不撓不屈
ここに人権はない。ここにあるのは死と絶望だけ。毎日のように繰り返される非人道的な人体実験。理由もなくそんな事をされている訳ではない。人体実験されるのには理由がある。それは僕たちが『四字熟語』に関する異能を持っているということだ。それを研究者たちはコトバと呼ぶ。僕たちの首には首輪が巻いてあって自由にコトバを使う事はできない。ここにいる研究者たちはこのコトバで何かしたいのだろうが僕たちにはそんな事を聞く権利もない。
「うわぁぁぁぁ!」
また叫び声がきこえる。叫び声は何回聞いてもやっぱり慣れない。もう嫌だ。こんなのうんざりだ。
「誰か、誰か助けて」
その時、爆発音と共に目の前に返り血に染まった男がいた。僕にはその男が死神ではなく救世主のように見えた。
「お前は復讐したいか?」
その男が問う。あまりの事で驚いたができるだけ落ち着いてこう言った。
「ああ、僕はアイツらが憎い。だから僕に力をくれっ!」
鉄格子の間から手を伸ばしながら叫んだ。
「そうだ!抗え!自分の不幸な運命を肯定するな!」
そう言って僕の首輪をいとも容易く引きちぎった。
「いたぞ!ここだ!」
武装した研究者が何人も来る。
「はっ!お前らみたいな雑魚が何人いても関係ねぇーんだよ」
その男は研究者が銃を打つヒマも与えず体術で倒す。
「すごい」
この人なら……。
そこからは無双だった。研究者が出てくる度に倒す。それの繰り返し。そうして階段まで楽に階段まで来ることができた。
「ここを上った所にある扉を壊せば俺の仲間がいる。それすればここは一気に制圧してお前の仲間を助ける事ができ……」
刹那、男の体がもの凄いスピードで壁にぶつかった。いや、飛ばされたと言うべきだろうか。それはいつの間にいたのか階段の前で仁王立ちしている。
「残念だったなー!あともう少しでここを通れたのに、俺様がいる限りここは通れないぜ!」
馬鹿でかい声で門兵は言った。そいつは僕のことを取るに足らないと思ったのか無視して男の方へ向かって行く。
ここまで来たのに終わってしまうのかやっぱり希望なんてなかったんだ。
「調子にのるなよ。このデブが」
男の声がした。いつの間にか立ったのか門兵の前に立っている。全くダメージは無かったかのように平然と。
「デブだと?!これは筋肉だ!」
門兵は怒りのままに殴りかかる。
「コトバ開放」
男がそう言うと門兵は殴るのを辞め膝まづいて頭をたれる。
「くそ、なんでだ体が動かない!もしかしてお前、コトバ使い……か?」
門兵の顔が青ざめていくのが分かる。
コトバ使いとは読んで字のごとくコトバを使える人間のことだ。そしてこの男の四字熟語は
『絶対王政』
たぶんこれがあの男のコトバ。人を支配して強制的に自分の思い通りに動かす事ができるのだろう。
「王は俺で国民はお前だ。それは揺るがない。国民は俺に支配されろ」
そう言って自由の効かない門兵の首を切り落とした。階段を上り、扉を開けるとそこには数人の男女がいた。男が何か言うとすぐさま扉の中に入っていった。あれが仲間なのだろう。少し休んで冷静になったころ、僕は男に質問した。
「あなた達は何なんですか?」
おおよその予想は付いていたが聞かずにはいられなかった。
「俺達はこのクソみてーな研究者たちの黒幕をぶっ潰す為に作られた組織」
良かった。予想通りだ。
「その組織に僕を入れてください」
「まあ、元からそのつもりだったしそれに、その為に助けたんだしよう」
え?てっきり断られると思っていたからビックリだ。
「ありがとうございます」
「せいぜい俺の役に立ってくれよ」
言い方は少し鼻についたが気にしないようにした。
「ようこそ。百花繚乱へ、俺は隊長の暁だ。お前は?」
「僕は、僕の名前はない」
当たり前だ、ただの実験動物に名前など必要ない。
「ないか、そうか。なら俺がつけてやろう。そうだな、お前は渚だ」
「なぎさ」
「そうだ。組織名に花が入ってるからな。花には水が必要だろ」
その時から僕は渚になった。
2度目の投稿で文才など小学校並だと自負してますのでアドバイスがあったり読みづらい事があったらぜひ教えて下さい。最後に読んでくれてありがとうございます。