの町の攻略と破却を任されているから、アサンは仁に相談する必要を見いだせなかった。ケーレスには反対する理由が無かった。反対したであろうコレンティーナは既に西に動いていた。仁も話を聞いていれば止めていた。
『略奪して物を奪えよ!』
仁ならこう心の中で叫んでいた。自己生産能力が無いテネブリスアニマに取って人類の町は宝の山だ。残念ながらアサンは略奪の必要性すら認識出来ない。個体として最強レベルの存在は人の道具を必要としていない。
アサンに格好つけるために専用の楽団を持つ趣味が無ければイーストエンドの町も同じ運命をたどっていた。略奪された後に破却されたので外から違いが分からないのがせめてもの救いだ。
しかし、今宵のスペクタクルはまだ終わっていなかった。




