読書好きの少年は、感情移入も人一倍。
………何度やっても不思議な気分だった。
ページを開いて、好きなキャラクターを思い浮かべる。
………あぁ、引き込まれて行く。
僕は、幼い頃から妙に大人びていて、冷静な子供だったらしい。
そんな僕に友達ができるハズもなく、読書だけが幼少の頃の唯一の趣味だったそうだ。
小学一年生の頃から、休み時間はは図書室で読書をしていたのを覚えている。
同級生達が外で元気に走り回っている声を聞きながら、僕は静かに読書をしていた。
二年生になったとき、もう一人図書室の住人が増えた。折れそうな位細くて、肌が雪のように白い、
………もの凄く綺麗な六年生の子だった。
僕は彼女を見てドキドキした。
今まで、僕と図書委員しかいなかった暗い図書室が、一気に明るくなった気がした。
そして、彼女が図書室にいる事に何の違和感も覚えなくなったある日、
彼女が僕に話しかけてきた。
彼女は去年大病を患い、ずっと入院していたそうだ。
もともとクラスでも目立つほうではなかった彼女は、「この入院のお陰で、すっかりクラスに馴染めなくなった。」
と言った。
僕は、初めて話しかけてきた彼女にドキドキしたが、
「そうなんですか。」
と、クールに答えた。
すると彼女は、
「君、変わってるね。まるで私より大人の人みたい。」
と言って笑った。
それから彼女は、よく僕に話しかけてきた。
何の本が好きか、どんなジャンルが好きか、どの作者が好きか。
僕がその質問に答えると、彼女はいつも
「大人だね〜。」
と、笑った。
その、いつもの会話の中に、僕が能力に気付くキッカケとなる会話があった。
「ねぇ、君は?」
「はい?」
「君はいつも、どんな風に本を読んでるの?」
「どんな風にって、普通にですよ。」
「そうじゃなくて、いつもどんな気持ちで本を読んでる?」
「……わかりません。何かを考えて本を読んだ事なんてないかも……。」
「ふーん、やっぱり大人は違うねぇ。………私はね、その本の中で一番好きなキャラクターの気持ちになって読むの。そうしたら、私もその本の中に入った気がして、凄く面白いんだ。」
「そうなんですか。」
「君は最後はいつもそれだねぇ〜。」
そのときは何気なく受け答えしたが、後から考えると凄く感心した。
その日から、僕も好きなキャラクターの気持ちになって本を読むようになった。
やがて時が経ち、彼女は小学校を卒業して、また図書室は暗い空間になった。
このときばかりは、さすがの僕も少し寂しさを感じたが、その事よりも、彼女から教わった本の読み方に夢中になって、寂しさは直ぐに忘れた。
そして、六年生のある日、僕の能力がついに目覚めた。
授業中に読書をしていた時だった。
いつものように本を開いて、好きなキャラクターを思い浮かべた時、
突然目の前が真っ暗になった。
僕はいつもでは考えられない程のパニックになり、地面を殴った。
すると、暗闇が一瞬にして見覚えのない街になった。
再びパニックになり、辺りを見回す。
すると後ろから肩をたたかれ、
「どうした?○×□?」
と、今読んでいる冒険小説の、僕の一番好きなキャラクターの名前を呼ばれた。
僕は慌てて後ろを振り返って、
「なんでその名前を知ってるんだ?」
と聞いた。
すると、僕に声をかけてきた筋肉質の男が、こう答えた。
「なんでって、それがお前の名前じゃないか。○×□!」
しばらく唖然となった。しかし冷静になり今の状況を見ると、街はまるで、小説を読んで僕が想像した街そのままで、僕の服装もいかにも冒険小説の主人公のようだった。
僕は自分の置かれている状況が怖くなり、
「帰りたい。」
と、心から願った。
すると再び目の前が暗闇になり、次の瞬間には元に戻っていた。
授業は普通に行われていた。
時計を見ると、暗闇に包まれる前から10秒も経っていなかった。
疲れていて、居眠りをしてしまったのだ。
と、考えて自分を納得させ、本を開くと、
もう一度、同じ体験をした。
こうして僕は気付いた。
僕には、本の中に入る能力がある。
その後の僕は、何度も本の中に入って自分の能力を確かめた。
僕の能力は、
「本を開いて自分の好きなキャラクターを頭に思い浮かべるだけで、その本の中に、その好きなキャラクターとして入れる。」
と言う物だ。
この能力を使い、どんなに長い時間本の中にいても、
「帰りたい。」
と願うだけで、元の世界の、それも、能力を使う前の時間に戻る事が出来た。
だが大変な事もあった。
本屋で立ち読みをして、
「あっこれ良いな」
と思ってしまうと、いつの間にかその世界にいるのだ。
お陰で僕は、読書ができなくなってしまった。
そしてある日、
家にあった、父の愛読書であるホラー小説を手に取った。
興味が湧いた。
ホラー小説の世界は、どうなっているのか……。
本をパラパラとめくり、死なない様なキャラクターを探して、本の世界に入っていく。
………何度やっても不思議な気分だった。
ここは、どこの場面だろうか。
何だか背中がゾクゾクする。
何か温かいものが体についている。
自分の体を見ると、
ナイフが刺さっている。
あぁ……………。
こいつも死ぬキャラクターか………。
「帰りたい。」
と思ったのに、
世界が変わらない。
僕は、
死ぬ………。
恐い、怖い、恐い、怖い、恐い、怖い。
血が体から出て行く。
意識が遠のく中、最後に母の顔を思い出した。
―――――――――――
「………貴方がいきなり倒れてから、もう十年よ?いつまで黙っているの?起きない。………お願いだから………。」
ごめん。母さん。
皆様お元気ですか。
来々と申します。
久しぶりに書いた短編。なんだか良く解らない物になりました。
次は頑張ります。
ご期待下さい。