第13話 難題
――多くの子供たちがそうであるように、ルミナスもまた、幼少期には輝望の双星の絵本に親しみ、来るべきその光継者に憧憬を抱いた。
絶対的な強さを誇り、威厳に満ち溢れ、崇敬せずにはいられない――ルミナスはそんな光継者像を思い描いていた。
ところがだ。
自分の前に現れた光継者たちは、それとは掛け離れた姿だった。絶対的な力などというものは持たず、威厳があるどころか幼稚でさえあった。彼らを光継者だと信じることが難しかった。
しかし、発展途上のアルファの剣術が、不信に傾いていくルミナスの心に辛うじて歯止めを掛けていた。
アルファの剣の才能は本物だった。ルミナスが修練に付き合う中で、彼は日を追うごとに確実に上達していった。新しいものを次々に吸収し、自分のものとしていく――その成長速度は異常だった。
今はまだルミナスが上だ。だが、アルファがこのまま精励すれば――
いずれは、『剣神』を名乗るに遜色ない剣士になれる可能性が、充分にある。
だからルミナスは、自分が抱いていた光継者像など幻想に過ぎぬのだと、現実の光継者が必ずしもその幻想に即した姿である必要はないのだと、自分に言い聞かせ、アルファが光継者であることの審判を、アブレスの剣に委ねることにしたのだ。
そう、光継者の必要条件は、『聖なる光を操れる』こと。剣神ならば、『アブレスの剣を抜ける』こと。
だが、アルファたちはそのどちらの条件も満たせなかった。
アブレスの剣はアルファを受け入れなかった。そこから導かれる結論は、アルファは光継者ではない、ということになる。また、エクル一人だけを光継者と見なす道もない。
だがしかし、ルミナスはあの二人に騙されたなどという感覚もない。
あの二人も、ルミナスやネカルを騙したつもりはさらさらないだろう。少なくとも、あの二人は自分たちが光継者であると本気で思っていたし、そのように行動していた。それはこの数日二人を見ていて、ルミナスにはよくわかった。剣が抜けないことを誰よりも驚いたのはアルファ自身であり、その次がエクルだっただろう。
それに、ガフトンの町での赤い光や、彼らの親たちの証言、光の書……アルファとエクルが光継者ではないとするならば、それはそれで不自然であり、説明のつかないことが多々ある。
……が、やはりアブレスの剣は絶対的な指標なのだ。
もし、剣を抜けなかったアルファをそれでも光継者と認めるのなら、剣を否定することになる。
あの剣が存在するゆえ、サーチスワードは魔族に襲われ、父と母が死んだ。ルミナスは両親を奪ったアブレスの剣を憎みもしたが――尊くも思っている。両親が町と共に守ろうとした、大切なものだ。
その剣を無視することなど、どうあっても考えられない。
……あの二人に会って、どうすればいいのか。このままでは二人を追い出すしかないが――
考えが一向にまとまらないままルミナスが回廊を歩いていると、
「やぁ! ルミナスじゃないか!」
向かい側から歩いてきた一人の青年に声を掛けられた。
明るい茶色の髪と瞳。屈託のない笑顔。その青年は――
「帰ってきたのか~。いや、いつも父のせいで苦労させてすまないなぁ」
トーラス=カル=サーチスワード。ネカルの一人息子で、ルミナスにとっては従兄に当たる。ルミナスより五つ年上の二十三歳。ネカルよりは少し背が高く、顔も性格もあまり似ていない。
非常に陽気でルミナスにも好意的であるが、ルミナスは彼を、ある意味ネカルよりも苦手としている。
「この前の話、考えてくれたか?」
……来た。
「何のことでしょう?」
「とぼけるなって。お前もそろそろ年頃だし、結婚を考えろって言ったじゃないか」
「いえ、私はまだ……」
「何を言うんだ! すぐ所帯を持つわけじゃないにしても、婚約くらいはしておくべきだ。――で、噂じゃターニクス家の令嬢がな、お前と縁談が上がる日を夢見て、嫁に行かずに待ってるって話だぞ~。お前よりちょっと年上なんだが、どうだ?」
「どうと言われても……」
「あ~なるほど、年下のほうが好みか? じゃあ、ルートホール家の娘は? あそこはもう父親が亡くなってはいるが、なかなかの名家だぞ。それとも、フロリド家のほうがいいかな? 貴族としては下級だが、商人として大成している。いい後ろ盾になってくれるだろう。あ、それか――」
「興味ありませんから」
結婚なんて考えられない。少なくとも今は。まして貴族の娘たちのことなど、どうだっていい。
「いやいや、お前が良家と結ばれて力を増せば、『ルミナスを次の領主に』って声も大きくなるはずだ。そうでないと僕が困る」
トーラスは肩をすくめてみせた。
「僕は父上の後を継ぐなんてまっぴらごめんだ。政なんかより、気楽に竪琴を弾いていたいからね」
この税金泥棒が。
ルミナスは心の中で毒突いた。領民からの税収で生活しているにも関わらず、この男は領地のために何もせず、朝から晩まで歌と竪琴に没頭している。しかも、楽器の腕は可もなく不可もなくだが、歌のほうは、ぶん殴ってでも止めたくなるほどひどい。
「トーラス様。万に一つ、私が領主になるようなことがあったら――真っ先にあなたをここから追放します」
ルミナスは冗談めかして言ったが、実はかなり本気だ。けれどトーラスはへらへらと笑ってみせる。
「そりゃあいい! 僕は吟遊詩人になるのが夢だからね」
頭が痛い……これが自分の従兄とは……
「そうそう、僕の部屋に来てくれないか。新曲を披露するよ。いや~、自分で作っておいてなんだけど、あまりに出来が良くて――」
「いえ、私は忙しいのでまたの機会に」
ルミナスは逃げるように立ち去った。
――父アークトゥルスが死んだ時点で、ルミナスはわかっていた。よほどのことがない限り、領主の役が自分に回ってくることはないと。
が、トーラスのこの駄目っぷりは、その『よほどのこと』に当たってしまうかもしれない。
ネカルは何としてもトーラスを後釜に据えようとしているし、『どこの馬の骨とも知れない女』が産んだルミナスが領主になるなど、とんでもないことと思っているだろう。ルミナスとて、家や騎士団に波風を立てることは望まないが――父と母が守ったサーチスワードをあのトーラスに託すのは、あまりにも心許ない。
幼い頃のトーラスは真面目だったのだが、年齢を重ねるにつれていい加減になっていった。領主の重責を担いたくないあまり、わざと馬鹿を演じている可能性もあるが……微妙である。
――気を取り直して。
とにかくアルファとエクルの様子を見に行こう。二人をどうすべきかまだ答えは出ないけれども……立ち止まっていれば再びトーラスに捕まってしまいかねない。それを辟易するあまり、二人がどこにいるかもわからないのに足早に回廊を進む。
しかし、別の者がルミナスを追ってきた。ネカル付きの騎士だ。
「ネカル様よりお言付けです。これから騎士団の会議を開くので参席するようにと」
ルミナスには拒否権などない。ルミナスはサーチスワード邸の四階にある自室に寄り、素早く旅装束から騎士団の制服に着替えると、会議の場へと向かった。
あの二人のことは、とりあえず放っておくことになってしまった。
*
ここだけの話ですが、これは秘密ですが、と前置きしつつ、カーラはサーチスワード家の内情をとめどなく語った。
何でも、ネカルの息子トーラスは、人はいいが努力ということを知らず、武術につけ学問につけ平均以下で、ここ数年は音楽にのめり込んでおり、それも猿ぐつわを噛ませて地下牢にぶち込んでおきたくなるほどの音痴で、愛想を尽かした奥方がついに家出してしまった、らしい。
アルファがそれより驚いたのは、ルミナスの話だ。
実はルミナスは弟のレオニスにメロメロだとか、弟が帰省している時には上機嫌で鼻歌を歌っているとか。
のみならず、小さい頃のルミナスはものすごいお母さんっ子だったとか、熊のぬいぐるみが一緒じゃないと眠れなかったとか――
今のルミナスからは、とても想像できない。
「へぇ~、そうなんですか。ルミナスにそんな所が……」
エクルが微笑ましそうな顔をした。アルファもルミナスのことが少しわかって嬉しかったが……
思った。もし自分が将来金持ちになったりしても、使用人は置かないほうが良さそうだ。もし雇うなら、口の堅い人間に限る。
使用人同士では日頃そんな話ができないのかはわからないが、カーラはここぞとばかりに『秘密』を吐き出している。
「それとですね、レオニス様というのは、女の子にしたいくらい本当に可愛らしくて――」
今度はルミナスの弟の話らしいが、いつまでもカーラに付き合ってはいられない。
そうだ。抜けなかったアブレスの剣を、どうにかしないと。
「あの、『アブレスの剣』について何か知ってることってありませんか?」
話を遮り、アルファはカーラに訊いてみた。
「何かって……『剣神アブレスの光継者のみが鞘から剣を抜ける』って言われがあるくらいですねぇ。保管場所はネカル様と騎士団上層の一部の方しかご存知ないらしいし……」
カーラは答え――すぐさま手で自分の口を塞いだ。
「あわわっ。今の他言しないでくださいね! その剣の話って禁句なんですよ! この町に『アブレスの剣』は存在しないことになってるんです」
「え? でも、八年前に魔族が狙った宝って――アブレスの剣のことじゃなかったんですか?」
「そうなんですけどね……魔族たちはこの町にアブレスの剣があるらしいという噂を聞きつけて襲来し、剣を求めて町を荒らしたわけですが……結局剣は見つかりませんでした。騎士団は魔族たちを撃退した後、『噂は虚偽だった』という情報を流しました。うまくいって魔族側はそれを信じたらしく、おかげでそれ以来、一度も魔族の襲撃はありません。サーチスワード騎士団は強力ですから、魔族もそう簡単には手を出さないはずです。しかし例の剣がやはりこの町にあると知れれば――」
剣を奪いに襲ってくる、というわけか。
「ですからご内密に」
「はい」
いろいろ暴露してくれたカーラだが、あの剣のことは本当に口にしてはいけなかったらしい。
結局、アブレスの剣の謎を解く手掛かりはないか……
だが、カーラは思い出したようにもう一つ情報をくれた。
「そう言えば――例の剣、元々は大聖堂の中に安置されていたらしいですよ」
大聖堂――?
領主の館から北に少し、都会のただ中に小さな森がある。
いや、遠目には森だが、その正体は木々に囲まれた緑豊かな公園だ。公園にはいくつもの長椅子が置かれ、ブランコや砂場もあって子供の遊び場に良さそうだが、もう日が暮れる時間とあって人の姿は疎らだった。
その公園の一隅に、カーラの言っていた大聖堂が存在する。アルファはエクルと共にいったん館を抜け出し、そこを訪れていた。
大聖堂周辺にはアルファの背丈を越える鉄柵が張り巡らされており、『立入禁止』の立て札もあった。
アルファとエクルは柵の隙間から中の大聖堂を窺った。
「……元は立派だったんだろうなぁ……」
残念そうにエクルが呟く。
その建物は、ルミナスが見事だと褒めてくれたソーラの村の教会よりも五倍は大きいが――
おそらく正面扉があったのだろうと思われる箇所が、周りの石壁ごと破られていた。左上部の屋根と壁も大きく崩れ落ちている。その他の部分も、石壁の表面が抉れていたり、煤けた感じになってしまっている。
こうなったのは、八年前の魔族の襲撃のせいらしい。大聖堂の破壊の跡はかの戦いの激しさを物語っているが、人々が魔族の恐ろしさを忘れぬよう、あえてそのままの状態で残されているそうだ。
建物の元の形や色を想像することが難しいほど損傷がひどいが、夕空の下、重く寂寞とした中にも、不思議と崇高な雰囲気を湛えていた。
そもそもこの大聖堂は、暴走領主レインズから政権を取り戻した当時のルナリル国王、カンバートの命により建立されたものだという。ちなみにそのカンバート王は、あのアブレス王子とエステル王女の父に当たる人物である。
アブレスの剣は長らく大聖堂の管理下にあった。しかし、大聖堂を守っていた老神官が今から二十年ほど前に亡くなると、後を継ぐ者がなくなってしまい、その時から剣は騎士団の元に置かれるようになったということらしい。
大聖堂は無人のまま放置されていたが、魔族たちはそこにアブレスの剣があるとの古い情報をどこからか得て、集中的に攻撃したそうだ。
実際には、剣はサーチスワード邸と騎士団本部の敷地のどこかに隠されており、魔族たちは当然見つけることができなかったわけだが。
カーラからその話を聞いて、アルファもエクルも信じられなかった。
故郷ソーラにおいては、教会は村で最も尊く、村の象徴とも言える建物である。
サーチスワードの町では、どうして破壊された大聖堂を再建しないのか。後世への教訓として保存するというのもわからなくはないが――それ以前に、大聖堂を無人で捨て置いたのも信じられない。
けれど、アルファには思い当たる節があった。
ソーラレア族にとって、日々の生活と教会には密接な繋がりがあり、人々は何かあれば祈りに行き、または神官に相談したりするのだが、ルナリルの人々にとっては、必ずしもそうではないようなのだ。
その証拠か、これまでいくつかの町を訪れたが、教会は見かけなかった。もちろん、アルファが見てきたのは町の一部にしか過ぎないし、どこかにはあったのかもしれないけれど。少なくとも、町の主だった建築物としては存在していなかった。
この大聖堂も、相当な大きさではあるが、この町の人口からすると小さいだろう。これだけ大きな町では人々が一堂に会するのは不可能だし、何箇所かに存在してもおかしくはないが……何だかなさそうな気がしてしまう。
そのことはともかく、アルファたちがここに来たのは、単に大聖堂を眺めるためではない。
アルファは鉄柵の上部に目をやった。幸い平坦だ。もし先端が槍状の棒が並んでいたりしたら、躊躇するところだが――
「よっ」
アルファは両足で飛び上がり、鉄柵の上端を掴んだ。鉄柵は縦の線しかなく足を掛ける場所がないが、腕の力だけで難なくよじ登り、柵の内側へと飛び降りて、これまた難なく着地した。
「わぁ、アルファすごい……けど……」
外側から柵の縦棒を掴みながらエクルが困った顔をしている。
しまった。エクルにはアルファの真似は無理だろう。アルーラに鍛えられたおかげで女の割には力があるほうだが、まず、エクルが跳ねても鉄柵の上まで手が届かない。
アルファが踏み台にでもなるしかないか。
「待ってろ、今オレが戻るから――」
「あ、ここから行けるかも!」
エクルは柵に沿って時計回りに少し駆けた。柵のすぐ外側に、一本の木が生えているが、下枝は簡単に手が届く位置にあり、上枝は都合良く柵の内側に延びている。
つまり、木を伝って中に入るつもりか。
「登れるか?」
「へーきへーき」
言うが早いか、エクルは枝を掴み、幹に足を掛けて登り始めた。
アルファは子供の頃を思い出した。昔はよく一緒に木登りをしたものだ。エクルはおとなしそうな顔に似合わず得意だったが、それは今も変わらないらしい。身軽にどんどん登っていく。
大丈夫そうだ。アルファは再び大聖堂のほうに目を向けた。
アルファたちがここへ来た目的、立入禁止の札を無視してまで侵入したのは――
大聖堂の中を調べるためだ。アブレスの剣が元々あったのがここなら、何かわかるかもしれない。
「ぎゃーーっ!!」
不意に、まるで可愛げのない悲鳴と、大きな落下音が響いた。
アルファが驚いて振り返ると……エクルが地面に尻餅をついていた。
「いたた……」
「お、おい大丈夫か!?」
エクルは柵を越えることには成功したが、上枝から降りるのに失敗して落ちてしまったようだ。
「うん、何とかね……」
エクルは痛そうな顔をしつつ、どうにか立ち上がった。
アルファはつい、エクルのどんくささを失念していた。しかも今思い出したが、エクルは木に登るのは得意だが、降りるほうはてんでヘタクソで、毎回先に降りたアルファが落ちてくるエクルを受け止めてやっていたのだった。
――とりあえずエクルに怪我はないようなので、アルファはいつものように文句を言っておくことにした。
「ったく気をつけろよ! このドジが」
「そ、それより……これ、崩れてきたりしないかな」
エクルは心配そうに、廃墟の大聖堂に近づいて見上げた。
「たぶん大丈夫だろ」
既に崩れている屋根や壁を見れば確かに不安だが、今すぐこれ以上の崩壊が起き得るというほど危険にも見えない。今地震や竜巻でも来ればわからないが。
「ここで待ってるか?」
「ううん、私も行く!」
アルファとエクルは大聖堂正面の大きな壁穴から中に侵入した。
中は暗かった。屋根や壁が大きく崩落しており、窓もたくさん並んでいるため、日中ならばそこそこ光が注ぐだろうが、もう外も薄暗い。
持ってきた光玉で照らしてみると、やはり中の破壊具合もひどかった。
中央通路の両脇に置かれた無数の長椅子は、通路近くのものはほぼ粉砕されており、入り口側から奥まで等間隔に並ぶ太い円柱も、折れて真ん中がごっそりなくなってしまっていたり、大きな亀裂が入っていたりと、無傷のものはほとんどなかった。窓という窓は、全て硝子が割れている。
戦いの悲惨さを思うとまたいたたまれなくなるが、ここに来たのはアブレスの剣のためだ。
「あの剣はどの辺に置かれてたんだろな?」
「うーん、大事なものだったら奥のほうかなぁ」
アルファは通路に転がった瓦礫や硝子の破片に注意して進みながら、後ろを歩くエクルに忠告する。
「ここでコケたら血塗れだぞ」
「わかってるよ」
エクルの拗ねた声がおかしくて、アルファがもう一言言い掛けた、その時。
「アルファ。エクレシア」
名を呼ばれた。聴いたことのない、若い男の声で。しかもすぐ近くから。
「ここまでよく来てくれた」
アルファは光玉をかざし、警戒しながら周囲を窺った。エクルもまた、顔を強張らせてきょろきょろと首を動かす。
だが、ここにはアルファとエクルの二人以外、誰も存在しなかった。非常に天井が高く面積も広いこの大聖堂内部には、光玉の光が届かない所もあるが、声は耳元で聴こえたのに――いや、頭の中に響いたのか。
どういうことだろう。人の姿が見えないばかりか、気配さえ感じられない。アルファは驚き過ぎて、誰かと問う言葉さえ出なかった。
その正体のわからない声は、
「祭壇の所に行け」
とアルファたちに命じた。
「祭壇……?」
意図はわからないが、その声から悪い印象は受けない。何かの罠――とも考えにくいので、アルファは信じて従ってみることにした。
「……これか……?」
祭壇ならやはり一番奥のほうにあるはずだと目星をつけて、通路を進んできたところ、アルファたちは果たして白い石の台を見つけた。ただし、これも魔族たちの仕業だろうが、破壊されていた。土台からアルファの膝くらいの高さまでは残っていたが、それより上のほうは崩れ、大小の瓦礫となって周辺に転がっている。
あの声は一体、ここで何をさせたいのだろう。
「そういや、ソーラの教会じゃ、祭壇の下から光の書が出てきたな」
「じゃあ、この下にも何かが――?」
エクルとアルファが顔を見合わせていると、再びあの声が話し掛けてきた。
「その通りだ。祭壇をどかしてみろ」
アルファは光玉をエクルに預け、周りの瓦礫に気をつけながら祭壇の土台を横から押し、ずらしてみた。
祭壇の下は――石の床だ。何もない。
だが、ソーラの教会と同じだとすると。
アルファは四つん這いになり、手の平で床を撫でながら、どこか外れないかと探した。
と。
いきなり床が抜けた。
床の下は空洞か。まず体重を掛けていた左手の下の石が沈んだかと思うと、次の瞬間には床の崩壊が広がり――
「げっ!?」
「アルファ……!!」
アルファは落下した。




