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双星の光継者  作者: 明谷有記
第1章 召命編
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第25話 実力の差

忙しくて更新が遅くなりました。

 スプライガ騎士団の護衛たちに付き添われ、夕方前、アルファたちは無事にソーラの村に到着した。

 村の防護柵の扉を開けて中に入るなり、母ファミリアの駆け寄ってくる姿が目に飛び込んできて――アルファはそのまま抱きしめられた。

 アルファの首にしがみつき、帰ってきてくれて良かったと泣く母をなだめながら、アルファは胸が痛かった。今回の件でどれほど心配を掛けてしまっただろう。

 母はエクルの母グレースと共に、ずっと村の入り口近くでアルファたちの帰りを待っていたようだった。

 エクルはグレースの姿を見つけると、自分から抱きついていった。グレースは優しく抱き返し、ねぎらいの言葉を掛けた。

 事前にスプライガ騎士団から連絡が行っていたおかげか、それでも母はアルファが思ったよりは落ち着いていた。アルファから離れると、騎士団員たちの視線もおかまいなしに、父アルーラと抱擁を交わし、手を取って見つめ合いだした。

 が。

 後から出迎えに走ってきたアルファの弟妹たちは、そろって大泣きして大変だった。いつもは冷静で、下の弟たちを説得する立場のガンマまでもが号泣してしまい、なかなか収拾がつかなかった。

 そんな騒ぎでアルファたちの帰還に気づいた村の人々も、ぞろぞろと村の入り口に集まり、暖かく迎えてくれた。

 帰ってきた。やっと。

 泣き喚いている弟たちや、何があったと質問攻めにしてくる友人たち、無事を祝ってくれる声さえも何だかいろいろやかましかったが、アルファにはそれも喜びだった。

 ここが自分の生まれ育った場所なのだと、改めて実感させられた。

 四日も村から離れていたけれど、何事もなくて本当に安心した。

 スプライガの騎士団員たちは休憩もせずに早々にスプライガに戻っていったが、ルミナスはもちろん、ソーラの村に留まった。

 

 村に帰ってくるなり、アルファは父に校庭へと連行された。

 そこで、ルミナスと剣で勝負しろと言うのだ。

 ガフトンの町での戦いでアルファは瀕死の重傷を負った。傷が治っても、霊力の放出と共に消耗された体力はまだ完全には戻っていないというのに。

 相変わらず、厳しい父だ。父は腕組みをしてを光らせながら、気が進まないでいるアルファにうなずく。いいからやれと、無言の命令。こばめるはずもない。

 ルミナスは腰の剣を抜き、アルファに笑いかけた。

「いつでもいいよ」

と、不敵に――いや、無邪気に。とにかく余裕だ。

 アルファとしてもルミナスと戦ってみたいと思ってはいたが……ガフトンの町で彼が見せた強さは驚異的だった。自分の剣がどこまで通じるのか。

 いや、相手のほうが強いからこそ、より修行になるのだ。

 ただ、周りに見物人が大勢いるのはいただけない。もう学校は終わった時間だが、友人たちがおもしろそうだと群がってきたのだ。エクルや、弟たちもいる。村の暇な大人たちも数人。

 やりにくさを感じつつ、アルファも剣を抜き、両手で構えた。

 ルミナスとの間合いは五歩。

 ルミナスは右手に握った剣を、切っ先を下にしたまま少しばかり前に向ける。一見闘志のなさそうな、しかし隙のない、彼の構えならぬ構え。

 ただならぬ気配を発しているルミナスと向かい合っているだけで、アルファは威圧されてしまう。

 互いに動かぬまま、時間が経過していく。

 意を決し、アルファは先に仕掛けた。右上段に剣をかざし、ルミナスとの間合いを詰め、そして振り下ろす。

 ルミナスがそれを自分の剣で受ける。

 だが、一瞬だ。アルファの力がまともに伝わる前に、ルミナスは剣を横に流した。交わった互いの剣が離れる。

「く……っ」

 アルファが再び仕掛けるも、ルミナスは巧みな剣さばきでアルファの剣を逸らす。

 今度はルミナスが攻撃に回り、剣を振るってきた。

 アルファはそれを受けるが、ルミナスは次々に剣を繰り出してくる。一撃一撃はさほど強くはないが、とにかく速い。

 一方向から来た剣を受けている間に、他方向からも迫ってくるような――ルミナスは剣を一本しか持っていないのにそう錯覚しそうになるほどだ。

 それでもアルファは防いでいるが、辛うじてだ。軽やかで流れるようなルミナスの動きに、完全に翻弄されている。これでは、長くは続かない。

 アルファはいったんルミナスと距離をとり、劣勢の流れを止め、心を落ち着ける。

 そしてアルファは再度、攻勢に出た。

 

 ――結果は、アルファの完敗だった。

 アルファの仕掛けた四十三太刀は全て、ルミナスに受け流されてしまった。最後、思い切り力押しでいった一撃をいなされて、大きく体勢を崩したところ、眼前に剣を突きつけられた。

「勝負あったね」

 端整な顔に、余裕の笑みを浮かべての勝利宣言。アルファはぐうの音もでなかった。

「信じられねぇ……アルファに勝てる奴がいるなんて」

「いやー、驚いたなぁ」

「さすがサーチスワード騎士団の大隊長――ってとこかー」

「でもさー、すごい試合だったよねぇ」

「うん! こんなハラハラしたの久しぶりだわ」

 観衆たちがざわめく。その中で無言のまま立ち尽くしているエクルに、ルミナスが微笑みかける。

「どうでした?」

「あ、えっと……すごいですね。びっくりしました……」

 アルファに気をつかっているのか小さな声でぎこちなく言うエクルに、ルミナスはまた微笑した。

「それほどでも」

 アルファはルミナスに腹が立った。

 無理やり言わせるな。わざとらしい。

 負けた自分が情けなくて、口には出せなかったが。

「アルファ兄……顔怖い……」

 デルタの声にアルファはハッとした。気がつくと、目の前に弟たちが勢揃いしていた。

「アルファ兄! 元気出して!」

「負けてもカッコ良かったよ!」

「アルファ兄はもっともっと強くなるもん!」

「シロンはアルファ兄の味方だからねっ!」

 ……なんてかわいい奴らなんだ。兄貴冥利(みょうり)に尽きる。

 けど、なんか自分がますます情けないような気が……

「アルファ」

 びくり。父に呼ばれてアルファは体を硬化させた。

 まずい。こんな負け方をしてしまっては、どれだけ怒鳴られるかわからない。

 父は腕組みをしたまま、

「攻撃が雑過ぎるぞ」

と、一言。少し間をおいて、また言う。

「まぁ、思ったよりは良く動けていたか……」

難しい顔をしてはいるが、怒っている様子はない。

 ……父も、アルファがルミナスに及ばないのは百も承知だったのだ。それはそれで悔しいけれど。

「とにかく、今後もより厳しい修行を積まなければな」

 父は怒ってはいないが――その表情はあまりに真剣で、悲壮な決意に満ちていた。

「あ、ああ……」

 アルファは返事をしたものの……そんな父をかえって恐ろしく感じるのだった。

 ――父の言葉のように、予想よりは善戦したと自分自身で思っている。もっと一方的に、十数える間ももたずにやられてしまうと思っていた。

 だが。

 ルミナスは全力ではなかったはずだ。剣を交えている間常に、ルミナスの顔には憎らしいほどの余裕があった。

 アルファも本調子ではないが、それを差し引いても、やはり実力はルミナスのほうが数段上だろう。


 アルファはそのまま校庭で、ルミナスに剣の相手をしてもらうことになった。

 邪魔にならないようにと、弟たちを含め観衆たちはそれぞれ家に帰っていき、エクルは『腕の力を鍛える修行』の名目で、一人暮らしの老婆マリーの家の水汲みに向かった。

 周りに人がいなくなると、ルミナスはアルファに言った。

「正直驚いたよ。君がこんなにやるとは思ってなかった」

 褒めてくれているらしいが、力の差を見せつけられた相手から言われても、アルファは素直に喜べない。反発心さえ芽生えかけたところに、ルミナスがまたおかしなことを言った。

「君、たぶんうちの騎士団長と戦ったら勝てるよ」

「はぁっ? 騎士団長って、サーチスワード騎士団の一番上だろ!? 何でお前に勝てないオレが団長に勝つんだよ!?」

「単純な話さ。僕は騎士団長より強い」

 ――絶句。

 いたって真面目な顔で、当然のように言うルミナスに、アルファは一瞬閉口した。

「だ、だったら何でお前が騎士団長じゃねぇんだよ?」

「それはそう単純な話じゃない。人選には、騎士団での功績や経験も加味されるけど、僕はまだ騎士団に入って三年にしかならないし、大隊長になった時だって、『若過ぎる』って周りの反発が大きかったからね。ま、実績は近々団長を追い抜くと思うけど」

 ……自慢話か。

 アルファを褒めておきながら、実は自分の力を誇示している。

「君、これだけの腕があるのに、騎士団に入ろうと思ったことはないの?」

「え?」

 急に問われ、アルファは返答にきゅうした。

「……オレはこの村を守ろうと思ってきたし……自分の力がどの程度かなんて知らなかったし……」

 まさか、大騎士団の団長を倒すほどの腕前があろうとは、夢にも思わなかった。まぁ、騎士団の威信に関わるようなことをあっさり話したルミナスの言葉が本当なのか、もしかしたら、からかっているだけなのかもしれないと思ったりもするけれど。

 ルミナスは今度はアルーラに尋ねた。

「アルーラさんは、村を守るためにアルファを外に出さなかったということですか? 騎士団に入れようと思ったことは?」

「そうですね……もし、騎士団にルミナスさんのような手練てだれがいると知っていれば、アルファを預けたかもしれませんね」

 父は困ったような苦笑いを浮かべながら答えた。

「私は――若い頃サーチスワードの近くで下宿していたので、騎士団員たちに決闘を申し込んだことがありました。そうしたら、あっさり勝ってしまって……だから、子供を鍛えるには、自分が指導したほうがいいと思ったんです」

 初耳だ。父が都市部の大学に通っていたことは聞いていたけれど。

「父さん、騎士団と決闘って……」

「まぁ……私も若かったからな」

「――その時、自分が騎士団で身を立てようとは思わなかったんですか?」

さらにルミナスが訊くと、父はまた答えた。

「少しは考えましたが、亡くなった父が口癖のように、『家を守れ』と言っていましたから。私には兄弟もないですし」

「なるほど……」

 ルミナスは思案顔で呟き、それ以上は何も質問しなかった。

 それから夕食の時間までずっと、アルファはルミナスと手合わせしたが、ただの一度も勝てなかった。

切りのいい所で終えたら、またあまり話が進んでいませんね……

あと3話で第1章終えるつもりです。

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