01 ジャム 著 祈り 『流れ星、静かに消える場所』
生暖かい微風を感じながら、窓から屋根に出た。
いつもの特殊な加工をして滑らないように改造してあるサンダルを履く。彼の分はないから、万が一の時のために手を繋いだ。もちろんこれは口実だけど、そういったことに疎い彼には、悟られないだろうという確信がある。付き合ってから何も進展がないのだから、私から積極的に仕掛けていくしかない。
今夜は星がたくさん瞬いている。
「綺麗な夜だね」
彼は、私の方を向いて微笑みで返した。
彼はほとんど喋らない。どうしてなのか知らないし、聞こうと思ったこともない。本当に大事なときには言葉にしてくれる優しさがあるからそれで十分だと感じるからだ。
「たまにはさ、何もかも忘れて、知らないところへふらっと旅に出たいときってない? それこそ、銀河鉄道とかに乗って遠くへさ…」ため息が出た。「あぁ、流れ星でも降らないかなぁ、そうしたら必死にお祈りをするのに」
隣でクスっと笑う声が聞こえた。
「本気だよ、叶えたいことがいっぱいあるんだもん。 一つくらいは、お星様が叶えてくれてもバチは当たらないよ」
それから、沈黙。
聞こえるのは風の音だけ。
それ以外には何も聞こえない。
静かな、
静かな、
とても静かな夜。
そんなときに、流れ星が墜ちる。
何も準備をしていない。
予想外の出来事。
叶えたいことは…、
何も思い出すことができない。
急に涙が出そうになる。
「愛してる」
ふと、彼の唇を起点に空気が震えた。
澄んだ瞳がこちらを捉えている。
ただの一言。
だけど、とても素敵な響き。
静かな夜は、心臓の鼓動でうるさくなっていた。
END