雅人と里香
4月5日、何とか俺は始業式前日に退院することができた。
一ヵ月ぶりに我が家のドアを開けると、友人の雅人と里香が玄関で待ち構えていた。
「里香、雅人?!」
「ゆうくん、退院おめでとう~!」
「退院おめでとう祐作」
2人がクラッカーの紐を引くと、ぱ~~んと軽い破裂音が鳴り響き、紙テープがひょろひょろと舞った。
「いやあ祐作、あの橋から転落したと聞いてびっくりしたよ。よく脳みそ無事だったな」
「んまあ、身体は使い物にならなくなったみたいで火葬されたけど・・・」
「ていうか、ゆうくんホントに女の子になっちゃったんだね~~。なんか、不思議な感じ」
里香が俺の身体をまじまじと見つめる。
「そうなんだよ、医者の手違いらしくてさ~。おかげで今まで経験したことのない生理とか来て大変だよ」
「ああ・・・生理はホントに・・・うん、ドンマイ」
「へえ、生理ってそんな大変なのか・・・んぎっ?!」
ムカッと来たので、とりあえず雅人の脇腹に肘を入れといた。生理バカにすんな。
「茶化すな。こっちは大変なんだぞ」
「悪かった・・・しかし、凄い可愛い顔だな。スタイルもいいし。それなのに男の口調っていうのも勿体無いなあ」
「口調とかいきなり変えられるかよ・・・新しい名前だって上手く受け入れられないのに」
「そうね・・・ゆうくんはどっちの名前で呼ばれたいの?まだ祐作の方がいい?」
「俺は――― ・・・これからの事もあるし、渚で頑張っていこうと思う」
「なら、俺たちもそれに合わせるよ。渚」
「ええ。頑張っていきましょ、渚」
「サンキュ、雅人、里香・・・ぐぎゃあああああああああ、やっぱ身体がゾワゾワするうううううううううう!」
俺は思わず悶えてしまう。
「慣れるには相当時間がかかりそうねえ」
「違いねえな」
雅人と里香はそんな俺の姿を見て笑った。つられて俺も笑った。
この調子なら、残り1年くらい同じ高校で過ごせそうだな―――
そう思った。そう思いたかった。
そうでもしないと不安だったから。
何かに縋り付かないと、不安で押しつぶされそうだったから。
「―――――――ぶはぁっ?!」
苦しさのあまり目が覚めた。別に何か怖い夢を見ていたわけでも無いのに全身汗まみれだ。
何でこんな汗まみれなんだろうか。
何でこんなにも苦しかったんだろうか。
分からない。
「とりあえず、シャワー浴びるか・・・」
服を脱いで浴室に入る。浴室備え付けの鏡には可愛らしい女の子が映っていた。
自分の身体を見てるはずなのに、脳は”それ”を自分の身体だと認識してくれない。変な気分だ。
いや、認識出来ないのは当然の事か?だってこれ俺の身体じゃねえし。
とりあえず俺はその身体に欲情するなんて事は無かった。
欲情したほうが健全な男子高校生なのか?いや、今は俺はもう女子高生か。女に体になったらこういう性欲って無くなるものだろうか?
つうか脳移植って脳が本体扱いになるのか?その脳を支える身体が本体じゃないのか?
比率の問題じゃないのか?意識の有り無しの問題なのか?
ああ、もう意味わかんねえ。
もう、どうでもいいか。
雅人と里香は小学校時代からの仲良しという設定です。本当にただの仲良しなんで恋愛感情なんて一切湧くことがないという・・・