その5 そうだアキバのライブに行こう
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イケメンスイッチは、スイッチを使った者よりもイケメンな男を爆発させる神秘のスイッチ。
しかし先日まで、まさかこれがイケメンの神を殺す程の力があるとは、誰も考えもしなかった。
イケメンスイッチは、じつは世界存亡にかかわる鍵である。
神だろうと悪魔だろうとお構いなく、すべてのイケメンを絶対的な力で爆発させる。
そのイケメンスイッチを持つ者は、敬意と恐怖をこめてこう呼ばれる。
イケメンマスター
イケメンマスター と呼ばれた理由はいくつかある。
すべてのイケメンを殺して自分が世界一のイケメンになるからとか、
イケメンは殺されない為に従わないといけないから、イケメンを奴隷にする主という意味でこう呼ばれていたとか。
しかし今のイケメンマスターである荒川武威は、まったく違う理由でイケメンマスターと呼ばれている。
誰よりも、イケメンな魂を持つ不細工男。
それがイケメンマスターVである。
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秋葉原だちくしょう。
俺はイケメンマスターとか呼ばれているけど、不細工自慢だ。
今はメイドカフェで休憩中。
目の前には大黒玄太と雅人の兄弟がいる。
隣には細目イケメンの金子が座っている。
今日はこのメンツで午前中にAKH49とかいうアイドルグループのライブ見てきたぜ。
午前中からライブとか普通は無いらしいんだが、今日は何とか記念日とか、わけの分からないAKH49ファンじゃないと分からない理由で午前中ライブだったらしい。
玄太君が4枚チケットを手に入れたから俺たちも呼ばれたわけだ。
雅人はぐったりしている。
「なんだあのパワーは。めちゃくちゃ疲れたぜ。」
その言葉に玄太君は誇らしそうだ。
「あれが人の心のパワーだ。V君は戦闘時に部下をあの状態にもっていって戦わせるから、すごく強い部隊になるんだ。集団戦の勉強だぞ。素人の集団でも凄い迫力を感じただろう。お前達だってスイッチと戦ったとき、異常にテンションを高まったろ。最後の時なんか何も恐れないくらいのモチベーション状態で捨て身で戦ったんじゃないのか。それがV君の指揮官としての恐ろしいところだ。そして実はV君はあれをライブからも学んだんだ。お前がアレか学べたらと思って今日は誘ったんだ。」
雅人は嬉しそうに背を伸ばす。
「兄ちゃん、全然兄ちゃんの心を理解していないで俺は恥ずかしいぜ。確かにそういう目線で見ると勉強になるよ。そうか・・・あれも集団戦の肥やしか。くそ、ダラダラみちまったぜ。」
確かにライブは集団戦の理想的な形態のひとつだ。
そんで、あれから学ぶことも有ったと口からでまかせを言った事がある気もする。
でもそれは俺の適当な発言だから気にするな・・・雅人。
するとメイドと楽しそうに話していた金子が俺を見る。
「そういえばイケメンマスターは『ままゆー』て叫んではりましたが、ままゆファンやったんすね。」
「いんや、全然知らない。となりの人が『ままゆ』て叫んでたから叫んでただけだ。途中でツインテの人がままゆだって気づいたけど。」
雅人は驚く。
「まじっすか。俺はてっきりVさんは、めちゃくちゃ馴染んで踊ったり叫んだりしていたからAKH49通なんだと思っていましたよ。」
「全然まったく。それにAKH49ライブとかはじめてきたし。まだ『ままゆ』ってひとしか知らないし。」
「うそでしょ、だって周りと一緒に『俺達ままゆを愛してる』とかあわせて叫んだりしていたじゃないですか。しかも歌の最中もずっと一糸乱れずあの変な応援の踊りをやってたし。初めてって嘘でしょ。」
ここでちょっと雅人をからかいたくなった。
「雅人、お前はまだAKH49ライブの武道活用がわかっていないようだな。」
「え・・・集団戦の参考意外にも武道活用があるんですか?。」
「ふっ、あれは予想力と反射神経、それに人の呼吸とテンションを読む能力でやってだんだ。前後左右の人間を視界に入れる。その中で一番最初に動く奴を反射神経でまねをするんだ。そうすればそれ程遅れずに同じ動きが出来る。さらに曲のパターンとの兼ね合いを理解すれば、そのうち自発的に判断できるのだ。この訓練は初めて出会った敵にいかに早く順応するかというのにも通じるぞ。」
「ま、マジっすか!アイドルライブが、Vさんや兄ちゃんほどの人でも訓練に使える場だったとは思わなかったぜ。くそおお、俺も一人でオロオロしてないで一緒に踊るべきだった。だから金子さんも一緒に踊っていたのか!」
金子はメイドさんに「あーん」をしてもらっいながら雅人に言う。
「それは違うで雅人君。俺も実際は理由なんてわかっとらんかったよ。でも上を目指すならイケメンマスターがやってることは、率先して真似せなと思って一緒にやってたんや。実際途中から反射神経に頼らずに動けるようになったわ。あれは面白い練習でしたわ。さすがにあのコールとかいう雄たけびまでは真似できませんでしたが、それすらスラスラまねするイケメンマスターを見て、イケメンマスターの凄さを肌で感じましたわ。」
「くうー、俺もVさんの凄さを感じたかったぜ。」
おいおい、お前達、おれを持ち上げるのはやめてよ。
っていうか、金子はいま嘘ついているよな。
金子は元々お調子者だから、周りがハイテンションになると、一緒にテンションあげて楽しむやつなだけで、俺を真似して上を目指したわけじゃないよな。
俺だって本当のことを言うと、あんないい場所のチケットを手に入れてしまったから、しょうがなくやってたんだ。
あの良い席で冷めていたらAKH49やそのファンに申し訳ないじゃないか。だからいっしょに盛り上がったフリをしないといただけなんだよな。
おっちゃんは空気を読んじゃうんだよ。
ま、雅人をからかっておくのも面白いから黙っておくか。
すると雅人にメイドさんが話しかけてきた。
「これは何のコスプレですかー」
雅人は、今日も長ランに赤Tシャツという、番長の定番服で来ている。
雅人はちょっと動揺した後、両腕を組んで胸を張る。
「これは俺のユニフォームだ。番長だからな。」
金子は嬉しそうに雅人を指差す。
「ほんまですよ、雅人君は竹内館最強のリアル番長なんよ。」
すると周りのメイドさんがキャーキャー騒ぐ。
「うわあ、リアル番長さんとかカッコいいですね。ちょっと学ランとか触ってもいいですか?。」
「お、おう、好きに触りやがれ。」
すると周りのメイドさんたちが面白がって、キャッキャッと雅人を触りに来る。
雅人は腕を組んで固まっているが、あきらかに顔が照れていた。
俺は親切にメイドさんに補足してあげた。
「しかもこの番長雅人が尊敬してやまないのが、このおにいちゃんの玄太君なんだぜ。」
そういって、巨体の玄太君を指差す。
一瞬メイドさんが固まる。
そしてメイドさんはプッと笑って言ったのだ。
「またまた、嘘ですよね。」
そこで雅人はカッと目を見開く。
「メイドさん、それは俺なんか兄ちゃんにくらべたら、情けなさすぎるから兄弟と見てもらえなかったでしょうか。」
「えええ・・・・、いえ」
俺はフォローを入れた。
「雅人君はかわいそうな美的感覚だから、お兄ちゃんが一番カッコいいと思っているんだ。」
「おもしろーい」
メイドさん達は、また笑い出した。
そんなメイドさんたちを雅人は照れながら、チラチラ横目で見ては顔を赤らめた。
初心なやつめ。