ご乱心
「え? キャプテンもう一度お願いします」
部室でキャプテンの発言を聞いた俺は耳を疑った。
「いやだからさ、おまえら全員退部してくれるか?」
俺達48人の部員を前にして、いきなり突拍子も無く口を開いたと思えば、部活を辞めろと言うのだ。部員達は当然動揺し、ざわめき立っていたのだが、この中で唯一人、俺だけは冷静だった。
と、言うのも俺は理解していたからだ。これは大会前に、やる気が無いとかいって気合いを入れる為のよくある“あれ”である。さすがはキャプテンと俺は関心していた。
「いきなり辞めろだなんて……理由を言ってくださいよ理由を!」
すると、キャプテンの心意気を理解してない部員の一人が声を上げた。
「……みたいにやりたいんだ」
しかしそれに対するキャプテンの反応は俺にとって意外なものだった。松岡修造ばりに声を張って熱い説教でもかますのかと思えば、頭を掻きながらボソボソと何かを呟くが良く聞こえない。
すると一度大きく息を吐き、決意したかのようにキャプテンは語り出した。
「いや実は昨日さ、少林サッカー見てさ! すごい特殊能力を持った素人の寄せ集めで優勝するってロマンだなって」
「は?」と、発言の意図を理解しかねない部員達は当然困惑する。
「は? じゃねーーんだよ! 中途半端にサッカーかじったチンカス共なんか俺のミラクルチームにはお呼びじゃねえんだよ! 消え失せーーーい!!」
キャプテンの、ご乱心とも思える突然の恫喝に部員達は各々が顔を見合わせた。そして――
「意味わかんねえよ」
「馬鹿じゃねえの」
「やってられっかよ」
「やめよやめよ、バスケ部入ろうぜ」
「死ね!」
俺を除く全員が、捨て台詞を吐いて部室を――と言うか、サッカー部を後にした。
「と……いう訳だ蒼木」と言いながらキャプテンは俺の肩に手を置いた。
「という訳だ、じゃねーよ! 何血迷ってんだよ!? どうすんだよ! 大会まで後二ヵ月しかねえんだぞ! 今からでもみんなに謝りに行くぞ。なっ!」
しかしキャプテンの顔は何故か自信に満ち溢れていた。
「ふっ、焦るな蒼木。俺が何の考えもなしにあんなことすると思うか?」
「え?」
「俺の考えが正しければ全国制覇は夢じゃなく、現実のものとなる」
「ということは何か宛があるんだな?」
「これを見ろ」
「おお、これは!!」