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テネブリスアニマ ~終焉の世界と精霊の魔城~  作者: 朝寝東風
第一章 テネブリスアニマ再誕
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プロローグ

 ヒューマンとモンスターがお互いの生存を賭けた戦場。


 数で優るヒューマン軍はモンスター軍の強さに終始押され気味だった。


 それでも、いつもよりは持ちこたえていた。


 蒸気の力で動く人型巨人コンストラクトの新型が決戦前にロールアウトしたためだ。


 ヒューマンはこれで勝てると分不相応な幻想を抱いた。


コンストラクトがモンスターを指揮している漆黒のローブを纏う美丈夫にパンチを繰り出す。


 金とミスリルの刺繍がしてあるローブ。


 美丈夫鎧も上級司令官しか購入できないユニーク装備だと一目でわかる。


 腰に薙いだ剣も伝説級の業物だ。


 何故か剣は抜いていない。


 抜く必要が無いからだ。


 コンストラクトの必殺の一撃を物ともせず、素手で受け止める美丈夫。


 彼の名はアサン。


 彼の名前を聞くだけで心が弱い者はショック死する。


「その程度か、新型?」


 コンストラクトを操る奏者は驚き自身の正気を疑った。


 世界でもっとも固いと言われるアダマンタイトの城門すら凹ませる一撃。


 それを受け止められる存在など居るはずが無い。


 居てはならない。


 カラクリがあるはず。


 そう願う奏者の希望とは裏腹に、アサンは実力だけで拳を止めた。


「さて、お遊びは終わりだ」


 アサンはそのまま鉄の腕を素手で握りつぶす。


 そして軽く飛び上がり、蹴りの一発でコンストラクトのメインエンジンに穴を開けた。


 崩れ落ちる新型を前に、詰まらなさそうに首を振るアサン。


 コンストラクトを操っていた奏者は逃げようと思う前に既に死んでいた。


「私が囮役をやったのに、この程度の敵しか出せないのか、嘆かわしい」


 決して新型が弱いわけでは無い。


 アサンが強すぎる。


 ランク10でレベル99のエルダーヴァンパイアキングであるアサンに傷を付けられる存在はほとんどいない。


 真の仲間の3人、ランク12のエリアボス、そして設定だけあるランク15のゴッド。


 アサンが敵と認識出来るのはこのランクの相手だけだ。


 アサンが倒したコンストラクトはランク6相当であり、アサン以外が相手なら無双出来る程度に強い。 


 アサンの圧倒的な強さを前に棒立ちになるヒューマン軍。


 これから始まる惨殺劇と言う悪夢に怯える事すら許されなかった。


 何かが始まる前に全て終わってしまった。


 ヒューマン軍の総司令官が司令部ごと消滅した。


 アサンはあくまで囮。


 アサンが遊んでいる間に真の仲間の一人が敵司令部に突貫し、ヒューマン軍の上層部を血祭りにあげた。


 いつもの事だ。


 勝利のファンファーレが鳴り、取得経験値とドロップアイテムの画面が映る。


「ふぅ、また無課金でイベントをクリアしてしまった」


 アラサーの由良仁はクリアボーナスを確認しながら呟いた。


 アイアン・サーガ・オンライン。


 仁が10年前からプレイしているソロ用オンラインSRPG。


 魔法と蒸気溢れる退廃的なファンタジー世界を舞台に領土を拡大する。


 プレイヤーは王となり、初期からある城と4人いる真の仲間と共に世界を駆ける。


 プレイヤーと真の仲間は6つのタイプから選ぶ。


 チェスを参考にしたのか、ロード、メイデン、ブレード、ブレイン、キャッスル、ポーンの6種類がある。


 大半のプレイヤーは補正が高いロードかメイデンを選ぶ。


 仁の様な廃プレイヤーは補正が一切無いポーンを選ぶ。


 仁の真の仲間はロードのアサン、メイデンのコレンティーナ、ブレードのマカンデーヤ、ブレインのケイレース。


 それにキャッスルの疑似人格であるノワールと仁のアバターであるポーンのジン。


 この6人がテネブリスアニマの中心だ。


 かの戦いで圧倒的な力を見せつけたアサンはロードの補正を一切受けていなかった。


 玉座の間限定でほぼ無敵になれる補正は屋外の侵攻戦では何の役にも立たない。


 それでも仁はアサンを投入した。


 補正が無くても勝利出来ると確信していた。


 何故なら、仁は既に大陸を制覇し終えたワールドチャンピオンだから。


 後は突発的に発生するイベントに対応するだけ。


 今回もヒューマン軍の残党蜂起と言う在り来たりなイベントだった。


 それでも飽きずに続けられるのは死亡時のリカバリーが無いから。


 戦争に負けたら領土が減る。


 真の仲間が死ねば一から育てなおすしかない。


 王が死ねば文字通りゲームオーバー。


 蘇生は無い。


 救済も無い。


 仁はかつて5年ほどかけて作ったヒューマン最強の国を操作ミスで失った。


 前線を慰問した時に流れ矢で即死した。


 その時やめていれば……。


 仁は失ったものを取り戻すべく、アイアン・サーガ・オンラインにのめり込んだ。


 かつての喪失からヒューマン勢力では無く、死に辛いモンスター勢力を選んで。


 無課金でやる事に拘った仁は、その時一つだけ課金アイテムを購入した。


 フェニックスの卵。


 ゲームオーバー時、生き残った真の仲間が初期レベルで再結集する課金アイテム。


 真の仲間を最後まで育てるのは大変だ。


 しかし育った仲間の種族と基礎ステータスはけた違いに凄い。


 卵があれば種族と基礎ステータスを持ってレベル1からやり直せる。


 最強の仲間を作るためには意図的に死ぬプレイスタイルもあった。


 仁はそんなプレイは味気ないと思った。


 だから仁は無課金で頑張った。


 頼るのは自身のスキル、そして仲間のパワー。


 仲間はAI。


 それでも仁と彼らの間には確かな絆があった。


「次のイベントまで時間がありそうだ。コンビニで飯を買ってこよう」


 仁は自分のアバターを城に動かし、残りのAIに指示を出した。


 近くのコンビニだ。


 15分もあれば余裕で帰ってこられる。


 大きな変化はおこらない。


 おこるはずが無い。


 それでもおこる時にはおこる。


 仁はコンビニの帰りにトラックに轢かれた。


 即死、そして……。

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