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ウルトラスーパーチャンピオン

いいですか、これはフィクションですからね。

「あれ?こいつXXじぇね?」

そう思ったあなた、もう一度言います、フィクションですからね!

偶々似た人が世の中にはいるかもしれません、それでもフィクションですからね。

 兼一は上機嫌であった、出場登録を済ませると、連日マスコミが取材に訪れていた、もちろん扱いは色物であったが、それでも注目を集める事はそれなりに意義があると思っていた。

 逆に真は不機嫌であった、相変わらず扱いが『王子』だったからである。

 口にこそ出さないが一応は『姫』とか呼ばれたいという願望を持っていた、しかし彼女のファンクラブはどういう訳か女性限定という規約までできてしまっていた、彼女が作った訳ではなく自然発生的にできたファンクラブであったため、口出しすることもはばかられなんともできない状況であった、要するに世間は彼女に『王子』としての偶像を求めているという事であった。

 

 組み合わせ抽選会は古めかしいやり方ではあるが公平性をアピールする意味も込めて会場でくじ引きによって決められた、絶対に自分が引くといってきかない兼一を他が押さえつけて、真が引くことになった。 理由は簡単で、彼女が引く方が絵になるからそういう方針でお願いするという事を他のメンバーはマスコミから頼まれ、裏で袖の下までもらってしまっていたからだった。

 納得のいかない兼一だけは最後まで抵抗していたが、椅子に縛り付けられ、猿轡まで嵌められてしまっていた。マスコミも心得たもので彼だけは一切映らないように見事なフレームワークを見せていた。


 彼女がクジを引く瞬間はマスコミのフラッシュが一斉に焚かれ優勝候補と目されるところよりはるかに盛大な扱いであった、たしかに道着を着た彼女は『王子』という言葉どおり凛々しくマスコミが喜びそうな題材であった、兼一はモゴモゴと何か言っているが、あのスポットライトを浴びるのはこの俺だ!、みたいな事を言いたかったのだろうことは容易に想像ができた、もっとも彼がクジを引いていたらマスコミはほぼ無視していたであろう事もさらに容易に想像がついた。


『毘沙門工科大学  未来科学研究所』


 彼らの札が掲げられた横は空白となっており、まだ対戦相手は決まっていなかった。

 後は、どこが隣を引き当てるのかをゆっくりと待つだけとなり、余計な事はしないだろうと兼一の拘束も解かれたが、ブツブツと文句は言っていた。

 席に戻って来た真も若干不機嫌そうな顔をしていた、理由は服装であった。クジを引くだけなのだから、普通に女の子らしい可愛い服装で引きに行きたいと思っていたのだが、マスコミからの強い要請で道着で引く事になった、もちろんそんな要請に従う理由など欠片もないのだが、拝み倒され年配の記者やカメラマンに土下座までされるとシブシブと要請に従ってしまったのだ。マスコミの間でも若干無愛想ではあるが頼み込むと断らない彼女の人の好さは広まってしまっていた。


 そんな不機嫌な二人を余所に抽選は進み、一際大きな歓声が上がったと思ったら、ついに彼らの対戦相手が決定した。


『安土重工』


 壇上でクジを引いた男はマイクもないのに大きなダミ声で叫び出した、


「一回戦は楽勝やな!張り合いなくてしゃあないわ!だいたい女子高生ってなんやねん?色仕掛けで何とかしよう思とるんちゃうか?もうちょい成長してからにせえや!ワイは巨乳の方が好きやしな!」


 壇上で大きな声で叫ぶように挑発する男を見て、ストレスが溜まっていた兼一と真は切れた、


「おい!見ろよ!猿が人語をしゃべってるぞ!初めて見た!」


「ええ!珍しい!ホルマリン漬けがいいか、生体実験がいいか迷うわよね?」


「ただ、あまり近寄らん方がいいぞ、発情期みたいで興奮状態のようだからな」


「発情期の猿なんて絶対近寄りたくないわよね」


 『おまえら、いつそんなシナリオ用意したんだよ?』皆がそう思うくらい息の合った掛け合いだった、その猿顔のボクサーは思わぬ口撃に一瞬キョトンとしたが、すぐ我に返り、


「やんのか!」


 怒鳴ると彼らのテーブルへと速足で歩み寄って来た、兼一は立ち上がり彼女の前に出るが、彼なりの計算はあった、まさか選手が抽選会で口による挑発行為ならまだしも、実際に手は出さないだろう、いくらなんでもそこまでバカではないだろう、そんな計算があった、しかしその考えは予期せぬ方向から簡単に裏切られた。

 自分に近寄ってくる猿顔のボクサーに気を取られていると、横からの強い衝撃を受け吹っ飛ばされてしまった、何が起こったのか分からずキョロキョロと見回すと、自分が立っていたあたりに猿顔ボクサーが老けてごつくなったような男が立っていた、『チンピラ中年』そんな言葉がピタリと当てはまりそうなその男が横合いから殴り飛ばしたのだった、すぐに駆け付けた係員によって連行されていたが、この世界には想像をはるかに逸脱したバカがいる、そんな事を頬の痛みとともに思い知らされた。


 帰りの車の中では兼一以外はみな楽しそうな雰囲気であった、深刻なダメージを受けたわけでもない事もあり、面白いショーを見たような感覚になっていた。携帯型のテレビでは、兼一を殴った、織田三郎がしきりに息子を守るためだった、と正当性を主張していた。


「な~にが息子を守るだよ、うちのテーブルに威嚇するように近づいてきたのはてめぇの息子だろうに」


「対戦が決まって握手を求めるためだった、って言ってますね」


 面白そうに語る安田の言葉が癇に障った、言い訳にしてもあまりにも無茶苦茶過ぎる、誰もがそんな事を考えていたが、これが連中のいつもの芸風な部分もあり、マスコミも面白がって取り上げるのみであった。

 中条が、携帯を弄りながら調べたデータを話し出す、


「データだけ見るとすごいんだよねぇ、織田忠、ボクシング四階級制覇のウルトラスーパーチャンピオン、弟の雄、孝、ともにチャンピオンでギネスレコードまで持ってるんだよね」


 皆、肌で感じていた、明日のスポーツ新聞の一面は絶対に自分達なのだろうと、そしてその扱いが色物VS色物といった扱いになるであろうことを。


「実際どうなんだ?インチキチャンピオンみたいに言われてるけど」


 兼一の質問に少し考えるようにしながら真は回答を出す、


「微妙なボクサーだけど、なんでもありのルールでやったら勝てないんじゃないのかな冷静に見て、やっぱり体格差や男女差は大きいからね」


 「ふむ」と小さく頷いた後で、自信ありげに宣言した、


「まぁ、あんな猿に人間様、特に天才と謳われた私の英知の結晶が敗れるわけもあるまい!一回戦は余裕勝ちだろう祝勝会の準備と、イギリスのブックメーカーで全賭けして次の研究資金を大量ゲットだ!」


 『狭い車中でうるせえなぁ』とハンドルを握る本庄は思ったが、世間的にはボクシングチャンピオンの方が勝つと思われているところで現役女子高生が勝利するとしたら、賭け率はかなりのものになるのではないか?ちょっと賭けておこうかな?と貯金の残高を頭の中で目まぐるしく計算していた。


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