番外編~御前会議~
ー方舟宮殿内閣会議室ー
「陛下がお見えです」
僕こと執事『ロスト』のかけ声と共に、大臣や諸侯たちお偉い方が円卓から起立する。
ここにいるメンバーは、方舟の行政府たる「内閣」の構成員だ。
内閣の閣僚は議会の承認を得て国王が任命するのだ。また、閣僚は必ずしも議会議員が任命される訳ではない。
同じ立憲君主制や議員内閣制をとる日本国とは少し違う。
ミュラ……いや、陛下が上座に着席されると、重厚な木製の扉が閉められ、会議が始まった……。
……面倒だ。ミュラって呼ぼう。1000年もお仕えして親しいし。本人も認めているしいいよね。
ミュラに一礼したのち、僕は閣議の議事進行を司る。
日本国ではこのポジションは内閣官房長官らしい。
「……では各部より、日本国についての報告をしていただきます。イナバ殿」
イナバ君もミュラに一礼したのち、報告を始める。
「はい……では、われら図書館が収集した情報によると……」
イナバ君は閣僚では最年少ながら、王立図書館の司書である。
イナバ君を始めとする「うさぎ族」たる獣族は、異世界と方舟を繋ぐことができる。
また、「王立図書館」は、ただの「図書館」ではない。
日本人に分かりやすく言うなら、「しーあいえー」や「こうあん」のような「特務諜報機関」の役割、そして機密文書の保全といった任務がある。
イナバ君は、日本国の情報を報告していった……。
―方舟宮殿―
ミュラ女王陛下にお仕えできることはこの上ない喜びである。だが、アリス先王陛下と共にあった1000年前が懐かしくないかと言われれば……嘘になる。
それでも、僕はミュラといられればそれで満足なのだ。
「疲れたあ~~」
御所のソファーにミュラはもたれかかる。
「お疲れさまです。ミュラ女王陛下」
ふざけて慇懃な調子で申し上げた。
「こんなところまで来て『陛下』はナシよ。ロスト」
「ふざけただけですよ。ミュラ」
僕は彼女に微笑みつつ、紅茶を淹れる。
至福のひとときが始まる……。
先程の閣議の内容「日本国とのパイプを作る」といった決定を思い出しつつ、僕は彼女とのひとときを満喫していた……。




