私の中の始まりの世界
短編の連載番
内容は少しもいじってあります
私がほんの小さい、小さい頃の思い出。
私は小学校に入って時が過ぎた頃に幼馴染みの子に告白されました。幼稚園に入ってようやく言葉を話せるようになったばかりで、しかも私よりも4歳年下の妹と同い年だから本気になんかしませんでしたけど。
「ねぇぼくとけっこんしよっ、ね?あきな」
でもね、正直に言うと嬉しかったの。まだ4歳になったばかりの悠斗くんと8歳の私。私自身“結婚”という意味は知らなかったけれど、悠斗くんに「あきなとずっとずーっと、いっしょにいれるまほうのことば」と言われて、幼心にも胸に広がるあたたかい光が浸透したのが分かったの。
でも……悠斗くんは私以外の何人かにも全く同じ言葉を言っているのを聞いてしまった。聞くつもりなんてなかったし、悠斗くんの言葉を真に受けたつもりなかったけど、胸に刺さる痛みと広がったはずの光が闇に落ちたのを感じた。
「あき姉、わたしね悠斗にぷろぽーずされたのー。およめさんにしてくれるんだって」
4歳年下の妹の春奈。嬉しそうに頬を林檎のように赤らめて、私に言ってくる。違うの春奈私にも言われたの、悠斗くんは私にも言ってくれたの“結婚”しようって。
でも、私は“お姉ちゃんだから我慢しないといけないの”だから春奈には「よかったね」としか言えなかったの。
そんな中、悠斗くんは何事もなかったように家に遊びに来る。
悠斗と春奈は同じ幼稚園、私は小学校だったから家に帰るとすでに2人が遊んでいて、素直に混ざる事も出来ずに私がお姉ちゃんだからって理由で勉強をするふりをしながら時折眺めていた。
それでも時々3人でおままごとをする機会があって、春奈はお母さんで悠斗くんがお父さん約で、私がお客さん役だった“お姉ちゃんだから我慢しないといけない”から2人のやりたいようにやらせていた。
そんなある日、悠斗くんが私に会いに来た。その日は日曜日で幼稚園も小学校もお休みの日。春奈はパパとお出掛けしていて家には私とママだけだった。
「あのね、あきな。ぼく、ひめちゃんにけっこんしようっていったの」
悠斗くんをリビングに通すとママが入れたオレンジジュースにも目をくれず興奮した様子で言ってきた。
「そしたらね、ひめちゃんがいいよって、おっきくなったらむかえにきてっていったの。これって、どういういみなのかな」
分からないって感じて首をかしげる悠斗くんに私は固まってしまった。結婚っておっきくなっても、お爺ちゃんお婆ちゃんになっても一緒にいるって意味だと思うから、その“ひめちゃん”がいった意味はおっきくなってもずっと一緒にいれるように会いに来てだと思うんだけどなぁ。
「あらあら、悠斗くんはその“ひめちゃん”にプロポーズしたのよね?春奈はふられちゃったのかしら」
なにも答えない私の変わりに、ママが悠斗くん話しかけた。
「えっ、はるちゃんをふるってなんのこと?」
悠斗くんは何も分かってない様子。もちろん私だって分からないことあるけど。
「いいこと悠斗くん。結婚の約束は1人しか出来ないのよ、最初にした結婚の約束はね、なかったことになるの」
「えっぼく、あきなにさいしょにいったの。あきなとはけっこできないの?」
コテンと首をかしげるて話す悠斗くんの言葉を受けてママは苦笑いをした。春奈がプロポーズされたって騒いでいたけど、まさか私までとは思わなかったのだろう。
「あらあら、悠斗くんはひめちゃんと結婚するのよね?だったら秋奈とは結婚できないのよ。それに、結婚の約束をするには指輪がないとダメなの」
「むー。でもぼく、あきながいい。ほかのおんなのこじゃなくてあきながいちばん。でも、ひめちゃんのことどうしたらいいのー?それにあゆちゃんやまきちゃんと、ゆかちゃんと……えっと」
ちっちゃな指を広げて数えだした悠斗くんに若干白い目で見るママが恐い。私以外に言っていたのは知っていたし、幼稚園児の言う言葉だから気にしないようにしていたけれど本人に言われるのはやっぱり複雑。その中で、私がいいっという言葉は嬉しいけどね。
「悠斗くんが、そのひめちゃんと他の子に謝るべきだと思うな。ごめんなさいって、悠斗くんには他に結婚したい人がいるからって、出来るかしら」
でも、まだ幼稚園児だものボールが転がっていくようにコロコロ気持ちも変わるかもしれない。結婚だなんてきっと今だけ、それに春奈のこともあるし……。
よし、聞かなかったことにしよう。
「わかった。みんなにごめんなさいってしたら、あきなにもういちどけっこんしたいって、ゆびわをもってくる!!」
私が小学生でいる間は、悠斗くんは指輪を持ってくることなかったの。
きっと、悠斗くんは私の為に色々準備をしているだけ、だから時間がかかっているだけ。
だからきっと、いつか……。