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双星の光継者  作者: 明谷有記
第2章 サーチスワード編
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第30話 移送

 忙しかった年度末からいろいろなことがありましたが、どうにか乗り越えられたので更新を再開します。

 残り7話の予定でしたが、推敲中に文章量が増えたので1話追加になりました。

 ルミナスが来た翌日、アルファはようやく熱が下がった。まだ施療室の寝台の上にいるが、体は大分楽になり一安心していると、そこにあの小柄な若い看守がやって来た。

「三七三。またお前に面会だぞ。今度はフロリド商会の会長だ」

 エドガーだ。

 何をしに来たというのか。アルファがこんなことになった原因は、一番は真犯人である灰色ローブ男のせいであるが、エドガーが嘘の証言をしたこともかなり大きい。

 アルファを捕縛した騎士団員たちはそれでなくてもアルファを犯人にしたがっていた。そこに、大商会の会長で社会的な地位を持つエドガーの言葉は、アルファの逮捕を強力に後押しする形になった。

 逆に、エドガーが本当のことを話してくれていたのなら。その証言も団員たちに信頼を以って受け取られただろう。そうならば、おそらくアルファは騎士団本部に連行されることも、ネカルに侮辱されることも、拷問を受けることも、投獄されることもなかっただろう。エクルを泣かせることも……

 エドガーへの怒りで、アルファは看守に何も答えられなかった。

「……会いたくないのか?」

と看守。アルファは首肯した。

「向こうはどうしてもお前と面会したいみたいだぞ。三日連続でここに通ってるし」

「三日? 初めて聞いたぞ」

「お前が熱で倒れてたからこっちで断ってたんだ。ルミナス様は特別に通したけど」

 エドガーはどういうつもりなのか……本当は顔も見たくないくらいだったが、アルファは仕方なく会うことにした。もしもまだソフィアとの仲を誤解されたままなら、解いたほうがいいだろうし。

 

 

「すまなかった……!!」

 アルファが面会室に行くなり、エドガーはアルファに即謝罪してきた。

「私がどうかしていた――本当に申し訳ない……!!」

 思い掛けず先制され、アルファは怒りをがれてしまった。恨み言の一つも言ってやろうと思っていたのだが……深々と頭を下げて真摯に詫びるエドガーの姿を見てしまうと、何も責めることができなかった。

「牢に入れられるべきは、偽証した私だ……証言を撤回しに騎士団に掛け合い、話を聞いてもらったが……もう遅いと言われて……すまない……」

 どういうことだろう。エドガーが本当のことを話しても騎士団が取り合ってくれなかったとは……

 誤認逮捕の非を認めないつもりか。アルファは騎士団への怒りと失望を覚え――そして、寒気さえ感じた。騎士団ではなく、騎士団の上にいる存在を思い起こしたのだ。

 アルファを偽光継者とそしる、サーチスワード領主ネカルを。

 もしアルファの拘束にあのネカルの意志が働いているとすれば、おそらくそう簡単には釈放してもらえない。

 だが、アルファはその恐ろしい思案をとりあえず振り払い、鉄格子の向こう側にいるエドガーにやっと声を掛けた。

「……エドガーさん……顔を上げて、座ってください」

 エドガーは下げていた頭をゆっくりと上げ、面会室に備えられている椅子に腰掛けた。中太りのエドガーの顔は何だかげっそりし、ひどく疲れていた。

「……ベラから聞いた。ソフィアが一方的に君に好意を抱いているのだと……それに、間抜けな話だが……商会の部下たちも皆、ソフィアの片恋に気づいていて……知らなかったのは父親である私だけだった……」

 ……だとすると、同じく気がついていなかったアルファも間抜けだという話になってしまうのだが。

「君がどんなに我々に良くしてくれたか……それなのに私は……。あれ以来、ソフィアは私とは一言も口を利かんよ。本当に君のことを好きらしい。……家の都合上、商人か貴族の婿をもらいたいと考えてはいたが……いや、君はうちの娘にはもったいないくらいの男だと思う。今さら娘の気持ちに応えてやってほしいとは言えないが、せめて謝らせてくれ……」

 そしてエドガーは、引き続き騎士団にアルファの無実を訴えると言って帰って行った。 エドガーの帰り際、アルファは彼に一つ頼み事をした。自分が受け取るはずだった報酬を、ルートホール家にいるエクルに届けてほしいと。

 借金が増えたことはルミナスが来た時に聞いたが、半分でも充当して、エクルに対する夫人からの風当たりが少しは弱まってくれればいいと思ったのだ。

「……なぁ三七三、本当に犯人じゃないのか?」

 エドガーとの面会の後、付き添っていた看守が訊いてきた。

「しつこいな、あんた。ずっとそう言ってるだろ。あと三七三じゃなくて『アルファ』だ」

 アルファが言うと看守は、

「番号で呼ぶのは規則だから仕方ない。それに俺だって年下の囚人から『あんた』呼ばわりされたかないぞ。『看守さん』か『ディックさん』と呼べ」

と反論してきた。

「んじゃ、『ディック』で」

「ぬおっ?」

「オレは不当な扱いされてるんだぞ。これで素直に従えってのが無理な話だろ」

「ぬぬ……さすがあのルミナス様を呼び捨てにするだけのことはあるな……」

 アルファはディックから変な風に感心された。

 

 

 その後、エドガーと入れ違いでソフィアが面会に訪れたが、アルファは会うことを拒んだ。

 どうせ、ソフィアの想いに応えてやることはできない。下手に顔を合わせたりしないほうがいいのではないかと思ったのだ。

 ただ一言、『エドガーさんと仲直りしてほしい』とディックに伝言を頼んだ。

 ディックはアルファに、『会ってやればいいのに可哀想』とか『何でお前の周りは美人ばっかなんだ』とか文句を言い、挙句の果てには『俺なんかイナイ歴二十三年なんだぞー! 世の中不公平だチクショー!!」とか全く意味不明なことを喚きだしたので無視した。

 

 

 体調がすっかり回復した後、アルファは施療室から牢に移された。それは最初に入れられた狭過ぎる牢ではなく、もう少し広さがあり、固くて粗末ながら寝台も備えられていた。

 だが、体が元気になると、閉じ込められているのはなおさら苦痛だ。一日三回与えられる食事は、量が少なく薄味で、囚われの苦痛を紛らわすほどの楽しみとはならない。

 初日から気が変になりそうだったが、狭い空間の中で食べて寝るだけの生活が一日経過していくごとに、どんどん鬱憤が溜まっていった。

 時々見回りに来る看守ディックに、無駄とわかっていつつアルファはつい言ってしまう。

「出してくれ」

 そしてディックから返って来る答えはいつも同じ。

「俺にそんな権限ない」

 ……本当に不毛な会話だ。

 罪人収容所は高い塀で囲まれ、その中に三つの施設がある。容疑者が裁判を待つ待機所、有罪の確定した囚人が刑に服す受刑所、未成年者が教育を受ける更生所。

 本来、裁判に掛けられて無罪になればそれで放免、有罪になり刑罰が確定したら、未成年であるアルファの場合は更生所に移される予定だったらしいが、アルファはいつ裁判が受けられるかさえわからない。

 裁判権を持つネカルが、裁判を行う気がないらしい。そのくせ、釈放するつもりもないらしく、騎士団長宅強盗事件は放置されてしまっているのだそうだ。

 ディックが言うには、騎士団内でも収容所内でも、これまでの調査結果からアルファはほぼ無実であろうという見解で一致しているらしい。

 だが、アルファの危惧した通りの状況に陥ってしまっている。つまり、サーチスワードにおける最高権力者ネカルの一存で、アルファはここに縛られ続けているのだ。

 ……教えてもらってなんだが、ディックは看守としての立場上、それをアルファに話してはいけなかったと思う。陽気で悪い奴ではないが、あまり賢いとは言えないだろう。

 そんなことを聞いたら、アルファはますます反発して外に出たくなるに決まっている。だがディックは自分から余計な話をしておいて、次には脅してきた。

「三七三、出せ出せ言うけど、脱獄しようとか考えるなよ? ここの守りはそんなに甘くないからな。万が一施設からは逃げられたとしても、名前と人相書きの入った手配書がバラ撒かれるぞ」

 ……そんな方面で有名になるのは御免だ。光継者なのに。

「それに、この町から出ようとしたら市壁の門番たちに確実に捕まる。魔法封じの首輪は囚人の証だ。鍵がなきゃ外せないし、首を何かで覆ってる奴は、門を通してもらえずに必ず調べられるから」

 それを聞くとなおさら首輪が邪魔に思えたが、とにかくここを出る時は、無実と認定され首輪も外され、堂々と出て行かなければならないようだ。

 アルファはただ、ルミナスやエドガーが力になってくれるのを待つしかない……

 だが、このままでは体がなまってしまう。

 ――アルファは元気になった後、一度だけ試しに霊力を高めてみたことがある。首輪を付けられていても、霊力を練り上げることは可能だった。

 この首輪に込められた魔法封じの法術というのは、首輪を付けられた者の霊力が自然界の力等と連結するのを妨げることによって魔法を使えなくするものであり、霊力を高めること自体を阻むことはできないらしい。つまり、自分の霊力だけを用い、他の力と連結させる必要のない霊技は、首輪を付けられていても使えるようなのだ。

 ところが、アルファの霊力を感じ取った収容所の所長以下数人の看守が血相を変えてすっ飛んできた。その時アルファが高めた霊力は三割くらいだったのだが、一般的な基準からするとずっと強力であるため驚かせてしまったらしい。そしてアルファは所長からこう言われた。

『今度霊力を高めたら、問答無用で攻撃魔法をお見舞いさせていただくことになります』

 アルファがルミナスの友人らしいとわかって以降、所長の態度はいくらか軟化したが、丁寧な言葉を使おうとそれは脅迫以外の何物でもなかった。例えアルファが無実でも、囚人の立場にいるからには、看守たちや他の囚人たちをおびやかすような行為は許されないという。

 そして、アルファの首輪に込められた魔法封じの法術も強化されてしまった。アルファは魔法を使えないから無駄なのだが、念のためとのことだ。

 ちなみに、収容所には時折、首輪に魔法封じの法術を込めるのを仕事にしている法術士が巡回に来る。魔法を込めた稀封金属を対象に身につけさせると、対象にただ魔法を掛けるより強力に、かつ長時間効果を持続できるが、それでも一定時間を過ぎれば術の効力は切れてしまう。だから収容所では定期的に、魔法封じの法術を首輪に込め直す必要があるのだ。

 ただし、首輪に術の補充を受ける囚人は、全体から見てほんの一部に過ぎないらしい。囚人も世間一般での比率同様、明らかに霊力を使えない者が大多数のためだ。

 それから、おしゃべりなディックが言うには、魔法封じの法術を施されても、術を施された者の霊力が、術者の霊力を大きく上回る場合には、魔法が使えてしまうそうだ。ディック自身は魔法も使えなければ霊力も感知できないそうで、それは法術士から聞いた話とのことだが、確かに理屈はそうなるだろう。

 とすれば、アルファの首輪に魔法封じの法術を補充する意味はますますない。アルファの霊力は法術士のそれよりはるかに大きいのだから。

 ――それはともかくとして。

 ここでは霊力を高めることも許されないし、牢から出る頃、運動不足で魔族と戦えない体になっていたらシャレにならないのだが……

 そんなことを考えてアルファがへこんでいると、ディックは取り繕うように明るく言った。

「でも三七三、ある意味良かったかもしれないぞ。もし裁判やって有罪になったら労役があるからな。町の外の石切り場とか、かなりの重労働って聞くし――あ、どっちにしてもお前は未成年だからないか……」

 重労働――

 それだ!

 牢の中で何もしないでいるよりは、きつくても体を動かし、体力を維持できるほうがずっといい。

 アルファはディックを通じて所長に、成人の受刑者たちと一緒に働かせてほしいと頼んだ。

 

 

 二日後、特別に許可が下り、アルファはディックに付き添われ、待機所から隣の受刑所へと移動した。

 ちょうど夕食時だったため、食堂に連れて行かれた。広い食堂には長方形のテーブルがずらりと二十ほど並び、各テーブルに煤色の囚人服を着た男たちが十人くらいずつ着いて食事をしている。部屋の隅のほうには看守たちが何人か立っており、囚人たちを見張っている。

 およそ二百人の囚人に、アルファは少し緊張した。

 怖さは全くないが……何と言ったら良いのだろうか。咎人たちがかもす空気にあてられたと言うか……

 魂と肉体とから成る人間は、魂のりようが肉体の行動に反映され、また肉体の行動が魂に影響を及ぼす――つまり、悪しき魂を持つ者は罪を犯し、罪を犯すとその者の魂はさらに穢れると言われる。

 魂は霊力に映る。アルファがこの場を不快に感じるのは、霊力に敏感なせいかもしれない。囚人たちは霊力を高めているわけではないし、本来はほとんど感じないはずなのだが、これだけの人数が集まれば密度も濃くなるのだろうか。

 それとは別に、男ばかりが集まっているから単にむさ苦しいというのもある。女の犯罪者たちは、こことは別の敷地にある収容所に入れられるらしい。

 とにかくアルファはあまりここの雰囲気が好きではないが……囚人たちを見ると、実に様々だった。

 若者から老人まで、いかにも凶悪な顔つきの奴もいれば、逆に、こんな所にいるのは何かの間違いではないかと思うほど人の良さそうな顔をした男もいる。筋肉隆々のがいると思えば、ヒョロヒョロで青白い顔の奴もいる。黙々と食事を口に運ぶのがいれば、隣同士で不愉快そうに悪口を言い合っている連中もいるし、やけに楽しそうに話をしている奴らもいた。

「三七三、こっちだ」

 アルファはディックに案内されて、食堂の前のほうで夕食のパンとスープをもらい、それを乗せた盆を持って、ニ十あるテーブルの中の一つに連れて行かれた。

 そこには、やはりいろんな顔形の囚人たちが座っていた。

「お前は今日からこの三班に所属することになる。食事や労役なんかの行動は全部彼らと一緒だ」

 ディックはアルファにそう説明すると、今度は三班の囚人たちにアルファのことを頼む。

「予め話は聞いていると思うが、新しい仲間だ。仲良くしてやってくれ」

「おお、こいつか。よろしくなーボウズ」

「チッ、めんどくせぇ……」

「なんだガキじゃねぇか」

 反応も各人様々。友好的な奴もいれば、迷惑そうな表情をする奴もいるし、全く関心を示さない奴もいる。

 気にしても仕方ない。ここは囚人の集まりだ。希望通り石切り場で働ければ、居心地の悪さは我慢しよう。狭い牢に閉じ込められたままよりは断然いいのだ。

「よろしく」

 アルファは一言だけ挨拶して席に着いた。

 と。

「なぁお前」

 隣の席の囚人が声を掛けてきた。黒髪を短く刈り込んだ青年だ。アルファは例外として、受刑所にいるということは成人に違いないが、ちょうど未成年との境界を越えたばかりの年齢――つまりは十八、九歳と見える。アルファとそれほど歳が変わらないだろう。

「騎士団長の屋敷で強盗やったんだって? なかなかやるじゃんか」

 アルファはムッとして答えた。

「オレは何もしてない」

 彼はそれを聞き流し、

「もったいねぇ~。その顔だったら、金持ちのお嬢様でも捕まえて貢いでもらったほうが楽だろーに。何でわざわざ強盗なんかするかね」

と、しょうもないこと言ってくる。アルファは腹が立ち、

「だから無実だって」

と訴えるだけに止まらず、つい訊いてしまった。

「そう言うあんたは何したんだよ?」

「ヘッ、てめぇが無実なら俺だって無実だね」

と彼は取り合わなかったが、その正面に座っている囚人が口を開く。

「喧嘩で相手の骨何本も折ったんだよねぇ。ま、騎士団長宅で強盗するのに比べたら、可愛いものだね」

 二十代半ばくらいの、眼鏡を掛けた銀髪の青年だ。

「うるせーよ連続放火魔! 俺のは確かにてめぇの犯行ほど悪質じゃねぇけどな!」

 黒髪の青年が悪態をつけば、眼鏡の青年は薄気味悪い笑みを浮かべる。

「失敬な。ボクは君と違って、誰一人傷つけていないよ? 狙ったのも空き家ばかり。ただ、美しい炎を眺めていたかった――君のように短絡的な罪を犯す者には、ボクの芸術は理解できないね……」

「メガネてめぇ、相変わらず頭オカシイな……」

「まぁまぁ、その辺にしとけよ。みんな仲良くやろーや」

と二人をなだめたのは、肥満気味で白髪交じりの初老の男。班で最初にアルファに声を掛けてきた囚人だ。

「こんなのと仲良くなんかできるか! てかオッサン、一番年上だからってうぜぇんだよ。 騎士団の資金横領してクビで牢屋行きだろ? 偉そうにすんな!」

「そ、それは……」

「確かになぁ。誇り高きサーチスワード騎士団の名が泣くわー」

「けど、こいつみたいに食い逃げの常習犯とかも笑えるよな」

「そ、そっちだって空き巣で今回三回目の服役――」

「うるさい黙れこの豚!!」

 三班の囚人たちが互いにけなし合う声に、アルファはうんざりし、腹が立って仕方なかった。彼らの会話を聞いているうちに、それぞれがどんな罪で捕まったのか大体わかったが、この中には殺人犯も含まれているし、口に出すのもおぞましい罪を犯した者もいた。

 こんな奴らと一緒にされなければならないのかと思うと――いや、ここに来るのを望んだのは自分なのだが、奴らと同類だと思われるのは気分が悪かった。

 最初黙ってパンをかじっていたアルファだが、次第に加熱する彼らの罵り合いに、ついに爆発――

「いい加減にしろ。全員夕食抜きにするぞ」

 ……アルファが爆発する前に、ディックが囚人たちに注意した。

 すると、それだけで囚人たちはとたんに静かになり、残りの食事を掻き込みだした。

 ここでは与えられたものしか食べられないし重労働も課せられるため、食事抜きとなると、少々大袈裟だが死活問題なのだろう。

 食い物の威力はすごい。そんな切り札があるなら、もっと早く止めに入ればいいのに。

 アルファはディックに目で苦情を言ったが、ディックのほうがアルファを恨めしそうに見てきた。

 ……実はディックは、アルファが受刑所に移るのと一緒に、受刑所担当に換えられたのだ。アルファがどうやら無実でしかもルミナスと親しいので、他の看守たちはアルファを扱いにくく思っており、ディックにアルファを押し付けたということらしい。

 アルファとしては、他の看守が近くにいるよりディックのほうが気楽だから良かったのだが、ディックは少し気の毒である。

 待機所なら、基本的に牢の中にいる囚人を一人ずつ相手にすればいいだけだが、こちらでは、ある程度広い行動範囲を与えられた集団の囚人を監視しなければならないので、心労が増すらしい。

 でも。

「無実の罪で牢に入れられるよりマシだろ?」

 アルファが小声で言うと、ディックは情けない顔をした。

 

 

 

 囚人生活については、隊商の話以上にさらっと流します。

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