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自作小説倶楽部 第8冊/2014年上半期(第43-48集)  作者: 自作小説倶楽部
第47集(2014年5月)/「連休」&「切り札」
32/46

05 真珠 著  切り札 『恋の切り札』

.  恋の切り札

.

 「俺、モテたい」

 晴男は、空になったチューハイの缶をコタツに強く置いた。

 いきなりの宣言に、小林はポテトチップスを口へ運ぶのを止めた。

「何、急に。好きな奴でもできたのか」

「いない。誰でもいいんだよ、とにかくモテたいんだよぉ! 童貞でいるのも飽きたんだよぉぉお!!」

「飲み過ぎじゃね?」

「酔ってねーし。あぁ、そこらじゅうの女子にモテたい…」

 晴男はまた新しいチューハイをチビチビと啜り、小林は高速でポテトチップスを口ヘ運びだした。

「あ、だったらあれ使えるかも」

 小林は何かを思い出したらしく、玄関に置きっぱなしていたスポーツバッグを持ってきた。

 ゴソゴソと中に手を突っ込んで、動きを止めると晴男にニヤケた顔を向け、

「ふぇろばくてりあすぷれー!」

 バッグから出したのは、プラスチック製のミスト容器だった。

「……ドラえもん?」

 晴男は、冷たい視線を友人に注いだ。

「うん、これ、ドラえもんのひみつ道具レベルだよ」

「なんだよ」

 晴男は小林から青いミスト容器を受け取ると、疑わしげに眺めた。

「俺、今研究してるのが、ヒトの皮膚に殺菌作用のあるバクテリアを加える事なんだ。汗をかいたりしてアンモニアが出るだろ?それをバクテリアが食べて、亜硝酸塩と一酸化窒素に変えるんだ。だから皮膚は常に清潔で、風呂に入らなくてもいいとゆー」

「風呂嫌いスプレーかよ。モテに関係ねーし」

「それが、そうでもないんだ。沢山のバクテリアの種類があるんだけど、皮膚につけてるうちに変なのが発生したんだ。フェロモンを出すやつ」

「……てことは、それが皮膚で増えたら、女子が寄ってくるってこと?」

「そう!YES!大せいかーい!」

 春男はその日からスプレーを使い始めた。

 1日2回、朝晩、顔、頭皮、全身にふりかけて、よく揉みこんだ。当然、風呂やシャワーは使わない。

 1週間その生活を続けたが、バクテリアが皮膚の汗や汚れを分解してくれるから、臭いもなく、誰にも気づかれなかった。

 毎日小林の研究室へ行って、皮膚のバクテリアを顕微鏡で見てもらうのだが、変化は10日目くらいから現れた。

「うん、そろそろ良い頃かもな。全身にフェロバクテリアが発生してるよ」

 小林は、顕微鏡から顔を上げると満足そうに笑った。

 春男もそろそろ限界だと思っていたので、安堵した。なにしろ、体臭はないものの、髪の脂っぽさが目だっていたからだ。

「いよいよだな。健闘を祈る」

 小林が軍人のような敬礼で送り出してくれた。

 春男は地下鉄のトイレで、整髪料を使い髪を整えると、最寄りの女子短大へ向かった。

 短大への道のりは、実に楽しいものだった。

 地下鉄利用の女子たちが多く、その華やかな群れが皆、春男を熱く見つめ、振り返り、ため息をつくのだ。気のせいではない。

 短大の門に到着した。

 午前の講義が終わった直後らしく、沢山の女子たちが校舎から出てきているのが伺えた。

 春男は大きく息を吸い込むと、門をくぐった。

 そして、女子たちに向かって歩みを進める。

 数多くの花達は門に向かって流れてくる。

 春男がその中心に立った時、その流れは止まった。

 熱い目をした女子たちが春男に殺到していく。

 思った以上の反応の良さに、春男は天を仰いだ。

「すっげー! モテすぎっ、ぷは――」

 が、その一瞬で空気が変わった。

 「うわっ」とか「おえ」とか「ぎゃー」という悲鳴とともに女子たちが、消えた。

「えっ? えっ?」

 肩を落とした春男が、小林の研究室に戻ってきた。

「おっ、どうだった? カノジョできたのか?」

 小林はニコニコしながらパソコンから顔を上げた。

「……ダメだった、全然……」

「なんでだよ、フェロバクテリアはスゲー増えてたのにっ?洗ってないよな?」

 怪訝そうに小林は春男の腕を取った。

「どうせ、俺はフェロバクテリアにも勝ってしまう程のキモ男だよ……はぁ」

「ぶぁっ」

 小林は春男の腕をぶん投げながら、飛び退った。

「お前!口臭ぇ!」

「ん?あ、歯磨いてないけど?」

「お前……風呂に入るなとは言ったが…歯ぁ磨くなって言ってねーし!」

.     END

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