ぼくのウンチころころ
ぼくうさぎ。
まだこどものうさぎ。
クリームいろでふかふかの、マシュマロみたいなうさぎだよ。
これはぼくのママ。
ママっていっても、ほんとうのうさぎのママじゃないけど。
それでも、いつもおいしいごはんをくれて、いっぱいなでなでしてくれるんだ。
だからやっぱり、ママはぼくのママ。
ママおはよう。
あさになると、ママがぼくのおへやのドアをあける。
まってましたと、ぼくはげんきよくぴょんぴょん。
さあ! きょうもいちにち、いそがしい。
おしごとおしごと。
あれ。うさぎのくせに、おしごと? って、おもったでしょう。
しつれいしちゃうな。うさぎにだって、ちゃあんとおしごとがあるんだよ。
うさぎのたいせつなおしごと。それはね、なわばりをしっかりまもること。
だれかにきいたわけじゃないけど、ぼく、ちゃあんとしってるんだ。
りっぱなうさぎになるためには、なわばりがかんじん、ってね。
さあ。きょうも、なわばりのみまわりをはじめるよ。
ぴょふぴょふぴょふ。
テーブルの下。
ふんふんふん。
よーくにおいをかいで、っと。
よおし。あやしいにおいはしないな。
おっと。みまわりだけじゃダメなんだよ。
みまわりをしたら、なわばりのしるしをおいておく。
それがうさぎのきまりなんだ。
さあ。きょうもげんきよく……
ころころ。ころころ。
ぼくのウンチ、ころころ、ころん。
ぼくのウンチ、まんまるころころ。
ぼくのウンチ、ころころいっぱい、ころがるよ。
そう。ころころウンチは、うさぎのなわばりのしるし。
ちょっと! きたないなんていわないでよね。
ウサギのウンチには、きれいなウンチときたないウンチがあるんだよ。
なわばりのしるしには、とくべつせいのきれいなウンチ。かたくてころころ、いしころみたいなウンチだよ。
さてと。おつぎは、おおきなカーペット。
ついついごろんしたくなるけど、だめだめ。
ぼくにはおしごとがいっぱいあるんだから。
ふむふみふみふみ。
やわらかいところを、まえあしでふみふみ。
よし! いじょうなし!
ころころ。ころころ。
ぼくのウンチ、ころころ、ころん。
ころころ、ころりん!
えっ? カーペットにウンチをしたら、ママがおこるんじゃないかって?
だいじょうぶだよ。
ママはぼくがだいすきだから、ぼくのウンチならへっちゃらなんだ。
それにね、つかいおわったウンチは、ママのおにわで、やさいをすくすくそだてるおてつだいをするんだよ。
すごいでしょう、ぼくのウンチ!
さあ。みまわりをつづけるよ。
あっ、これなあに?
すごーくあやしいぞ!
ママがもってきたにちがいない。
よーし。
あごをくっつけて、すりすり。
ていねいに、もういっかい、すりすり。
なにしてるのかって?
これはね、においをつけてるんだよ。
ぼくのなわばりにあるものは、ぼくのもの。
それがみんなにわかるようにね。
うん、ぼくのにおいがバッチリついた! これでだいじょうぶ。
さあ。どんどんいこう。
あっちへぴょっぴょっ。
ろうかにそって、ころころ。ころころ。
こっちへぴょっぴょっ。
うえきばちのとなり、ころころ。ころころ。
そっちもぴょっぴょっ。
すみっこまできちんと、ころころ。ころころ。
ぼくのウンチ、いっぱい!
おしごとがおわると、ママはぼくをだっこしておひざにのせ、おやつをくれる。ブラッシングをしてから、ぼくをおへやにもどす。
そうしてぼくは、ゆっくりおひるね。
ぼくのまいにちは、だいたいこんなかんじ。
――ところがあるひ、たいへんなことがおこったんだ。
おでかけしていたママが、おおきなはこをもってかえってきた。
ママ、とってもニコニコしてる。
そんなにうれしいものがはいってるのかな。ぼくもドキドキして、はこにちかづいてみた。
ふんふんふん。においをかぐ。でも、なんかへんなにおい。ぼくもへんなかおになった。
ママがはこをあけると、なかから、いままでみたこともない、へんちくりんなやつがでてきた。
よこからみるとひらべったくて、うえからみるとまんまる。
ちょっとだけさわってみたら、からだはカチカチでつるつるしてる。
――なんだ、こいつ!?
ママは、そいつのからだをあちこちつっついた。すると……。
ぴぴっ。ういぃぃぃん。みょん。ぶいーん。
そいつは、へんなこえでしゃべりはじめた!
ぼくはもう、ほんとうにあわてちゃって、ぴょーんとたかくとびあがった。ママってば、そんなぼくをみてわらってる。
へんなやつは、ゆっくりとあるきはじめた。あたりをうろうろして、ようすをさぐってるみたいだ。
ぼくはおもしろくない。だってここは、ぼくのなわばりなのに!!
ダン! ダン! ダン!
あしをふみならして、おおきなおとをだす。
これが、うさぎがもんくをいうときのやりかた。
うさぎにとっては、なわばりにほかのだれかがいるなんて、じゅうだいなもんだいなんだ!
ぼく、おこってるよ、ママ!
ぼくはママにむかって、しんけんにいった。だけどママはぼくをひょいとだっこしておひざにのせ、やさしくなでなでした。
あーあ。
きにいらないけど、しょうがない。
ママはいつも、ぼくにいっぱいやさしくしてくれる。だからぼくだってひとつくらい、ママのわがままをきいてあげなくちゃ。
ぼくはあきらめて、あいつをぼくのなわばりであそばせてあげることにした。
つぎのひ。
ぼくはいつものように、あさのみまわりをはじめようとした。
すると、あのへんなやつがじいっとぼくをみてる。
「……ぼくになにかよう?」
ういぃぃぃん。ういぃぃぃん。
うさぎのことばとこいつのことばは、ちがうみたいだ。
ふん、へんなやつ。ぼくはしらんぷりして、みまわりをはじめた。
みょんみょんみょんみょん。
あいつはのんきにうたなんかうたいながら、ぼくのあとをついてくる。
なんだかじゃまだなあ。
ころころ。 ころころ。 ころころ。
ぼくのウンチ、ころころ。
ころころころーん!
いつもよりていねいに、ぼくはなわばりのしるしをおいた。
ふう、くたびれた。すごくじかんがかかっちゃったよ。
だえど、これでひとあんしん……
ぼくはなわばりをみまわした。
「!?!?」
ウンチがない!!
ぼくはおおあわて。なわばりじゅうをかけまわった。
ない。
ここにも、そこにも。あっちにも。さっきたしかにおいたはずなのに……。
ぼくのだいじなウンチがない!
みょみょんみょみょん。
あいつがまだ、ぼくのあとをくっついてきてる。
「うるさいな、ぼくいそがしいんだから、あっちへいってよ。……あっ」
ころん。
ウンチがひとつ、あいつのあしもとにころがっている。
「あっ! ぼくのウンチ!」
ところが、あいつがウンチにちかづいたとたん、ウンチはパッときえてしまった!
「えっ!」
ぽかんとしているぼくをしらんぷりして、あいつは、なわばりのあちこちをあるきはじめた。ウンチをさがしてるみたいだ。そうしてまだのこっているウンチをみつけると……。
――パッ!
また、ウンチきえちゃった!
ぼくはびっくりしすぎてこえもでない。
どういうことなの?
ぼくはおこった。
ダン! ダン! ダン!
おもいっきりちからをこめて、ゆかをふみならし、おおきなおとをたてた。
あいつってば、ぜんぜんへいきなかおしてる。
なまいきにも、ぼくにちょうせんしてるんだ!
ダン! ダン! ダン!
みーっ。ぴぴっ。ぴぴぅ。
ぼくたちがけんかしてるのをきいて、ママがかけてきた。
ママはぼくをつかまえると、おへやにもどしてしまった。
ぼくわるくないもん。
あいつが、ぼくのウンチをよこどりしたんだから!
ぜーんぶ、あいつがわるいんだもん。それなのに、ずるい!
あいつはしばらくのあいだ、なわばりをあるきまわっていた。だけどそのうちつかれちゃたみたいで、ママがよういしておいたベッドにもどっておひるねをはじめた。
そんなあいつをにらみつけて、ぼくはけっしんしたんだ。
つぎひのあさ。ママはいつものように、ぼくをおへやからだした。そしてぼくをなでなでしながら、あいつとなかよくするようにいった。
だけどぼくはきこえないふり。
ぴょっぴょっぴょっ。
ぼくがみまわりをはじめると、やっぱりあいつはあとをついてきた。
ぴょーん!
ぼくはいきおいよく、ソファにとびのった。
あいつはぼくみたいにたかくジャンプできないから、こまったかおでソファのしたをうろうろしてる。
よぉーし。
ぼくはソファのうえから、おもいっきりとびおりた!
だん!
ひらべったいあいつのせなかのうえに、いきおいよくちゃくち!
えい! えい!
ゆかをふみならすときとおなじように、あいつのせなかをふんづけてやった。
だん! だん!
みゅぃん。 ぴぴぴぴぴ……
へんなこえでなにかいってる。
ぼくはせなかからおりて、あいつのめのまえにたった。
「どうだ! まいったか!」
ぴぴぴぴぴ……。 ぴっ。
あいつはそういったきり、しゃがみこんでうごかなくなった。
やった! ぼく、だいしょうり!
「これにこりたら、もういじわるなんかしちゃだめだよ!」
あいつはなんにもこたえない。
はんせいしてるのかな?
「ねえ、わかった?」
やっぱり、だまったまま。
ごめんなさいっていえば、ぼくだってゆるしてあげるのに。
「ねえ、ねえってば」
つっついてみたけれど、うんともすんともいわない。
ぼくはだんだん、しんぱいになってきた。
「ね、ねえ……」
もしかして……、びょうきになっちゃった?
ぼくがいじわるしたから?
だって、だって!
こいつがぼくのだいじなウンチをとっちゃうから。だから、ぼくだって。
だけど……。
「ねえ……、ごめんね」
ぴぴっ
「あっ」
ぴぴっ。ういぃぃぃん。みょん。ぶいーん。
あいつってば、きゅうにぼくにじゃれついてきた。
よかった。げんきになったよ!
みょんみょんみょんみょん。
「なかなおりしようね」
ういぃぃん ういぃぃん。
あいつはなにかいいながら、ぼくをつっついた。
「え? なあに?」
みると、せなかがピカピカひかってる。
のれ、っていってるのかな?
ぼくはあいつのせなかに、そっとのってみた。あいつはそのまま、ゆっくりとあるきだした。
みょんみょん ぶいいーん
「わあ! すごい!」
なんだかなわばりが、いつもとちがってみえる!
ぶーん ぶーん ぶーん
あいつも、はしゃいであちこちあるきまわる。だんだんスピードをあげて、おしまいには、はしりはじめた。
「わあい!」
すっごくたのしい!
ぼくはいままで、だれかといっしょにこんなにたのしくあそんだことがなかった。
――あっ、そうだ! ぼく、いいことかんがえた!
ころころころころ。
ぼくのウンチ、ころころ。
ころころころん。
ころころころりーん!
ぼくたちがとおったあとに、ウンチがおぎょうぎよくならんでる。
こうすれば、ウンチをおくのがらくちんでしょ。
なわばりじゅう、あっというまに、ぼくのウンチがいっぱい!
「たのしいね!」
ぶいーん ぶいーん ぶいーん!
すっかりなかよしになったぼくたちをみて、なぜか、ママはおおきなためいきをついた。