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Last one  作者: 黒毛犬
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1.目つきの悪い女

ぽつりぽつりと小さい雨が辺りをゆっくりと濡らし始めた。雨は次第に大きくなり、周りの車や信号の音を掻き消して白い蒸気を出す。そんな中、一人の少女は地べたに横になっていた。肩から伝わる重々しい痛みと恐怖に堪えながら自然と震えてしまう体を必死に押さえ込んだ。大きく息を吐き、鼻でゆっくりと吸う。湿ったコンクリートの臭いに混じって鉄臭く、焦げ臭い匂いが鼻を刺激する。にちゃにちゃと粘着テープを剥がすような音がこちらへと近づいてくるのがわかった。その時、目の前に顔が落ちてきた。両目はしっかりと開いているのにも関わらず、瞳孔はひらきっぱなしで、光を通さない。耐え切れない恐怖に少女は目をつむった。全ては悪夢だと信じて・・・

しばらくして、恐る恐る目を開いた。

目の前にはフードを被った人が暗い筒をこちらに向けて指を引いた。途端、かちんと鳴った。


「・・・!!!・・・夢か・・・」


慌てて起きたここの住人、レナは辺りを見渡すがそこは見慣れた自分の部屋だった。シーツはくしゃくしゃ、床には飲み干した空き缶や空き瓶、テーブルにおいてあるピザは一切れ残し、ドアの横には無造作に置かれたゴミ袋がある。お世辞にも「いい部屋だね★」とは言えない。


「暑っつ・・・」


乱暴にベッド横の窓を開けると風が部屋に入り込み、先程よりはましになった。外では怒鳴り声が聞こえたり、重機や車の騒音が絶え間無く鳴りつづける。しばらく外を眺めていると携帯通信機がピーピーと鳴っていることに気がついた。面倒くさいと思いながら頭を掻き通信機のスイッチをOnにした。


「はぃ?もしもし?」

『もしもし?もしもしじゃねーよ!随分前から電話してんぞ!寝てたか?そりゃぐっすり寝てたよな!』

「んだようるせーなぁ。頭イテーんだよ。がめくな。」

『知るか!どーせ呑んでたんだろ!さっさと降りてこいよ!仕事だ仕事!!』

「はぃはぃわかったから待ってろ」

『さっきからずっと待っ・・・


会話をするのも嫌になり、Offに戻した。通信機をベッドに放り投げ、シャツや下着を脱いで洗濯機につっこんだ。バルブを捻り、冷たいシャワーを・・・と思ったら水が一滴一滴垂れるだけで結局浴びれなかった。舌打ちをし、洗ったかどうだかわからない下着をつけてシワくちゃになっているシャツとジーパンを穿き、壁にかけている銃を腰につけた。ドアを開け、蹴りで閉め直した時に風が吹いて彼女のショートヘヤーがなびく。

ここは国名が無い町と呼ぶより要塞に近い。2086年、地球温暖化によって地球上の氷は全て溶けた。地球上の土地87%は海の中に。そこで人は残った土地を広げ、上に高く積み上げた。人々はこれを塔とよんだ。安全な上は金持ちが、貧困者は下へと降りて今の生活となった。ここでの問題は食料不足は大分まともとなったが治安悪化、薬物等がある。また、問題はまだ存在している。むしろこっちの問題の方が重いのかもしれない。


「んで?今日の仕事は?」


Dと呼ばれている青年はイライラとライターの蓋を開けては閉めての繰り返しをしている。


「今日はまた出てきた奴らを潰すだけ。」


奴らとは30年前、土地の開拓、塔の設立等で人が行えないことを代わりに行う機械の事だ。本来、自動思考回路を積んである機械達は人々の命令を聞き、自分で計算、最短時間での作業をする。しかし、塔の完成後、殆どの機械は廃棄とされるはずだった。機械達は自分で自分達を守ると考え、人々を襲うようになった。そのうち、機械達は最下層に拠点を作るほどになった。人々は歯車剥きだしの機械達を『ギア』と呼ぶようになった。そしてギアを壊す事を仕事にする人もいる。彼らもその一人だ。


「めんどくせぇ。一昨日潰したろ?」

「それとは別だ。今回は町中まで来てるんだよ。以前みてぇに壁外じゃねーから早めにやらなかきゃ町は終わるぞ。」


軽い小走りで進むにつれ、武器を持ってる人が多くなってきた。この町は上に行くエレベーターを中心として周りを囲むようになっている。一番外側には壁を作り、簡単には入って来れないようにはしてあるが、奴らは通気孔やダストシュート、様々な所から侵入してくる。定期的に壁の外でうろついているギア達を壊してはいるものの、何処からともなく湧いてくる。


「なんだなんだ?もういんのか?」

「入ってきてんのは東区域のダスト付近。数は50」

「多っ。型は?」

「今んとこ人型だけだな。」

「はぁ・・・だるっ。」

「オヤジに言うぞ?」

「サーガンバローゼーDー?」


そうこうやり取りしてく内に人がいなくなってきた。ほとんどは避難しているようだった。二人は適当なところまで歩き、自分達の武器の確認をする。武器はあまり進化もせず、昔の武器の設計図等が残ってたりするので機械達のよりは劣る事がある。そこで昔のを改造することにより、奴らに対する武器を作った。レナは旧ドイツ軍の遺産、ルガーP08を改造し、ギアの頭を簡単に撃ち抜く威力へとした銃を二丁。Dは銃を持たず、高振動を発生させるナイフと色々持っている。


「・・・来るぞ」


耳に響く高い機械音をたてて、走ってくるのは作業用自律機械「worker」。普通なら奴らはスパナやドライバーなどどいった工具を持つのだが手にしてるのは奴らが大量生産した小型ハンドガンだ。五体が走り、近接戦へ持ち込もうとした瞬間、足元で爆発が起き、動く物はいなかった。Dは爆発物を主に使った戦闘スタイルを行う。ギアは爆発が起きたことにより、ハンドガンを使った中距離戦に変更した。二人の隠れている壁にいくつもの弾丸が飛んでくる。


「残りいくつだ?」

「あと45」

「仕掛けは?」

「10分くれりゃ余裕だ!」

「んじゃ8分で仕事しろ!」


レナはホルスター(銃をしまうケース、彼女の場合腰に二つつけている)から銃を抜き、横に転がりながら撃ち続ける。2体のギアに当たったものの、一体は肩に当たり、動きは完全には止まってなかった。次に建物についている看板の留め金を撃ち、下にいたギアの真上に落とした。他のギアが落ちた看板に気をとられている間、近くにいたギアを蹴り飛ばしてまた撃つ。

撃ち抜いた一体の首を持ちあげて盾のかわりに使い、弾が切れるまで撃ち続ける。弾切れになり、ホルスターにしまうと同時に盾かわりに使っていたギアのハンドガンを取り、また弾切れになるまで撃つ。弾切れを起こし、ハンドガンと盾を投げつけて障害物の影へと避難した。ギア達は仕留めるため、ゆっくりと障害物に近づいた。しかし、障害物の裏には誰もいなかった。奴らが確認した瞬間、周りの壁が勢いよく爆発し、ギア達は大量の瓦礫の下敷きになった。


「おせぇよ!もっとちゃっちゃとやれよ!」

「ああっ!!?今のが8分以内だぞ!」

「クソ遅いですねー」

「てめぇ!・・・おい!」

「キャア!!」


瓦礫の隙間から瓦礫が飛んできて、Dが服を引っ張らなければ頭に直撃していただろう。今度は瓦礫が上へ飛び、中から三体、今までのとは違うギアが出てきた。


「なんだ!?新型か?」

「いや・・・Hopperだ!」


ギア達は人が武器を改造するように自分達を改造したのだろう。こういった新型は普通よりも特殊なケースが多い。特殊脚部装備型自律機械「Hopper」。バランスの悪い脚をつけている人型のギアで見た目のように脚力が上昇している。レナは素早くリロードし、体制を直しながら撃つ。ギア達はジャンプをし、撃ってきた弾を避けてそのままビルの上へ避難した。


「面倒だな・・・手持ちの火薬も少ねぇ。」

「こっちも似たようなもんだ。予備マガジン(弾を入れとき、素早くリロードするためのケース)も四つだわ。」

「・・・んじゃあれやるか?」

「そうだな・・・んじゃやるぞ!」


レナはビルの梯子を登り、五階で中に入った。中はほとんど廃れていて、机や椅子が散乱している。ゆっくりと歩いて行くと上から下りてきたギア達が階段から撃ってきた。慌てて机の裏へ隠れると三体とも下りてきたのか、机がどんどんボロボロになっていく。近くにあった電源コードを伸ばし、柱へ結んで自分の腰にも結んだ。その時、机の上に一体のギアが飛び乗ってきた。弾を横に転げ避けて机の脚を撃ち抜き、ギアを転ばせて頭を撃つ。残りの2体はこっちを撃ちつづけている。レナは走り、窓から飛び降りた。飛び降りたところを見たギア達はあわてて窓辺へと駆け寄り、下を見下ろす。レナは電源コードをロープのように使い、綺麗に着地していた。ギア達はそのレナを撃とうと銃を構えるが、後ろから小さく「ジジジッ」という音に反応する。後ろにはさっきレナが隠れていた机があり、そこには拳大の大きさの黒い塊があり、そこから細長い糸が着いている。ビルの3階にあたるところにDがいて、その導火線に火をつけていた。気づくのが遅かったギア達は爆発に巻き込まれ、下に落下した。レナはまだ動いている一体の頭を踏み潰し、機能を停止させた。


「やっと終わったか・・・」

「うわっ!」

「どうした!?レナ!」

「いや、オイルが付いた・・・」

「はぁ?・・・」

「いやいや、オイルがさ」

「なんかさ、お前ってちょくちょく女子っぽいな」

「なんでだよ・・・」

「さっき『キャア』って言ってたし、今といい以外と女の子っぽいって」


Dはそこから何も喋れなかった。レナが鋭く睨み、さっきのギアの銃を構えているからだ。


「な、なんだよ?」

「・・・あたしが言った台詞は全部忘れな」

「わかった!わかったって!早くそれをしまえ!」

「あ、間違えたわ(笑)」

「おぃ!ちょっ!待っ・・・」


カチンと音がなり、Dは呆然としていた。銃はとっくに弾切れだった。


「・・・は?」

「何突っ立ってるだよ?早く帰るぞ!」

「てめぇ!やっぱオヤジに言うからな!」


レナはまた睨みながらDの足元を狙い、帰るまでDに下手なタップダンスを踊らせ続けていた。

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