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鏡の俺の真実

表の世界は平和だと一発目で理解できた。



産まれてから今まで地下の牢屋みたいな所にいて、太陽の下には出させてもらえなかったし、出なかったせいなのか光が眼に刺すように痛む。吸血鬼じゃあるまいし、まして「目が!目がぁああああ!!!」と叫ぶわけにもいかない。慣れない光の強さに身体がよろけるのを、後ろにいた少女の付き人の1人に支えられるはめになった。

二十歳くらいの大柄な男で、腰には日本刀に似ている長剣と、ゴツい拳銃がぶら下がっている。俺は慌ててお礼と謝罪を言おうとしたら、何故か無言でサングラスらしき物を手渡される。

目線を送ると無言で頷いたので、おそらくサングラスらしき物をかけた方がいいですよ的な事なのだろう。

俺はそれを掛けると、相手が納得したかの様にまた頷き、少女の方を指差し歩けと命令した。口数は少ないのだろう大柄な男に、俺は何も言わず従う。


サングラス越しに辺りを見渡す。


異世界とはどんな所なのかと不安しかなかったが、どうやら治安はそこまでではないらしい。ただ・・・どことなく前世の世界と似てる物がある。例えるなら秋葉のコスプレする人だかりに入り込んだみたいな・・・いや、こっちは本当に普段着としてきているのだろう。


何もかも新鮮な出来事に俺は動揺を隠せない。


建物も何故かビルらしき物もあるし、


城みたいなものもある。



あべこべの世界みたいな感じだ。




「私の馬車が近くにあります、そこまでは歩きなのですが、先ずはその身なりを少し整えましょうか。そのボロボロの衣類ではお恥ずかしいでしょうし・・・」



そこからは彼女の後を追う様な形で歩く。


周りから痛いほど視線を感じるが、サングラスのせいで余り周りが見えない。見えない分少し落ち着いて歩く事が出来る。まさかサングラスを渡してきたのはその効果的な事を狙ってなのだろうか、相手の考えている事は一切と言っていいほどわからないのでコレは勘だ。



「貴方は少し目立つ髪の色をしているので周りが注目しているだけです、眼はそれで隠れているので大丈夫だと思います。お気になさらず私について来てください。」


「・・・」



この世界では白髪の子供は珍しいらしい。


確かにサングラス越しでも周りに白髪の人は見当たらないし、カラフルな髪を持った人が多い。




「・・・ん?」



あれ?


アレは人なのか?




人ではないものも見える気がするのは、おそらく気のせいではないのだろう。異世界ってのは他の人種がいてもおかしくはない、まして俺ですらエルフとかの耳らしいしな・・・・・・エルフ?



「俺って・・・エルフなのか?」


「貴方は自分の事は何も知らされていないのでしたよね・・・私は貴方を見て思うに、貴方のその特徴的な少し尖った耳は妖精族エルフの証拠なのですが・・・そういえば契約書にも母親の種族は人間ヒューマンと書かれていましたが、父親は不明とか。」



不明。


自分の事が何もわからないとなると、正直困る。



「まぁ、クウォーターはこの世界に沢山いますし、エルフ以外の種族なのかもしれませんね。」


「種族・・・」



この世界にはどれくらいの種族がいるのだろうか、人間族、妖精族が今の話題では出て来たが、俺の今の視界にも人間には見えない奴が沢山いる。売人のカバ男もそうだったが、人間離れしているのがもしかしたら違う種族なのかもしれない。



「種族に関しても後々お教えいたしますので、今は自分の事を考えて下さいな。」


「・・・あんた何考えてんの?」


「何がですか?」



とぼける仕草が腹が立つ。

奴隷として買ったのではなく、家族にしたくて買った。考えられない・・・



「とぼけるのはやめろ。」


「ふふっ、貴方は人を信用できないのですね。別にいいでしょう、人それぞれで価値観も考えも違いますし、警戒してくれて構わないですわ。なんならもっと私を警戒してくれて構いません、その代わり貴方が警戒する分、私は貴方の世話を沢山しますから。」


「意味がわからない!」



俺は声を張り上げる。



「わからなくて結構。そこまで気になるなら貴方に一言答えをあげましょう。」



少女はこちらに振り返り後ろ向きで歩き進める。付き人たちは一瞬困惑した表情をしたが直ぐに表情を戻す。が、さっきから付き人たちはまるで転ぶなと言っているような眼付きをしている。





「私は変わり者好きなんです。」


「意味がわかんない・・・」




何を考えてるんだこいつ・・・。








それからは相手に合わせて行動を共にした。


彼女は紳士服が売られているらしい所を見つけては何度も出入りすると、ある一つの店の前で止まった。そこはシンプルながらも何処か清潔感を醸し出す店だった。


「ここにしましょう。」



そこに彼女は入って行き、俺も手招きされて店内に入っていく。店内に入るとそこはレトロな木の匂いがする少し殺風景な店だった。辺りを見渡すとある服に目がいった。


パーカーがあるのだ。


見た感じこの世界の衣類は少し前の世界と似ている様にも見え、洋服や和服に似たものからTシャツ、短パン、そしてパーカーなども売っている。勿論際どい戦闘服ぽいのもあるし、厳つい鎧もチラホラ視界に入る。異世界と言っても余り前の世界と価値観は大差は無いのだろうかと気になるが、俺は目に入ったパーカーの前で足を止める。

見た感じははっきり言って地味だ。


が、何故かとても懐かしく感じる。


前世ではパーカーやジャージのどれかしか着なかったせいなのかもしれない。外に出ないといけない用事は年に何回はあったからと、ジーンズを(ゴムでゆるゆるの)を1着だけあった。その際でもパーカーは欠かせない。


パーカーは正義だ。


フード付きのはもっと正義だ。



「それが気になりますか?」



いつの間にか後ろに立っていたと思われる少女に、俺は驚いて後退りをする。



「別に・・・見てただけだから、欲しいとかじゃなくて、こんな服もあるんだなって思っただけで・・・」



側から聞くとこれじゃ欲しがっているように聞こえるが、言った時は気付きもしなかった。言った瞬間に、俺は気が付いて弁解しようとしたが、相手の方が一歩上手だったらしく直ぐにこう返された。「それは買うとして、他も選んでください。」と、相手は俺の言い分なんて御構い無しに、買うと決めてしまった。



「貴方が欲しい物はいくつか見繕わないと、正直貴方自身も私自身も困りますから、欲しい物はどんどん言ってくださいまし。ある程度なら、こちらで買いますから。」



金持ちだ。


金持ちがモノホンでその言葉を使う所を初めて聞いた気がする。いや初めてだ、前世ではテレビでよくデ⚫︎夫人とかが言いそうな単語の一つだ。

コレがある意味で言う『ヒモ』と言う様なものなのだろうか。その人の金で生活し続けるとは、何と楽な仕事だろうか・・・・いやいや、俺はそんなクズにはもうなりたくない。



「別に必要最低限の物があればいい・・・」


「必要最低限とは、生活に支障が出なくて尚且なおかつ1人でも大丈夫な有様を言うのであって、ケチケチして何でもいいと言う様な疎かな考えで言う事とはまた違うのですよ?貴方は私に従い、ちゃんとこの世界のある程度のマナーを身に付けなければなりません。なので、必要最低限ではなく、貴方が今必要な物を必要最強限手に入れます。」



必要最強限ってなんぞ?



「それ・・・言葉としていいの?」


「貴方に言われたくはないです。さぁ、とっとと買い物を済ましてしまいましょう。」




結局そのフード付きのパーカーは買う事になり、他にも何着か購入したが、少女は何故か「素朴過ぎて駄目ですね、貴方にはもっと明るい色が似合うと思うのですが・・・」と何度も言ってきた。確かに黒や紺といった暗めの色が選びがちだが、それは目立ちたくないからで、別に明るい色が嫌いなわけではない。


俺はふと、気になる事を思い出した。



俺は俺自身を見てみたい。



この世界に来て、自分の事をまるで知る事が出来なかったのだ。視覚から見える物は見えるが、それでも限界はある。顔など触っても余りわからないし。


辺りを見渡すと、何故か定員らしき人がこちらをずっとチラチラと見ているのに気付く。俺は首を傾げながら相手を見ていると、相手の方が何故か少し悲鳴を上げて逃げてしまった。ズキっと胸が痛む、人に避けられたりは何度もあったので慣れていたが、悲鳴を上げられるのは初めてだった。

俺はやはり汚いのかもしれない・・・


見た目もきっと・・・



そう思うと、また呼吸が荒くなり始めた。



怖い・・・




「大丈夫?」


「!?」



急に話し掛けられた。

後ろを振り向くと少女が心配そうにこちらを向く。



「何かあったの?」


「・・・・別に。」



言ってもわからないだろうと、俺は違う事を相手に切り出した。



「・・・あのさ、鏡ってある?」



「鏡?」



もしかしてこの世界には鏡が無いのだろうかと、一瞬頭に過ぎったが直ぐにある場所に案内された。何故かその鏡があると思われる場所だけ暗く、ひんやりとしている。



「少し待ってて。」



少女は薄暗い壁に手を当て、眼を閉じる。






まさか


これは・・・っ!




なんじ、我に真実の姿をこたえよ・・・・・氷鏡グラス・ミロワール





その瞬間、長方形の鏡が薄煙と共に目の前に現れた。



「なっ・・・!」


「これでよろしいかしら?」



俺は眼を見開いた。



異世界では本当にあるのか・・・!



ファンタジーが目の前にっ!



「魔法・・・!」


「魔法じゃないわよ?」



思いに反して冷たい言葉が返って来た。なら今目の前で見せたコレはなんだと言うのだ、詳しく説明したまえ!!!



「私は魔法は使えないわ、魔力は私はないし。」


「じゃぁ・・・これは」


「魔術よ。」



魔術・・・魔法とは違うとだけは分かる。



「魔術は誰でも使えるけど、その代わりに体力の低下や疲労として帰って来るの。魔術の場合は詠唱が必要だけど、魔法はそれが無くても出来る。まぁ、あれです・・・魔力にも限りがありますから。」


「す・・・ごい。」



魔術や魔法が実在する世界・・・。


他にもファンタジーならではがあるのだろうか。



「ふふっ、貴方もそんな顔するのね。」



少女は呆れ顔で俺に苦笑している。

何故そんな苦笑しているのかは、今の俺には気にも留めない。さっきまた恐怖に落ちそうになったが、それすらもうどうでもいいとさえ思える。魔法があるのだ・・・魔術も、エルフすらいると来た。ここまで来て何も感じないわけがない・・・今までこんな気持ちになった事がない。



これが好奇心なのだろうか。



「・・・っ!?」



俺は鏡に飛び付いた。



「?、どうかなさいました?」



どうしたもこうしたもない。俺はただ手の平からひんやりと伝わって来る鏡に、目が離せないだけだ。いや、目が離せないのは鏡じゃない、鏡に映っている自分自身だ。





「・・・美少女?」




そこには白髪を腰まで伸ばした美少女がこちらを覗いていた。




「何言っているのですが?それは貴方ですよ?」





どうやら、俺は美少女に転生したらしい。


白髪の黄金眼ゴールドアイを持ち、何より小柄なせいか愛らしい印象を与える。これはこれは育て甲斐がありそうな・・・



・・・いや、ちょっと待て。



「俺は男だぞ?」



急いでズボンの中の俺のリモコンを確認する。

ちゃんと付いているし、まだまだ伸び代がある感じのリモコンだし・・・うん、俺はちゃんと男児だ。



「貴方もしかして自分の姿を見るの初めて?」



無言で頷くと鏡に映ってる美少女も頷く。



「本当に俺なのか?」



髪の毛や肌が白いのは知っていたが、ここまで来ると幼さも交じってロリ美少女になっている。



「貴方はおそらく運が良かったのですね、本来ならばクウォーターは恐ろしい風貌をしており皆近寄りがたいとかで、軽蔑けいべつされる事が多いんですよ。まぁ、貴方の場合その目と白髪の影響の方が大きいんですがね。」


「はぁ、」



にわかに信じがたいが、どうやら本当に今俺と目を合わせている目の前に映っている人物は自分の様だ。




俺が美少女になってどうすんだよ・・・いや、工夫すれば美少年になるよなこれは。



「さぁ、これで宜しいかしら?もう直ぐ夕方になってしまいますし、早くしないと屋敷に戻れなくなってしまいます。次のお店に行きますわよ。」


「あ・・・あぁ。」



コレは得したと言っていいのだろうか・・・




見た目美少女とか・・・俺がハーレム作った際のその中の1人にしてくれよ。俺じゃなくていい、寧ろ何故俺なのか意味がわからない。



「最悪だぁ・・・っ」




これじゃあ・・・俺をめぐってのホモ小説になっちまうじゃねーか。




それだけは阻止しなければ・・・





「貴方何時まで鏡に擦り寄っているの?なにかあった?」


「・・・いえ、」







どうしよう・・・また違う意味で死にたくなったんだが。















この後、彼女に連れ回されて身なりをそれなりに整えた。髪は何故だか切らない方がいいと言われたので、赤いわえ紐でひとまとめにする。サングラスはしていないと外を真面に歩けないだろうからと、ずっと着けていろと彼女に忠告された。





「さぁ、私の屋敷に行きますよ。」




彼女はゆっくりとまた歩き出す。





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