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自作小説倶楽部 第8冊/2014年上半期(第43-48集)  作者: 自作小説倶楽部
第46集(2014年4月)/「始まり」&「終り」
24/46

04 シェル著  はじまり・おわり 『後朝(きぬぎぬ)』

   後朝きぬぎぬ


 ドナーが見つかった。

「見つかった」って言い方、正しいのだろうか。

.     ◇ 

「ゆっくり目を開けて……」

 包帯が取られる。

 一年ぶりの ひかり。

「あ……」

「見えますか?」

 私は、温かなぬくもりをすぐ隣に感じ、視線を移した。

ひかる……・」

ゆかり。俺が見える?」

 うん。うん。

 何度も頷いて その拍子に涙がこぼれ落ちる。

 光を とり戻したの

.    ◇

 私は16歳で結婚した。

 相手は25歳の六条光。

 デキ婚ではない。

 お互い、友人に、「デキ婚だろ?」なんて言われたけど。

 もう4年経つのに 子どもに恵まれない。

「外の光に慣れてきたら大学に戻ったらいいよ」

「え……でも」

「休学扱いになってるし、勿体ないじゃないか。君はさ、優秀なんだから」

「……いいの? 学費」

 それだけじゃない、医療費だって生活費だって。

ゆかり、俺一応、高給取りだぜ?」

「そうだっけ?」

「任せなさい」

 えっへん って言う光が可笑しくて笑ってしまう。

 .    ◇

 ああ……青空が綺麗。

 当たり前って凄いんだな。

 見える。聞こえる。話せる。呼吸ができる。

 それは失って、得て初めて分かる幸せ。

 生まれたての赤ちゃんは、嬉しいんだきっと。

 それが凄いって事を知ってるんだ。

 ふと、公園のベンチの隣の席に小さな男の子がいることに気がついた。

「あ……ひかる?」

 え?

 私、なに言ってるんだろう。

 まだ5歳くらいの、可愛い男の子。

 でも……光にそっくり……・

 その時、目の奥で閃光が走った気がして、瞳をぎゅっと閉じた。

 ああ……まだ外の明るさは無理なのかしら。

 横を見ると、もう男の子はいなかった。

「え?俺にそっくりな子ども?」

「うん。びっくりしちゃった。本当にそっくりなんだもの」

「へぇ~見てみたいな。でもえらく老けた子どもだな」

「ちーがーう。小さい頃の光の写真」

 あはは、なるほどね。

 いいなぁ。子ども、欲しいなぁ。

.    ◇

 光の会社は水曜日は定時に終わる。

 失明していた時も、私は引きこもらず

 よくこうしてこのcafeで待ち合わせした。

 夫婦だけど 恋人気分。

 いつもの、窓際の席で待っていよう。

「……あ」

 15歳くらいの少年が座っていた。

 仕方なく、別の席に座った。

 私の胸はドキドキして 喉の奥から心臓が出てくるんじゃないかと思った。

「あ、紫、ここにいたのか」

「……光」

「なんだよ、まだ来てないのかと思った。いつもの席じゃないから」

「うん。ほらだって、いるでしょ?」

「え? ああ、そっか、今空席になったのか」

 光……何言ってるの。

 いるじゃない。あなたにそっくりな少年が。

 私は目を覆い隠した。

「紫? 具合悪いのか? 大丈夫?」

「……うん。きっと見えすぎて……疲れてるのね」

.    ◇

 今日は同級生のべにちゃんと会う。

 大学、一年遅れちゃったけど頑張んなきゃ。 

 紅ちゃんは医学部だ。

 大変だろうなぁ……全部の科を勉強しなくちゃいけないなんて。

「6年じゃ足りないよ!」って。

 でも前向きで明るい紅ちゃんが好き。

「紫~♪」

 私は、別に他意はなかったんだけれど

 本当に何となく、光に似た男の子たちの話をしてみた。

「っていうかさ……今私が見えてるってことは、誰かが死んじゃって、その角膜を貰ったってことだよね」

「そうね。大事にしないとね」

「うん。一体……どんな人だったんだろう」

「医学的にはありえないんだけど……」

と、紅ちゃんは不思議な話を聞かせてくれた。

.    ◇

「記憶する臓器?」

「うん。ドナーの記憶が 移植された人によみがえるって」

「それと 俺に似た子たちとどう関係するの?」

「う~ん。わかんない」

「じゃぁ……ベッドでゆっくり考えるか」

 うふ♪ 光のエッチ。

 光より先にシャワーを浴びて

 寝室に向かった。

 ベッドの横には大きな鏡があって

 事の最中、凄く興奮する。

 ベッドに腰掛けて 何気に鏡を見てギョっとした。

「き……きゃ――!」

「どうした? 紫!」

「光、光」

「大丈夫。俺がいるから。大丈夫」

「今……鏡に見えたの……高校生くらいの光と今の私が……エッチしてた」

「……え?」

「私……頭おかしくなっちゃったのかな、私、死ぬのかな」

「ばか! 死ぬわけないだろ!」

「だって自分の分身を見ると死ぬって」

「そんなの迷信だよ。明日心療内科に行こう」

 コクリと彼の胸の中で頷いた。

 彼の鼓動が、いつもより激しいことに気づいた。

.    ◇

「ああ、旦那様ですね。奥様は目が見えるようになった事で、多少、情緒不安定になっているようですが、お薬はなるべく使わず 気長に支えてあげて下さい」

「光……私ね不妊治療受ける。光の赤ちゃん どうしても欲しいの」

「紫……」

「先生、私 赤ちゃんできますか?」

「一緒に頑張りましょうね」

「ええ……愛しい人との子どもを早く見たいわ」

 私の瞳は、にっこりと微笑んだ。

 あゝ 外の藤の花が綺麗だわ……

「これから、ずっと一緒よ、光君」

 そして、光の分身たちは見えなくなった。

.    終わり

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