篭絡?
上機嫌でかなりデコレーションされたパンケーキを頬張っていた。しかしその上機嫌も先ほど投げ飛ばした男が話しかけると殺し屋のような目で睨み付け険悪な空気へと変わる、
「お代わりいくらでもいいわよ、あのバカの小遣いから天引きにしとくからね」
「は~い、じゃあ次はチョコパフェで」
「ちょっと待て、おば・・・お姉さま」
途中までNGワードを言いかけたが、頬にナイフを当てられ不自然な言語へと強制変換させられた。
「てゆうか、初対面でいきなり胸を揉みしだくなんて、そんな風に育てたつもりはないんだけどねぇ」
「いや、誤解だ!ネットにも『合気道王子』とかのってたじゃないか!」
「いつもは『情弱乙』とか言って、ネット情報を鵜吞みにするのはどうのこうのって偉そうにほざいてたじゃない」
何も言い返せなかった、沈黙してしまっていると、隣でチョコパフェを平らげた彼女は元気に追加注文を行おうとしていた、
「次はハニーバニラトースト!」
「はいはい」と笑顔で用意を開始するのを尻目に、汚い物でも見るかのような目で男を見ながら、非常に不機嫌そうに話しかけてきた、
「で、何の用?」
今まで無視され続けただけに、やっと話す機会を得たが、また機嫌を損ねないように慎重に言葉を選びながら、コホンと若干わざとらしい咳払いをすると、説明を開始した、
「政府主催の『Future Ultimate Battle』は知っているかな?あれに出てもらいたいんだよ」
真は少し怪訝な顔をすると、質問を開始した、
「あれって大企業とかが出場してるんじゃなかったの?」
「うん、誤解されがちだが、出場には特に制限はない、ただ二つの要素から小さいところは出場を諦めてしまってまったく出場しなくなっただけなのさ」
「二つ?」
「まず一つは技術力だ、大企業が持てる資金や技術力をフルに使ってくるのに小さな町工場レベルでは太刀打ちできないという事だ、もう一つは選手だ、大企業は資金力や伝手を利用して格闘技のチャンピオンやメダリストを雇うのに、小さいところだとどうしても町の道場主くらいだからな」
「ふ~ん」とつまらなそうに運ばれてきたハニーバニラトーストを食べながら聞いていたが、
「じゃあ、ダメじゃん」
あっさりと斬って捨ててきた、しかしその程度ではめげる事無く反論を開始する、
「資金力では勝てないが我が頭脳はそんなハンデを簡単に凌駕する超級の作品を完成させたのだ!しかも相手の攻撃を利用するカウンター戦術が主流の合気道とは相性的に最高の出来となっている!」
「あいつ格闘技詳しかったっけ?」「んなわけないじゃん、さっき来るまでの時間にネットで調べてたよ」「運痴だからなぁ」後ろでヒソヒソと話をしていたが、彼女の反応は薄いものがあった、
「優勝賞金の10億円は山分けでいいぞ!」
ピクッと反応したが、少し考えるようにした後で、やはり気乗りしなそうに断って来た、
「いや、お金は欲しいけど、億の単位で言われてもピンとこないんだよね」
彼女の言葉を聞くと、乗り気でない者にあまり無理強いする事も憚られ、少し寂しそうにしながらも、「すまなかったね、好きに飲み食いして行ってくれていいから」と言い、立てかけてあったロフストランドクラッチを手に取り、ゆっくり出て行こうとした、後ろでは「相変わらず粘りが弱いんだよな」「あんなだから童貞なんだよ」「もうちょっと積極的になれないのかねぇ」と好き放題小声で言われていたが、彼自身ハイテンションで色々やってはいるものの本質的に人付き合いは苦手な方で、それを誤魔化すためのキャラ作りという側面が強かった。
「ちょっと待った、タダで飲み食いさせてもらっただけじゃどうも奢られっぱなしみたいでイマイチ悪い気がする、一度くらい試しで着て見てそれから考えてもいいよ」
彼女としても、もう少ししつこく粘ってくるかと思っていた、以外にあっさりしていて拍子抜けしてしまっていた、その上散々飲み食いしていたので悪いことをしているような気分になってしまった。たしかにいきなり胸を触られた事は腹立たしかったが、インターネット上やマスコミから『王子』と呼ばれネタにされているのも知っていただけに、勘違いしたのだろうと一定の納得もしていた。
その言葉を聞いて男は振り向くと満面の笑顔で近寄って来た、
「本当か?助かる!力を合わせて優勝しよう!私は22世紀最高のサイエンティスト直江兼一!歴史に名を刻む者だ!」
試しに着てみるって言っただけで、早くも参加することにされてしまって、こいつやっぱダメだ、そんな事を考えながら、この二人の奇妙なコンビによる大会挑戦は始まったのだった。