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双星の光継者  作者: 明谷有記
第2章 サーチスワード編
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第25話 理想の女性

 フロリド商会の隊商は帰路においても大きな危険に遭うことなく、出立からおよそ一ヵ月半を経て、無事サーチスワードの町に戻ってきた。

 市壁の門番たちに迎えられて町の中に入った時、アルファは本当に安堵した。長かったけれど、ようやく帰って来ることができた。

 騎士団から派遣されていた護衛たちはそのまま騎士団本部に帰って行ったが、アルファは馬車に乗ったまま、エドガーたちと共にフロリド商会の建物まで行った。

 皆で馬車の荷を商会の倉庫に納め終わると、アルファは応接室へと通された。これから報酬を渡すので、ここで待っていてほしいとのことだ。

 エドガーはアルファの活躍に応じて、四万八千リルもくれると言う。ルートホール夫人のドレスは五万リルだが、エクルから預かった財布の中のニ千リルは、手をつけないで残してある。合わせれば借金を完済できる。エクルがこの間にメイドとして働いた報酬がいくらかはわからないが、その分は丸ごと今後の旅の資金に回せるだろう。

 これでやっと、エクルを迎えに行ける。

 アルファが期待に胸を膨らませてエドガーを待っていると、時報の鐘の音が響いてきた。

 リィーン……リィーン……リィーン……

 と三回。ちょうどその時、応接室にソフィアとベラが入ってきた。

「アルファさん、お茶をどうぞ」

 ベラが持っている盆には、紅茶のカップとクッキーの入った器が乗せられている。小腹がすいていたところだからありがたい。

 貴族たちには、午後三時頃に茶と菓子で優雅に休憩する習慣がある。とアルファは聞いたことがあった気がする。だが何故か紅茶が二人分しかないのを不思議に思っていたら、ベラはその二人分の紅茶とクッキーを出して、退室してしまった。去り際、ソフィアに小声で「お嬢様、頑張ってください」と言ったようにも聴こえたが、一体何を頑張るのだろう。

 ソフィアは何故か緊張した面持ちで、テーブルを挟んでアルファの向かい側のソファーに腰掛けた。

「あの……アルファさん……護衛のお仕事は、これで終わりですね……」

「そうですね」

 ソフィアの言葉に、アルファは紅茶を飲みながら頷く。

「でも、その……良かったら……」

 ソフィアは顔を赤くし、上目遣いにアルファを見ながら言う。

「こ、これからも時々、会っていただけませんか……?」

「え?」

 思わぬことを言われ、アルファはクッキーに伸ばした手を止めた。

「いえ、残念ですけど……オレはこれから旅を再開するので」

「えっ!? もうこの町にいらっしゃらないんですか……!?」

 非常に驚いた様子のソフィア。

「はい……戻って来る予定はあるけど、当分先かな……」

 エクルが霊輝光を使えるようになったら、命暘の剣を取りに来る。それがいつのことかは、全くわからない。

「そ、そんな……」

 ソフィアはがっかりしたように俯いたかと思うと、急に顔を上げた。

「アルファさん……! わ、わたし」

 先ほどよりもさらに顔を赤くしている。

「わたし、アルファさんが……」

 ソフィアは何か言い掛け――

「……っ」

 だが言葉を詰まらせ、目を潤ませ、手元の紅茶をあおった。

「……ソフィアさん?」

 どうしたのだろう。明らかに様子がおかしい。

「あ、いえ……大丈夫……です」

 紅茶を飲み干して少し落ち着いたらしい彼女は、アルファに変わった質問をしてきた。

「あの、アルファさんは、その……どんな女性がお好みですか……?」

「え? 好み?」

「えっと、その、つまり……こ、恋人にするなら、どんな女性が理想ですか……?」

 恋人――?

 故郷ではあまり馴染みのない単語で、アルファにはその概念がいまいちわからない。

 故郷ソーラの村では、九割九分は親の決めた相手と結婚するのであり、異性として見ることを許されるのは生涯でただ一人、その相手だけだ。

 『恋人』が恋する相手を示す言葉なら、それはすなわち配偶者あるいは婚約者に当たるだろうか。

 つまりソフィアはアルファに、妻にするならどんな女性がいいか、と尋ねているのか……?

 ――多くのソーラレア族と同じく、アルファもいつか両親の選んだ相手と結婚することになるだろう。自分の理想を、アルファは考えたことがない。と言うか、考えないようにしてきた。もし両親の選んでくれた相手が、自分の思い描いた理想と違っていたら。自分も落胆するだろうし、相手にも失礼なことだろう。

 そんなことを訊いてソフィアはどうするのだろうかと思いつつ、アルファは何となく答えた。

「うーん……優しくてよく気が利いて、どっちかって言ったら美人のほうがいいな……そこそこ頭も良くて、料理が上手くて……」

 あれこれ言っているうちに、どういうわけかソフィアの表情が固くなってきた。もしかしてソフィアはアルファのことを――贅沢な奴だと軽蔑しているのかもしれない。

「でも、これだけは譲れないって条件を一つ挙げるとしたら――」

「そ、それは?」

 ソフィアが何故か息を呑む。

「『オレの両親を大事にしてくれる人』」

 アルファの答えに、ソフィアはきょとんとした顔を見せた。

「え……それが一番……ですか?」

「そりゃ、欲を言ったらキリがないですけど。それさえ守ってくれたら、たぶん他のことには目をつぶれるかなと」

 逆に言えば、両親をないがしろにするような女では、どんなに優れていようが受け入れられない。

 すると。

「わかりました」

 ソフィアは突然立ち上がった。頬を染め、決意に満ちた表情で言う。

「わたし、誠心誠意、アルファさんのご両親にお仕えします……! お料理はしたことがありませんが、これから頑張りますから……!」

 ……え? …………えぇっ!?

 さすがのアルファも、ここでようやく気がついた。ソフィアが自分に好意を抱いていることに。

 正確には、好意を寄せられていること自体には気づいていたのだが、その好意の種類が、アルファが思っていたものよりも上だったのだ。

 頬を赤くしたまま、想いを込めるように見つめてくるソフィア。そんな目で見られても困る。いや可愛いけど――

「ちょっと待って、そんなこと言われても……!」

 アルファは焦った。何だか顔が熱い。頭が混乱する。

 落ち着け。思い出せ。こういう時どうすればいいか、親や学校が教えてくれたことは――ええと確か――

 ない。

 あるはずがない。結婚は親が決めるものなのだから。

 互いの親が認めれば、もちろん結婚もあるだろう。だが、二人ともまだ法的に結婚できる年齢に達していないし、アルファはこれでも光継者としての旅の途中だ。魔族と戦っていかなければならないのに、結婚どころでは――

 そこへ。

「許さん……! 私は断じて許さんぞ!!」

 エドガーが扉を破るような勢いで応接室に飛び込んできた。

「お父様!?」

 エドガーは激昂し、ソフィアを怒鳴りつける。

「ソフィア! お前は私の後を継ぐために頑張っていたんじゃないのか!? いや、実際継げとは言わんが、私に無断でそんな約束を――!!」

「お父様! 愛には全てを越えさせる力があるのです! お許しください……!!」

 勝手に盛り上がりだしたエドガーとソフィアに、当事者であるはずのアルファはついていけない。

 ……何なんだ、この置いてけぼり感は。

 が、エドガーの怒りの矛先は、当然アルファにも向かってきた。

「見損なったぞアルファ君! やけにソフィアの肩を持つと思ったら、たぶらかしていたとは……!」

「た……!? 待ってください、それは誤解――」

「言い訳は聞きたくない! 出て行ってくれ!!」

 

 

 アルファは報酬をもらえないまま、逃げるようにフロリド商会を後にした。サーチスワードの町を力なく歩いている。

 今のエドガーでは何を言っても聞く耳持ちそうにないから、彼が落ち着くまで姿を消すことにしたのだ。

 時間を置いて、また掛け合いに行く。誤解は解けるはずだ。エドガーが理解してくれてもソフィアと顔を合わせるのは気まずいのだが、報酬はどうしても受け取らなければならない。

 しかし、あれだけアルファに友好的だったエドガーが……愛娘のこととなると、冷静さを欠いてしまうらしい。

 いつか自分も娘を持ったらそうなってしまうのだろうか。そんなことをぼんやりアルファは考え、そして迷った。これから何をして時間を潰したらいいのか。

 せっかく戻って来たから少しでも早くエクルの顔を見たいが、金も持たずに行けばルートホール夫人の機嫌を損ねてしまう可能性もあるし、格好がつかな過ぎる。

 ……どーすっかな……

 道行く人々の波に呑まれながらとぼとぼとノター通りを歩いていると、アルファの横を何かが通り過ぎた。人ごみを縫うようにすり抜けていく――灰色の布。いや、頭まで覆う灰色のローブを纏って走る何者かだ。

 あれは――!!

 アルファは我が目を疑い、一瞬呆然とした。あれは、アルファの財布を盗んだ奴だ。あのローブ、取り立てて特徴的と言うわけでもないがあの走り方、間違いない。

 アルファがこんな目に遭ったのも、元はと言えばあいつのせいだ。

 あのヤロー……!!

 アルファは爆発しそうな怒りを抑え、人ごみの向こうに消えつつある灰色ローブを追った。

 

 泥棒野郎はひたすら走り続けて路地に入った。次第に人通りの少ない辺りにやってくると、奴はさすがに追跡者の存在に気づいた。

「何……!?」

 アルファはもう、泥棒野郎のすぐ後ろまで迫っている。

「今度こそ捕まえてやる!!」

「ちっ」

 泥棒は懐に右手を入れたが――

「そうはいくかっ!!」

 アルファは手を伸ばした。背後から泥棒野郎の首に左腕を回して締め上げ、右の手で泥棒の右腕を取る。泥棒男の灰色ローブの下から、同色の布袋がごとりと音を立てて落ち、右手からは小さな石が落っこちた。

 布袋は男が左腕で抱えていたらしい。何が入っているかわからないが、それほど大きくもないのに重そうだ。縛り口が緩く、覗けば見えそうだが、アルファは中身不明の布袋より、石のほうに関心が向いた。大きさは胡桃くるみ程度しかなく、少し白みがかっているが、この正八面体の結晶は稀封石だろう。おそらく、これには目(くら)ましの霧を生じる魔法が入っている。泥棒男は以前アルファの財布を盗んだ時にも、これと同じものを使ったのだろう。

「同じ手に引っ掛かるかよ。オレの顔は覚えてるか? 盗ったものを返――」

 アルファは糾弾の台詞を途中で切った。

 灰色ローブの前面に、赤いものが飛び散っているのが見えたのだ。

 血――!?

「おい、お前――」

 アルファは甘かった。動揺から無意識のうちに、奴を締め上げていた腕を緩めてしまったのだ。その隙を逃さず、奴はアルファの腕を抜け出し、アルファの鳩尾みぞおちこぶしをぶち込んできた。

 奴は拳に金属をめていたらしい。アルファは咄嗟に後ろに引いて衝撃を軽減させはしたものの、痛みに腹を押さえた。視線だけは奴から離さなかったが、

「いたか!?」

「よく探せ……!!」

遠くから声が聴こえてきた。何かに焦った数人の声にアルファは注意を逸らされ――その刹那、頭にばさりと何かが降ってきた。

「な――!?」

 慌てて払いのけて見ると、それは灰色の布だった。あの男のローブだ。

 ハッとして前を向いた時には、もう誰もいなかった。急いで周りを見渡しても、狭い路地に家々が並んでいるだけだ。

「クソ……!」

 また逃げられた。

 なんて素早い奴だ。怪我をしているのかと思ったが――

 ん?

 ふと見ると、泥棒野郎が落とした灰色の布袋の口から、いろいろ物がこぼれていた。そう言えばローブを被せられた時、何かを蹴ったような音が聴こえた気がするが、奴が逃げた際に袋に躓いたせいかもしれない。

 アルファは屈み、袋から出て来たものを確かめる。金で作られた馬の置物や、宝石の象嵌ぞうがんされた短剣……ずいぶん値の張りそうなものばかりだ。

 まさか、あいつ、また盗みを働いたところだったのか……?

 アルファが呆れ返っていると、複数の足音が迫ってきた。

 アルファのいる狭い路地に、騎士団の制服を着た男たちが十人ほど殺到してきた。アルファは驚き、思わず立ち上がる。

「その灰色の布地は……!」

「見つけたぞ!!」

 騎士たちはアルファの足元に落ちているローブを見、何やら気炎を吐いている。

「もう逃げられんぞ!」

「神妙にお縄を頂戴しろ!!」

 …………は?

 訳がわからないまま、アルファはいきなり騎士の一人に何かの魔法を掛けられ、立ったまま固まってしまった。

「何だ妙な術掛けやがって……!」

 首から上は普通に動かせるが、下はほとんど自由が利かない。

「――まさか、犯人がこんな少年だったとはな」

 騎士団員が近づいてきて、動けないアルファの両手首を合わせ、金属の手枷てかせを嵌めた。

「強盗及び殺人未遂の容疑で逮捕する!!」

 衝撃の宣告に、アルファは己の耳を疑った。

「さっ、殺人……!?」

 まさかあの泥棒野郎、オレに見つかる前にそんなことを――!?

「ちょっと待て、オレじゃない!! 本当の犯人は――」

「とぼけるな!」

 騎士団員はアルファの訴えを一蹴し、犯人と決めてかかる。

「その袋の中の物品は、()()()騎士団長殿のお宅の倉庫から盗み出したもの! そして()()()斬りつけた、倉庫の番人の返り血が着いたこのローブ! どう言い逃れする!?」

 返り血――?

 そうか、あいつが怪我をしていたわけではなかったのだ。ローブを改めて見ると、ローブ自体には傷が全くないのと言い、血の飛び散り方と言い、確かに返り血なのだろう。

「ちょっとでも心配してやったオレがバカだった……」

 アルファはあの泥棒にその隙を衝かれ、逃げられてしまったのだ。

「何を訳のわからんことを……とにかく来い!」

「騎士団に連行する!」

 騎士団員たちはアルファの手枷に繋がった鎖を引っ張り、数人でアルファの体を乱暴に担ぎ上げ、運んでいく。

「ちょっと待てーーっ! オレは犯人じゃねぇーっ!!」

 必死に叫ぶが、体は動かせず、されるがままになるしかない。

「うるさい黙れ……! おっとそうだ、念のためこれも付けておかんとな」

 アルファはその団員から、首にも金属の輪っかを嵌められた。首面積の半分を覆うくらいの太さで、そこから何やら霊力を感じる。

「なっ、なんだこりゃー!?」

「魔法封じの首輪。稀封金属に、魔法を使えなくさせる法術が込められたものだ」

 稀封金属――稀封硝子の応用で、粉末状にした稀封石を液状の金属に混ぜて作られたもののことだ。

 この首輪は、魔法を使える犯罪者が、魔法でさらなる悪事を働くのを防ぐための道具らしい。魔法を使えないアルファにはたぶん無意味なものであろうが、手枷以上に屈辱的で、精神にはかなりの害を及ぼす。

「つーか外せ! 離せ!! オレはやってねぇ……!!」

 アルファは体は動かせなくとも、声だけは全力であらがった。

 

 

「あ、アルファさん……!? どうしたんですか……!?」

「……何をしているんだ君は?」

 アルファは騎士団員たちに取り囲まれ、手枷を付けられた情けない状態で、フロリド商会に戻った。玄関に出て来たソフィアとエドガーは当然、何もわからずに驚いている。

「この少年は強盗犯のはずなのですが、犯行を認めなくて」

「ごっ、強盗!?」

 騎士団員の言葉に、二人はぎょっとして同時に声を上げる。

「違います!!」

とアルファは即否定する。騎士団員の一人はやれやれと言った顔をしつつ、ソフィアたちに事情を説明する。

「事の成り行きは――まず、フード付きローブで顔を隠した人物が、今日午後三時頃、とある屋敷に潜入、倉庫から物品を強奪、倉庫番に重傷を負わせ逃走しました」

 被害を受けたのはサーチスワード騎士団の団長の屋敷らしいが、その辺は守秘義務だか何だかで、外部には教えられないらしい。

「我々は逃げた犯人を追っていて、ローブと盗まれた品々を持っていたこの少年を捕らえたわけですが、この少年の供述によると――およそ一ヵ月半前、そのローブの人物に財布を盗まれ、先ほど偶然その人物を見かけたため追いかけたと。町の外れで追い詰めたが、ちょっと油断した隙に逃げられ――その者がローブと盗品を少年に投げつけていったために、少年が犯人に間違われたということです。ソフィアさん、少年はあなたが無実を証明してくれるはずだと言っています」

 アルファはそこですかさず、騎士たちに訴える。

「そうだ、その犯行時刻は三時だろ。でもオレはその時間、彼女とここにいたんだ」

 あの時、時を告げる鐘は三度鳴り響いた。

 ソフィアがコクコクと頷く。

「そうです! 間違いありません。アルファさんはここでわたしとお茶を飲んでいました! 第一、アルファさんはそんなことをする方では――」

「いや、どうかな」

 エドガーの低い声が、アルファを弁護するソフィアの言葉を遮った。

「その時間、確か鐘が鳴ったと思うが……()()()()だった。それに彼は、その後少ししてここから出て行った」

「え!?」

「お父様!? 何を――!?」

 エドガーの思わぬ発言に、アルファとソフィアは驚愕した。

「と言うことは、少年がここにいたのは二時頃――となれば、三時にあの屋敷に行くことは充分可能」

 騎士団員はアルファに向かって高笑いする。

「墓穴を掘ったな! これでますます貴様の容疑が固まったぞ!」

「違うって言ってんだろ!! オレは絶対犯人じゃねぇ!!」

「さぁ行くぞ、話は後でたっぷり聞いてやるから」

「今聞けよ! だから違うって!!」

 騎士は手枷の鎖を引いて行こうとするが、既に動きを封じる法術が解けたアルファは踏ん張ってその場に止まる。

「お父様! 何とかおっしゃって――」

 ソフィアはエドガーの胸にすがるようにして助けを求めたが――エドガーの口からは、アルファにさらに不利になる証言が飛び出した。

「残念だ、非常に有能な少年だったのに……そう言えば、やけに金に執着していた。『どうしても金が必要だ』とか何とか……」

「エドガーさん!!」

 それは嘘ではないが、今ここでそんな話を出すなんて――悪意があるとしか思えない。

「強盗犯は貴様で確定だ!」

「おとなしく連行されろ! 行くぞ」

 アルファは再び体の自由を奪う魔法を掛けられ、団員たちに担がれた。まさに連れ去られるその時、エドガーは酷薄な笑みを浮かべ、アルファに言った。

「幸いだ。囚われの身ならば、これ以上うちの娘に近づけないだろうからな」

 ……はぁ……!?

 だからか。だからアルファをおとしいれるようなことを言ったというのか。

 エドガーはまだアルファのことを誤解しているらしい。だが、それにしたってあんまりだ。アルファが本当にソフィアを惑わしたのなら、そのことに対する制裁は何らかの形で受けるべきだろうが、それとこの強盗事件は全く関係ないのだ。

 そもそもアルファはやましいことは何もしていないし、今後もソフィアに近づく気はない――

「エドガーさん! オレは――」

 だが、騎士団員たちは待ったなしでアルファを商会の外に運び出していく。

「はっ、離せーーっ!!」

「アルファさん……アルファさーん……!!」

 アルファの喚き声に、ソフィアの泣き叫ぶ声が重なって響いた。

 

 

 




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