選択
「ところで裕・・・渚。学校はどうするの?」
「どうするって?って、ああ・・・身体も名前も変わっちゃったしなあ・・・。みんなになんて説明すればいいのかなあ」
「・・・お母さんが言ってるのはそういう事じゃないわ。あなたの前に脳移植に成功した人たち、どうなったか知ってる?」
俺の前に成功した3例か。
確か一人目はマスコミに大々的に取り上げられたんだよな。初の成功例な訳だし。
ただあまりにも取り上げられ過ぎたせいで彼のプライバシーは無いに等しく、それのせいでどこに行っても奇異の目で見られ、それに耐えきれずに1年も経たず自殺しているはずだ。
二人目も一人目と同じ理由で自殺していた。
三人目は流石にマスコミも反省したのか報道規制が敷かれたのか軽く取り上げられる程度で済んで、顔も名前も公開されることは無かった。
んんんんんんんんんんんん。どうしたものか・・・。
一人目と二人目の事を考えると、どこか遠い地に引っ越してゼロからやり直したほうがいいのかなあ・・・。
「・・・まあ、どうせあと1年で卒業だし、大学は遠いところにすればいいんだから大丈夫だろ」
「大丈夫ならいいんだけど。でもまあ辛くなったらいつでも言いなさい。そのときはすぐ引っ越しましょう」
「そんなすぐ引っ越せるほどうちに余裕あったっけ?」
母さんはカバンから札束を取りだした。
「うわ?!こんな金どこから?!」
「榊先生からのお詫びだそうよ」
母さんの声には少し含みがあった。
・・・流石母さん、転んでもタダでは起きない。
この後俺は後悔することになる。さっさと転校すればよかったと。
痛感することになる。自分の考えがどれほど甘いものなのか。人間という生き物がどれほど冷酷で残忍なのか。




