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控室

 予想通り、翌日のスポーツ紙は一面この話題で持ちきりだった、


『三郎ご乱心』『夫婦漫才1P先取』『口撃で圧勝』『怒った!発情期の猿!』


 ほとんどの紙面で殴り飛ばされる瞬間の写真が使われ、不意打ちで顔を歪め吹っ飛ばされる写真が紙面によって色々な角度から掲載されていた。


「フッやはりスター性だな、全紙一面全てジャックしたぞ!」


 『殴られて吹っ飛ばされてるとこで紙面飾りたくない』皆はそう思ったがあえて、何も言わなかった、彼が上機嫌なのは平和な証拠なのだから。

 しかし真はあまり面白くなさそうだった、


「この『夫婦漫才』ってなに?」


「知らんよ、文句は書いた記者に言ってくれ」


 正論であるだけに余計にむかついた、なるべく平静さを保ちつつ質問を続けた、


「で、勝つための策はあるの?」


「策なんてなくても余裕だろ?」


 昨日、まともにやったら勝てないと言ったばかりなのに、まったく策もなく勝てると言い張るこの男の頭はどうなっているのであろうか?そんな事を考えると余計苛立ちが増し、背を向けると冷静に言い放った、


「降りる」


 背後でスゴイ音がした、彼が椅子から転げ落ちたのである、


「ちょっと待て!嘘を言っているわけでも、とぼけているわけでもない、疑うならこれを見ろ!」


 彼に見せられた映像を見ると、「なるほど」と、彼の言わんとしている事を理解し、試合に臨む事を了承した、後は微調整をしながら1週間後の試合を待つのみとなった。



 試合当日、忠と三郎はマスコミに囲まれ気を吐いていた、


「あんな女、子供に負けるわけあるかい!大ケガせんように棄権しいや!」


「いてこましたる!ワイのえげつないまでの強さ思い知らしたるわ!」


 会場の控室に設置された、テレビに映る親子を見ると研究所メンバーの目は非常に醒めたものであった、


「前から思ってたけど、品がない・・・」


 安田の呟きに皆、黙って頷く。


「しかしさぁ、こんなの使って大丈夫なのかな?企業のイメージアップどころか、イメージ悪くならない?」


 モソモソとポップコーンを口にしながら中条が誰となしに尋ねる、


「FUBに参加を発表した際に株価が上がってたのが登録選手を織田忠と発表した時点でかなり株価が落ちてるね、これ絶対逆効果だろうな」


 携帯で株価をチャックしながら本庄が答える、ここで空売りしておけばかなり儲かるのではないか?仮にうちが負けても、色物としか見られていない大学生チームに勝った安土重工はまったくほまれとならないが、色物大学生チームしかも選手は女子高生、そんなところに負けたら、株価は一気に暴落するのではなかろうか?そんな事を考えながら、自分の口座情報を呼び出し、空売りの準備を開始した。


 全体的にリラックスしたイメージであった、まるで勝利を確信しているかのようであった。しかも、本来の主役ともいうべき、兼一と真はテレビの画面に映る織田親子に目もくれず先ほどから将棋盤を挟んで無言で駒を動かし続けていた、


「王手!これで後5手で詰みだね!」


「じゃあ、その飛車貰う」


 真は固まってしまった、取られる事を想定しておらず、戦略が破綻するのを感じたからだった、結局そのままズルズルと削られ、試合開始の少し前には詰まされてしまった、飛車・角・香・桂・金・銀、落ちでやって負けたとあって、真の悔しがりようは尋常なものではなかった、勝ち誇る兼一の言葉がさらに悔しさを助長した、


「修業がたりんね」


 悔しがる真に対し、周りが慰める、


「ああ、そいつプロ棋士並みの腕だから勝てなくてもしょうがないよ」


「先に言ってよ!賞金の取り分賭けちゃったじゃない!」


 もっとも、真としても、本当に優勝までできるとは思っていなかった、故に賞金の分配額などどうでもいいと思っていたが、しかしここまでハンデがあるにも関わらず、負けるのはやはり悔しかった、しかもそれなりに将棋の腕には自信があっただけに余計悔しかった。


「なんで、こんなに強いの?」


 素人名人と言っても差し障りないその強さに、若干の違和感すら感じ尋ねたが、勝ち誇ったかのように堂々と回答した、


「ボッチなめるな、一人で遊べる遊びなんて限られているんだ!」


 皆は黙っていたが、真はかわいそうな人を見るような目で改めて兼一を見ていた。


「さて、適当にリラックスできたところで、行くか!あとたった四回勝てば優勝なんだからな!今日は雑魚だし」


「そうだね、チャチャっと終わらせようか」


 真にしてもあの猿顔ボクサーには不快感を感じており、ギャフンと言わせてやりたい気分はあった、頭部マスクを手に取ると、それを脇にかかえ、ゆっくりと会場へとむかって行った。



 安土重工の控室もバカな笑い声が木霊する、非常にリラックスしたムードあった、一回戦は楽に突破できるものであると確信していたのだから。


「あんちゃん、やったな!一回戦突破すればかなりボーナスでるんやろ?」


「ああ、楽勝で1千万はおいしいわ!」


「ええなぁ、ワイが出たかったわ」


「でも、女相手に本気出せるん?」


「大丈夫や!ワイは真の男女平等主義者や!女相手でもドロップキックをお見舞いできる男やで!」


「あんちゃん、ボクサーやろ!」


「こりゃ一本とられたわ!」


 兄弟三人がバカな話に興じている中で父親の三郎はしきりと、今後のプロデュースについて電卓を弾きながら考えていた、自分達一家の明るいバラ色の未来を夢見て。


「よっしゃー!ほなそろそろ行くで、入場はいつもの織田トレインで気合入れて行くで!」


 三郎に促され、兄弟は立ち上がり会場へとむかって行った、その顔は勝利を確信しているかのようであった。

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