ずっと傍にいるよ
少しずつ少しずつ積み上げて、固めて、美しくなっていく作品。私の一部が移ったのか、キミはまるで人間のような温かさを感じる。そのうち感情や言葉も使えるようになるんじゃないだろうか。そうなったらとても素敵だ。
精根込めて手を動かし続けた甲斐あって、間もなくキミは完成する。完成したキミとなら、私は一緒に更なる高みへと行ける筈だ。少し先の未来を思い浮かべて、僅かに気持ちが浮つく。
それが命取りになった。
キミに掠った私の指先。絶妙なバランスで自立するキミにはそれだけで致命傷だ。そこだけ時間が引き延ばされたみたいにキミはゆっくり、ゆっくりとバランスを崩す。倒れていく。落下していく。手を伸ばして受け止めようにも、私の身体は落ちてゆくキミよりも速く動く事ができなかった。 キミは一瞬にしてさっきまで感じていた温かさも人間らしさも無くなって、作品から、ただの粘土クズへと姿を変えた。一瞬の空白の後に胸の痛みが私を私を襲った。
***
あれからどれほどの時がたっただろうか。ほんの数秒かもしれないし、数時間かもしれないし、数日かもしれない。あの時から私の時間感覚は完全に麻痺してしまったようだ。
私は壊れてしまったキミの傍らにいる。キミを失ってしまった悲しみが私を絡め取って、キミの傍から離れられない。涙が止め処なく流れる。涙を流すと悲しみが薄れる、と言ったのは誰だっただろうか。名前も顔も知らないそいつに文句を言ってやりたい。いくら涙を流しても、嘆き叫んでも、この胸の悲しみは痛みはぽっかり空いた穴は少しも埋まる気配がない。キミの最期が繰り返し脳裏に浮かぶ。キミの最後に私には確かに聞こえたんだ。キミの叫びが。悲鳴が。キミの声が私の耳に残って離れない。
涙を流しすぎて水分が足りなくなったのだろうか、意識が朦朧としてくる。このまま意識を失ってしまったら、不味い気がする。だが、それもいいだろう。キミと共にここで朽ち果てるのも悪くない気がする。
もうすぐ、キミの傍に行くよ。