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9話 絶望のミーナ

 わたしがご主人さまと初めて出会ったのはラートシス。

 奴隷市場へ連れて行かれてるときに偶然目があったのがご主人さま。


 連れて行かれてる途中でわたしを見てくる人は他にも何人もいた。

 上から目線の憐れみの目、 (あざけ)りの目、(さげす)みの目、卑猥な好奇の目。

 でもミーナを見たご主人さまの目はそのどれも当てはまらなかった。


 ご主人さまの憐れみの目には温かみがあった。

 直感的なものだけどこの人ならやさしくしてくれると思った。


 今まで何度も裏切られ、だまされてきた、わたし。

 やさしそうな人にだまされると心の痛手は深くなる。

 でもこの人は違う、そう確信できるなにかがあった。


 だから、わたしはこの人に目で訴えた。

 貴方に買ってほしい、お願い助けて……と。


 目があったのはほんの1、2分いえ実際にはもっと短い時間だったかも。

 わたしの思い違いかも知れないけど心が通じ合った気がした。

 わたしが売られる奴隷市場でご主人さまを見つけたときの喜びは一生忘れないと思う。


 そこからは、わたしにとっては夢のようなお話。

 美味しい温かい食事がおなかいっぱい食べられて

 柔らかいベッドやふかふかの布団で眠られて

 新しいきれいな服が着れる。


 そしてなによりご主人さまがやさしい。

 今までこんなにやさしくしてくれる人はいなかった。

 裕福だった家庭のお嬢様なんてうそ、アーリシアでも貧乏のほうだと思う。


 父が貿易商なんてこれもうそ、母はわたしを産んですぐ亡くなったって聞いた。

 母の死はわたしのせいだと父は酔うといつも暴力をふるった。


 ご主人さまに本当のこといったら捨てられると思った。

 だってわたしは文字も数字も読めないバカだもん。


 でも今はご主人さまにうそをついたことをすごく後悔してる。

 バレたらご主人さまに嫌われると思ってるからではないの。


 そんなことで嫌いになるような人ではないのご主人さまは。

 うそをついたことでご主人さまに悲しい思いをさせるのが心苦しい。


 ご主人さまとの初日はショックなことがあった。

 ご主人さまに臭いっていわれてしまった……


 女の子としては最悪だよね、やばくない?

 まじでありえないほど臭かったし……


 好きな人に臭いと思われたなんて恥ずかしすぎる。

 あー、でも今は臭くないからね。


 ぼでーしゃんぷーていういい匂いのする泡で洗ってるもん。

 ご主人さまもたまに何気なく、くんくん嗅いでるしー。

 バレてるしー。


 てゆうか、堂々と好きなところくんくんすればいいのにー。

 恥ずかしがりやのご主人さま。そこがかわいいんだけど。


 わたしはご主人さまのものだから好きにしていいのに。

 むしろわたしはもっとご主人さまにいろいろしてほしいよー。


 ゆうとさまっていうと照れるからわざといってまーす。

 今の目標はもっといい女になってご主人さまに抱いてもらうこと。


 今日食べた肉美味しかったなー。

 明日はご主人さまのおうちか……


 シャルとマリーっていうおねーさんたちやさしくしてくれるかな?

 ちょっと心配。


 ご主人さまにもっとくっついて寝よっと。

 今晩こそ逃がさないんだから。


 夜中に廊下でだれかとクライドが争う音で目が覚める。

 ご主人さまがクライドはすごく強いからどんなやつでも負けないって。


 ……でも、正直ちょっと怖いな。

 ご主人さまも顔色悪いしだいじょうぶかなあ……


 そのときドアが開いて知らない男たちが入ってきた。


「え……クライドは……?」


 ご主人さまもクライドが負けるなんて思ってなかったみたい。


 いきなり、大きな男がご主人さまを刀で斬りつける!

 大量の血が派手に飛び散る。

 わたしにもご主人さまの血がかかった。


「きゃあああっ! 」


 ……うそでしょ……なんでこんなことに……

 わたしの夢のような幸せの日々はわずか3日で終わろうとしていた。


「こいつ、金どこに隠してやがんだ? くそっ……」


「おい、金はもういい。国境警備隊が来る前にずらかるぜ、早く女を連れてけ! 」


 ご主人さまが動かないし体が冷たい……

 わたしは男たちに無理やり連れていかれる。


「……ゆうとさま――いやあああっ! 」


 夜盗たちは三人いた。

 わたしは手足を縛られ目隠しされコーヒー豆の匂いのする麻袋に入れられて運ばれた。


 麻袋の中で目隠しされていたからここがどこだかわからないけど

 話し声で酒場というのは間違いないと思う。

 部屋の隅っこに転がされている。


 物心ついたときにはママはいなかった。

 パパはおまえのせいでママは死んだと酔うといつも愚痴ってた。

 パパはわたしのことは嫌いだといったけどごはんは用意してくれた。


 でも借金取りから逃げるために家をでた。

 家も売られたから、わたしも売られると思って逃げた。

 髪をしばって顔黒くし男の子のフリをして、いろんなところで働いていた。


 お腹が減ってパンを盗んで捕まって奴隷として売られた。

 誰からも愛されなかった、楽しい思い出はなにもない。


 わたしって、生まれこないほうがよかったのかな……

 死んでも悲しむ人がだれもいないなんて……

 それでも生きていたい。

 ご主人さまが助けてくださった命は大切にしたいから。


 男たちが帰ってきた。

 男のひとりがわたしのおしりをいやらしい手つきでさわる。


「リーダー、もう俺我慢できねえ、こいつやっちゃいましょうよ」


「アホかおまえは、そいつら処女じゃなかったら商品価値がねえんだよ」


「そっか、野蛮な現地人だもんな」


「それに今回はあの王都の成金ブタ貴族に売るからよ、いい金になるぜ」


「あのイかれた野郎に売るんだ? かわいそうに……」


「そんなにイかれた野郎なのか?」


「鬼畜なドS野郎さ、ヤりながら首絞めるらしーぜ」


「今回は前からやりたがってたシカンをしたいらしいぜ」


「マジでやべーやつじゃん……さすがにひくわ……」


「そのシカンてのはなんなんだ?」


「おまえはそんなことも知らねーのかよ、シカンってのは殺したあとでヤるんだよ」


 殺す? 話を聞いてたわたしの頭の中は真っ白になる。


「本気でイかれてやがる、サイコーだぜ」


「……いやーーっ」


「おい、この女に聞かれてんじゃねえか……」


「うるせーからだまらせとけ!」


「恨むならブタ貴族を恨むんだな」


 わたしはお腹を殴られて気が遠くなる……

 気がついたときわたしは奥の部屋にいた。


 絶望感に襲われていた。

 死にたくないよー、わたしなにか悪いことした?


 死ぬのいやあああっ!

 だれか助けて―――――――


 そのとき、わたしの震える体にだれかが触れる。


「……お願い、殺さないで……」


 やさしく抱きしめられ、目隠しと耳栓をはずされる。


「……えっ? ゆうとさま……どうして?」


 死んだはずのゆうとさまが目の前に? ここ天国なの……

 でも大好きなゆうとさまのやさしい声だ。


「ミーナ、遅くなってごめんな……助けにきたぞ」


「……ゆーと、ゆーとゆーとぉー……」


 名前をなんども呼びながらわたしはゆーとさまの胸に飛び込みいつまでも泣いた。


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